第392話 オモチャじゃないんだぞぅ!
「ようやく……ようやく、我が手に来たかよぉ!!」
女郎花が会社凸してきた次の日の土曜。ヤツは飛行機に乗って日本を出た様で一安心。
ようやく周囲が平和になったオレは前から仕入れていた情報を頼りに近くの電器店へ開店と同時に足を運んだ。
すると、どうだい。遂に……遂にオレの目の前にPS5が現れたぞ!
販売されてから二年あまり。品薄による品薄で、それさえも転売ヤーに横取りされ、定価の倍以上の値で奴らは市場に売り出す外道だった。
しかしっ! 目の前で店頭販売されているこの光景をオレは夢に見るほどに待ちわびたモノ! いや……全、プレステユーザーが望んだ未来なのだ!
PS4の完全な上位互換! 最近はどんどんグラフィックが良くなるゲームを最新のスペックで堪能するにはもはや必要不可欠! 何よりロードが速い!(←ここ重要)
「少しバージョンが上がって値段も上がっているが……問題なし!」
ザマァ見ろや転売ヤーども。お前らの持つPS5なんざ誰も買わねぇぜ! だって目の前にあるんだもん!
「すみませーん。PS5のディスク版くださーい」
「いらっしゃいませー。あれ? ディスク版?」
おや? 何だか店員さんの様子が……
「あー、店頭のソレ売り切れてるんだ。昨日入荷したんだけど、すぐに完売しちゃってね。在庫切れの札張り忘れてらぁ」
「なん……ですと……」
「次は一週間後くらいになるかな。予約しとくかい?」
「とほほ……」
オレは手ぶらで帰路についていた。
あれから近場の電器店やゲームショップを数件回ったが……全部空振りに終わった。
そりゃそうか。転売を買わずにじっと待っていた人の方が多いのだから、店頭販売が始まればすぐに売り切れるに決まっている。
「けど、前と違って時間を置けば手に入るだけマシか……」
前は先行きが見えない抽選販売を勝ち取る必要があったが、今は待てば手に入るのだ。もう少しだけ辛抱しよう。
「今日は虚無って適当に映画でも垂れ流しにするかなぁ」
PS5のセッティングに一日を費やす計画が頓挫したので、虚無な一日を映画でも観ながらだらだら過ごそう。
「どうした? ラフ画になってるぞ」
「あ、リンカちゃん。おはよ」
「もう昼前だけどな」
アパートに帰ってくると、階段を降りてくるリンカと遭遇。それなりの服を着ており、どこかへ出かける様だ。オレは少しだけラフ画を解除。
「実はPS5を狙いに行ったんだけどさ。売り切れてた……」
「そう言えば、クラスの男子もそんな事言ってたぞ」
ふむ。社会人よりも高校生界隈の方がその手の情報網は横に広がる分、耳に入るのは早いご様子。
「でも、今度は待てば手に入るんだろ?」
「まぁね。リンカちゃんはヒカリちゃんと出かけるの?」
「あー、まぁ……そんなトコ」
眼を少し横に泳がせるリンカ。昔から彼女は隠し事があると眼を横にすると言う分かりやすい癖がある。本人は気づいていない。
それを利用してオレとセナさんは、嘘を識別できるのでその癖を黙っているのだ。
「オレは一緒に行かなくていい?」
「い、いいよ! 別に! もう、あたしも子供じゃ無いんだから! 来なくていい!」
オレは内心、ガーン。そりゃそうだよなぁ……。誘われてもないのに、ちょっと図々しすぎたか……
「じゃ、じゃあ、あたしは行くから! 後、お母さんは寝てるから、ゲームするなら音を小さくするかイアホンつけろよ」
そう言ってリンカはそそくさと歩いて行った。
『なんじゃ。そんな事か』
オレはサマーちゃんにある頼み事をする為に連絡を取っていた。
すると電話越しで、オレの様子がおかしい事を追求されてそのまま僅かな時間の中で起こった事を打ち明けたのである。
「いや……そんな事って言ってもさ。まぁ……うん。リンカちゃんも年頃だし、隠し事の一つや二つはあるよ。うん」
オレも相当な隠し事を持ってるし、人の事言えない。
『あんまり気にするでない。そう言うのは、大概はブラのサイズが合わなくなって買いに行くとか、そんなトコじゃからのぅ』
「うわぁ。めっちゃありそうな推論」
あの実りはまだ成長中なのか……。しかし、彼女はセナさんの遺伝子を継ぐ者。同じくらいになる可能性は十分にある。
下着関係なら仕方ない。しかし、それならセナさんと一緒に出ても良いのでは?
ちなみにセナさんは本日はお休みらしく、睡眠欲を満たしている最中だ。
『リンカ嬢の事は置いといて良かろう。それよりもフェニックスよ、お主はPS5が欲しいのか?』
「まぁね。今日はそのセッティングをして、夜にはそのグラフィックを堪能しようと思っててさ」
それがいきなりコケたワケなので、今日は考えるのを止めて映画を垂れ流ししながら虚無を過ごそうかと思っている。今もラフ画像姿でサマーちゃんと通話しているのだ。
『それならば、わしにアテが無い事もない』
「えへぇー?」
『PS5じゃな。本日中に取り寄せる事も出来るぞ』
その言葉にオレの作画に色が一気に戻る。
「ほんと!? いやっ! それぇ! マジィ!?」
『どんなテンションじゃ。基本的にわしに手に入らないモノは無い』
スゲー! 流石は『ハロウィンズ』の日本支部リーダーだ。サマーちゃんと知り合いで本当に良かったぁ!
『じゃが、タダでは無いぞ』
「全然いい! 購入資金はこっちで持つからさ!」
『金は別にいらん。タダでくれてやるわい。わしの要求は今日一日、こちらを手伝いする事じゃ』
なんだそんな事か。全然問題ない。今日にPS5が手に入るなら、何だってやってやりましょう!
「いいよー。今からそっちに行くね」
『うむ。ユニコ君『Mk-VII』を準備しておく』
と、通話が切れた。
PS5を目の前にしてすっかり忘れていた。ハロウィンズには色々とヤベータイプのユニコ君が居るってことを。しかも、『Mk-VII』って……前よりもバージョンアップしてやがる! トニー・○タークみたいにポンポンオーパーツを造りなさってもう! オモチャじゃないんだぞぉ!
「これは試練だ。神がオレを試しているんだ……PS5を持つべき相応しい男かと言う事を!」
嫌なら予感しかしないが……まぁ死ぬような事は無いだろう。
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