第438話 バンナーマン城に行く!
“ケンゴ君の実家の事は~お母さんの方で調べて見るから~リンちゃんは学校に行きなさいな~”
セナにそう言われてリンカはいつもの様に登校する。
中学の頃は自分一人で抱え続けて深いトラウマになってしまった感情は母のおかげで、大丈夫とまでは行かないが、無理な感情を作る事は無くなった。
「リン!」
教室に入ると朝日を回避して、毎日早めに登校してくるヒカリが即座に声をかけてくる。
母親であるエイから話を聞き、一番に駆け寄って来たのだ。
「ヒカリ。おはよ」
「……ママから聞いたわ。大丈夫?」
親友の心配する表情に、リンカは前も随分と迷惑をかけたんだと初めて意識した。
「大丈夫だよ」
「ホントに?」
「うん」
今日はずっと一緒に居るからね、と親友の心遣いにリンカは微笑んで、過保護だなぁ、と返した。
出勤したセナはタクシー会社の書類庫にて無数の地図を開き、ケンゴのGPSが示した所を調べていた。
しかし、どの地図にもその場所は地名も村落も記載のない山奥となっている。
「直接行ってみるしかないかな~」
最初はGPSの誤認情報かとも思ったが、何度か時間を置いて着けなおしても同じ所を表情しているので、ケンゴはそこに居ることは間違いなかった。
「鮫島さん」
「社長」
会社の社長である初老の女性――堤下は珍しく倉庫に入りっぱなしのセナを気にかけて声をかけた。
「貴女は他県に及ぶまでの地理は細かに把握しているハズです。何を調べているのですか?」
「前にお客様に言われて行けなかった場所があったんです。二度もその様な事が無いようにと思いまして」
流石に個人的に調べていると言うワケには行かない。
「最近はネットでも地図を見れる時代です。それではダメなのですか?」
「なんだか、上手く調べられなくて」
セナはスマホのGPSが示す位置を堤下へ見せた。堤下は最初こそ誤認情報かと思っていたが、近くにある駅などの昔から変わらない目印を見て確信の眼を作る。
「……この場所へ行きたいと言うお客様のお名前を聞きましたか?」
「はい。鳳健吾と言う若い男性です」
「……鳳」
名前でなく名字の方を堤下は気にかける。そして、
「鮫島さん。本当にこの場所へ行きたいのですか?」
「ええ。絶対に」
セナの強い意思を宿す眼に堤下は、静止をかけても無駄になると悟る。
そして、棚の中にある最も古い地図を引き出し、近くの机の上に置いた。
「昔から、この場所はタクシー会社にとってはタブーとなっている場所です。行けるのは、この駅周辺を走行範囲に含めている『雛鳥タクシー』のみ」
ぱらぱらと、GPSの位置となるページを堤下は開き、セナへ差し出す。
最新の地図やネットでは山の一部となっているその場所は、堤下の出した古い地図には一つの里が記されていた。
「……『神ノ木の里』」
「身内以外の車の侵入は制限されている特別な区域よ。興味本位で訪れる事だけはお勧めしないわ」
LINE部屋『ママさんチーム』
セナ『皆~ケンゴ君の場所わかったわ~』
エイ『本当か!』
カレン『そっちは場所特定の資料が沢山あるからねぇ』
セナ『後で情報を送るわね~。結構覚悟が居る場所みたいだから~』
カレン『アイツ……どこで何やってんだ?』
エイ『予定通りに行かないモノだな! しかし、リンカの覚悟に比べれば越えられぬモノではない!』
セナ『そうね~ちょっと大袈裟な気もするけど~』
カレン『エイが絡むと何でもない事が大事になるな』
エイ『いつに行く!?』
セナ『明日~って言いたい所だけど~車じゃ入れない場所みたいなの~』
カレン『どういうこと?』
セナ『詳しくは調べられなかったけど~乗用車での侵入はダメなんだって~』
エイ『哲章に頼んでみよう! 管轄外ではあるが、何とかしてくれるハズだ!』
セナ『う~ん。リンちゃんの安全を考えるなら~強引な手はちょっとね~』
カレン『なら、私が送るよ』
セナ『いいの~?』
カレン『私は中型二輪の免許持ってるし、日帰りなら問題ないっしょ』
エイ『くっ! 何も出来ない身がこんなにももどかしいとは!』
カレン『適材適所だって。まぁ、立場的にも私の方が動けるし。セナもエイも明日は仕事でしょ?』
エイ『撮影の下見で、バンナーマン城に行く!』
セナ『そうね~でも、カレンちゃんも仕事じゃないの~?』
カレン『私は融通の効く店長業だから』
セナ『職権乱用~』
エイ『なら、この件は任せる! 何かあったら連絡を!』
カレン『エイは日本に居る日数を増やしなよ。国際電話ってめっちゃ通話料かかるんだからさ』
「って事で~明日はカレンちゃんが迎えに来るからね~」
「……エイさん……どこを目指してるんだろう」
学校からは無理やりヒカリと哲章さんに送ってもらって帰宅すると、母は話し合って決めた事を教えてくれた。
そのLINEの流れを見て、本当に楽しそうな交友関係だなぁ、と感じる。
「ケンゴ君に言うことは決めた?」
「……」
母の問いに言葉はすぐには出来なかった。けど、やることは決めている。
「……文化祭のチケットを渡す」
あたしが、そう言うと母は本当に嬉しそうに抱きしめてくれる。
「リンカ。何があってもこの場所だけは安心して帰って来れる場所だからね」
「うん……」
母のその言葉にあたしも抱きしめ返した。
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