第230話 俺の彼女に何か用ですか?
ウィーンとUFOキャッチャーのアームが動く。見る角度によって距離感が変わるので、狙った獲物を取るためには少しでも位置を移動するのが普通だが、彼女は定位置から全く動く気配がない。
「……」
少しだけ目線がアームを追うように顔が動く。流石に見ずに捉える事は不可能である様だ。
そして、狙い済ましたユニコ君のヌイグルミ(クリスマスバージョン)に向けてアームを降下。その胴体を綺麗に掴むと、ぴろぴろぴろ、と言う筐体音と共にユニコ君は運ばれて行き、取り出し口へ落ちる。
「…………」
鬼灯はユニコ君を取ると、じっと5秒ほど見つめて横に置く。残り5回(500円は一回おまけ)。
そして、5回ともユニコ君をゲットし、中は空っぽに。
ちなみにずっと無表情で機械の様に無言。4回目くらいでギャラリーが寄ってきて、パーフェクトを決めた時には、おぉ~、と声が上がった。
ツイッターに『美少女がユニコ君を完全捕獲ww』と言うUFOキャッチャーに向かう鬼灯の横顔がアップされた。
「……」
鬼灯は満足しているのか全く解らない。無表情で、檻の中から開放したユニコ君達をじっと見ている。
店員さんが持ってきた袋に六体のユニコ君を入れると、一仕事終えた様子でゲームセンターの中へ。そこへ、
「な、なんだとぉ! ユニコ君が! クリスマスバージョンがぁ! 全部逝かれた!?」
「じょ、城ノ内のアニキ! 急に走り出してどうしたんですか!?」
さっきのヤクザが戻ってきた。ツイッターを見たのだろう。アレだけユニコ君に執着しているのだから、検索タグに『#ユニコ君』と常に付いているのかもれない。
「だ、だが……急いだ甲斐はあったぜ……」
ヤクザは鬼灯の持つ六体のユニコ君を見る。彼の目にどう映ったのかは知らないが、懐に手を入れながら彼女へ近づく――
「すみません。俺の彼女に何か用ですか?」
ヤクザが何かをする前に俺は鬼灯を庇うように間に入った。
周囲が少しザワつく。
城ノ内が懐に手を入れて鬼灯に近づく様は、まさにユニコ君を奪おうと見えただろう。
そこへ、彼氏と名乗る金髪君が参上。取り巻きは見ていることしか出来なかった。
「ニィちゃん……その子の彼氏か?」
「そうだけど。その筋の人が一般人に手を出して良いのか?」
「ちょっくら事情が特殊でな……」
城ノ内は懐から、バッ! と手を抜く。ノリトは思わず身構え、例え武器を出しても怯まず叩き落とすつもりで集中する。
「お嬢さん!! 言い値でユニコ君売ってくれ!」
「…………」
場が静まり返った。工藤だけが額に手を当てている。城ノ内が出したのは値段が空欄の小切手だった。
「ニィちゃんは、お嬢さんの彼氏だろ? 頼む! 説得してくれねぇか!?」
「あ、いや……その……」
嘘です。なんて言えば話が拗れそうだった。背後の鬼灯からは何の感情も感じられないので、何を思っているのか全くわからない。
「おじさん、ユニコ君好きなの?」
鬼灯の言葉に、勿論だ! と城ノ内は元気に返事をする。
すると、鬼灯は袋からユニコ君を二つ取り出すと城ノ内に手渡した。
「あげるわ」
「な……い、いいのか……? お嬢さんのユニコ君だろ? 一つ10万で買うぞ……?」
「ユニコ君は皆のマスコットでしょ?」
「な……なんて……なんて崇高な精神! 名前……いや! お名前を聞いてもいいですか?」
「鬼灯未来」
「おい……」
名乗るなよ。とノリトは突っ込みたくなった。
「鬼灯未来……嬢ちゃんか」
と、城ノ内は自分の名刺を懐から取り出した。
「俺の名前は城ノ内。困った事があったら何でも頼ってくれ! 同じユニコ君を思う者同士……必ず駆けつけると約束するぜ!」
「わかったわ」
鬼灯は城ノ内から受け取った名刺を見ると、やっぱりヤクザだった。
「工藤! 真空パックを買いに行くぞ! ユニコ君が汚れる前に永久保存する!」
「それ、ユニコ君死んじゃいませんか?」
「お前は本当に何も知らねぇんだな! いいかぁ? ユニコ君は不死身なんだよ! そこん所、みっちり説明してやる!」
「藪つついちまったかぁ……」
ヤクザ二人、一人は大変満足して歩いて行った。
ツイッターには『美少女がユニコ君でヤクザと和解ww』と、ユニコ君を手渡す鬼灯の写真がアップされた。
「なんか……余計な世話だったな。すまん」
俺は別に出ていかなくても、鬼灯一人で解決できたと謝りを入れた。
「そんな事が無いわ」
「え?」
「恐かったわよ」
そうは言うが、ずっと無表情が固定されている鬼灯の様子は恐がっていた様には感じなかった。
「七海君が前に立ってくれたから冷静になれたわ」
「そ、そうか……」
本当に感情が読めない。今も無表情で感情も無だし……声色も常に一定だ。
「一つ、聞いてもいい?」
「……どうぞ」
「何で彼氏って嘘をついたの?」
思った事をストレートにザクッと言ってくるんだよなぁ。
「ああ言う方が関係性としては拗れにくいんだ。深い関係だと思わせる方が会話に割り込めるだろ?」
「そう。ありがとう」
全く感情の無い“ありがとう”を頂戴しましたよ。なんか、コンピューターで文字だけを音声で流してる感じだ。
「また明日ね」
そう言って鬼灯はトコトコとゲーセンターの中へ行き、弾幕ゲームの筐体に座ると100円入れてゲームを始めた。
「ギャップが凄いんだっつーの……」
画面を覆うような弾幕を川を流れる木の葉の様にスィーと避けてボムを決めている。その様はAIがデータ収集をしてる様にしか見えない。
「あー、ノリトだ」
去ろうとしたその時、背後から聞き覚えのある声がかかった。振り向くとそこには――
「……なんだ。ミサキか」
元カノのミサキがイカした外見の男と腕を組んで立っていた。
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