第428話 おお! 離ぁせぇぇ!!
人はスタートをなかなか切れない生物なのだ。
何かやろうと決めていても、何となく行動を起こせなかったり、後回しにして数日経っていた経験は沢山の人があると思う。
理由はわからない。しかし、何かがキッカケでスタートを切れれば、そのままゴールまで駆け抜けられる事も多い。
そんな感覚を――今、彼女がキスをしてきたのも同じ事だとわかる。
「!!」
足がもつれて倒れた彼女を受け止めた事で、リンカの中の何かがスタートしたのだ。
倒れた状態だったので避ける事は出来なかった。そのままリンカが重ねてくる唇を受け止める形となる。
「――――」
自分の感情を相手に伝え、相手の感情を読み取る様な長いキス。不思議と無理矢理引き剥がす様な手段は取れないと思える程に心地よい感覚が全身に伝わる。
あ、少し脳みそが官能的になってきた。オレのオレが戦闘態勢になる前にリンカを離さ――
「…………」
少し強引に肩を掴んで離そうとしたらリンカの方からゆっくり離れた。そして、顔は赤い。それは羞恥心と言うより感情に酔っている様な溶けた眼をしている。エッロー。
「……する?」
オレの中の恐竜時代に隕石が墜ちる程の破壊力のある“する?”に理性がぶち壊れそうになる。
今までの誘惑で一番、本能を引き立てるリンカの火照った姿。
鎖を引きちぎる獣。海から上陸するゴ○ラ。ワームホールを通って現れる侵略艦隊。そこから出撃するエースパイロット(悪魔のオレ)。
今までの退けてきた怪物どもが一斉に眼を覚ます。やべぇ……これは
ジジィ。光の国からウルト○マン。
迎え撃つ!
ドガァン! バガァン! と星と
「リンカちゃん。それは……君の望む形じゃないよ」
「……お前にとって今のあたしは……どう見える?」
返答次第ではまたキスの出来る距離までリンカが顔を近づけてくる。
凄く……エロいです。と、言えばリンカは嫌悪の眼を向けて冷静になってくれるだろうが? 答えはNoだ! 今の状態のリンカは一種の
すると返答に口ごもっているオレを見てリンカは不安そうな表情を作る。
「……あたし……魅力ないかな……」
「! いや! そんな事はないよ! 絶対に!」
すると、パァ、と嬉しそうに微笑む。可愛ぇぇ。エロくて可愛いとか最高――じゃなくて! なんで自分から
ジジィの銃が破壊され、ウル○ラマンがスペシュウム光線で競り負け、防衛艦隊が数隻落とされ、エースパイロット(天使のオレ)の機体はファン○ルに片腕を持っていかれた。
やっべぇぇ!! これ以上は下手な事言えんぞ!
オレは冷静に無限のワードから単語を組み立てて言葉を選ぶ。
「……君が思っている行為に関してオレの思いは違う」
「……何が違うんだ?」
「……正直に言うと、君の胸を見てた」
「今さらだな」
「可愛いと思ってる」
「ん……ありがと……」
「きっと……“普通”なら、ここまで君が気持ちを伝えてくれたなら、それに応えるべきなんだと思う」
「…………」
ここはもうキチンと言っておかなければならない。オレの理性が尽きる前に!
「でもオレは、君の事を快楽の対象として傷つけたくない」
それは遠回しに、愛する事が出来ないと言う発言だ。リンカならきっと理解してくれるハズ。
これで関係が気まずくなっても良い。一時の感情に流されて後になって酷く後悔するより何倍もマシだ。
「…………わかってる。お前はそう言うヤツだ。でも……」
そして、リンカは至近距離でオレに告げる。
「そうだとしても……あたしを持って行ってくれてもいい」
“あんたさ、何怯えてんの?”
オレの心を突いたビクトリアさんの言葉が思い起こされる。
“一人を愛したまえ。誰にでも出来る事だ”
帰り際に出会った社長の言葉は今がその時だと言っていた。
“この件はこれで終わりじゃない。コレは幾度に変異した後だった。つまり、どこかに“原種”が存在する。その“対抗”を息子に――”
「リンカちゃん」
オレは両手を広げて、リンカを優しく抱きしめる。彼女は受け入れられたと思ったのか身を寄せて来た。
「オレは君を護りたい。だから、今はこれが精一杯なんだ……」
「…………」
リンカは抱きしめられた状態で強くオレの服を掴む。納得が行かないのは分かってる。でも……オレの事を全部知れば……君はこの時の事を絶対に後悔する。
そんな気持ちだけは君に背負わせたくない。
「…………離せ」
細いリンカの言葉にオレは抱きしめを解除。彼女は身体を起こし、オレの上からも退いてくれた。オレは上半身を起こす。
「一体……」
「え?」
「一体! どうなってんだ!」
リンカがぶちギレた。
「あたしが……あたしがっ! ここまで……くっぅ……ううう! していいって! いいのに! もー! もー!」
「わっ! ごめんごめんっ!」
子供の駄々のように半ベソでぽかぽかと襲いかかるリンカにオレは両手でガードするしか抵抗する事が出来ない。
あ、懐かしい。昔のリンカの怒り方だ。今では殺意が混ざる事が多いが、純粋な怒りだと今でもこうなるのね。
「ハッ!」
ぽかぽかアタックの一瞬の隙を突いて、オレはリンカを抱きしめホールドで拘束する。
「なっ! おお! 離ぁせぇぇ!!」
「大丈夫! 大丈夫! 落ち着いて! ほら、深呼吸! 吸って! 吐いて!」
暴れる猫を抑える感覚に近い。
リンカは何とか力強くでオレの抱きしめから脱しようとしていたが、次第に抵抗が弱くなる。
「…………」
しばしの沈黙。今、リンカがどんな感情なのかは流石にわからない。冷静にオレの言葉を受け止めてくれたと思いたい。
「……だから好きなんだ」
オレの胸に顔を埋めながらリンカが呟く。
「いつも……あたしを傷つけない様にしてくれるから」
「リンカちゃん……」
「……離せ」
オレが抑え手を解くと、リンカはゆっくり離れる。まだ顔は赤いがだいぶ落ち着いた様子だ。
すると立ち上がり部屋の扉へ向かう。
「下着着てくる」
「あ……う、うん」
どうやら一度帰るらしい。その方がオレも
「……知らないからな」
「え?」
「今のが……最初で最後だったかも知れないからな!」
リンカは後ろ眼で顔を赤くしてそう言うと部屋から出て行った。
「…………未来のオレ。この日の事を後悔してるかい?」
だからお前はまだ童貞なんだよ。と、野性から護られた
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