Postscript――あとがき
あとがきです。
ただでさえ筆不精。こういったものはどうにも苦手なのですが、某所で見かけたアンケートにいわく、無いよりはあったほうが良い派が大差をつけていたので、こうして一筆したためてた次第です。長いものには巻かれろ。ビバ・デモクラシー。
とはいえ普通に書くのもあれなので、どうせならと、映画でいうところのメイキング方式を試してみようと思います。
そういった経緯からどう転んでもネタバレに直結するため、物語は後ろから読む派の方は、このあとがきだけ飛ばしてもらえれば、幸福度が向上するかもしれません。
【“デュプレックスの起源”】
このお話は当初、エロ小説でした。
のっけからなんだと訝しみたくなるでしょうが、事実エロエロだったので申し開きのしようもありません。もっといえば、遠く上海はサンボーン社が手掛けた、ドールズ・フロントラインの二次創作でした。
エロを書けば、文章力が磨かれる。半信半疑で試してみれば、すけべ心に火でもついたのか1週間あまりで12万ページもの巨編を書き上げてしまい、ふと我に返る。
そこに書かれていたのは、AIとは? 機械と人類の違いとは? 軍事および警察活動におけるロボット兵器の展望とは? それらの深遠なテーマを彩る無数のアクションたちと、登場人物の心理的葛藤。それとエロ。
本来のテーマは自然消滅し、二次創作と称するにはオリジナル成分が多すぎる。だったらいっそと単品作品に大きくかじを切ることになったのが、本作となります。
【“舞台背景”】
リオ・デ・ジャネイロと名指ししてる以上、どこの国が舞台なのかは明白ですが、そもそもが人型ロボットがぽてぽて歩き回ってるような世界観。そのため作中内では、あえて無国籍風が貫かれています。
ロサンゼルスと称しながら日本モチーフの謎世界を演出してみせた、ブレードランナーのようなものですね。
【“メインキャラクター”】
ラセルとマリアの主人公コンビの性格は、面白いぐらいに初稿から変わっていません。
ハードボイルドこじらせ気味な特殊部隊上がりの刑事と、最新鋭という割にはどこかズレてる能天気ロボット。これらの設定は実のところ、SF犯罪サスペンスだった頃の名残りでもあります。
世界観をつらつら書き連ねてもとっつきにくいだけ。かといって最初に説明を挟まないと、何がなんだか分からない。最終的には両者を適度に混ぜ合わせつつ、問答無用で状況を動かせるポスト・アポカリプスものへと変質していったわけです。
気の合わない相棒同士、一つの体に閉じ込められてという二心同体の設定も当初からありましたが、最初は大オチとして使われる予定でした。
残念だったなトリックだよと真犯人にぶちまけるよりも、どう考えたって二心同体というシチュエーションそのものが面白い。ラセルが登場時点ですでに故人なのは、出来るだけ早くこの設定を前に出すためのやむを得ざる処置なのでした。
【“反乱”】
被造物が生みの親に逆らうという展開は、それこそロボットという言葉が発明されるはるか以前より繰り返されてきた、もっとも原始的な物語の形式でもあります。
ロボットをどのように描写するかについては、おもに2つの潮流があり。ひとつ目は、とことん擬人化を果たすこと。
本作の原点のひとつでもあるドールズ・フロントラインをはじめ、デトロイト・ビカム ヒューマン、スピルバーグのAIやアイ・ロボットなどが代表格でしょうか。そういった人類のカリカチュア、寓話としてのロボット像と対をなすのが、思考の差異者としてのロボット。すなわちもう少し現実よりの設定です。
人類的な文脈とは縁のない、どこまでいっても機械的な価値基準で動くAI像。2001年宇宙の旅を皮切りに、ターミネーター1作目やエクス・マキナなどがそれに当たるでしょう。
デュプレックスでは両者の中間、人になるように命じられた人在らざる者たちの葛藤がストーリーの一翼を担っています。
【“ハードウェア”】
現実との地続き感をキッチリ演出できなければ、どんなSFもあっさり嘘くさくなってしまうものでして。デュプレックスの人類は、宇宙太陽光発電システムの建設を足がかりに月まで入植地を広げてる設定ですが、本編はあくまで下から見たSF。すなわち庶民たちのサバイバルが主題になっています。
出来るかぎりオリジナリティをと努めましたが、現実には、多くの部分で往年のSF作品から引用する形になってしまいました。
マリアの銀糸の右腕は、CYBERPUNK2077のモノワイヤーが元になっていますし、やったぜこいつはオリジナルだと狂喜乱舞したたフード・プリンターにしても、今にして思えば、無意識でスタートレックの影響を受けていたかもしれません。
そういったサブカル知識の悪魔合体が、本作の根底には流れてるわけです。ただし銃器描写は別。あれは単なる趣味です。
【“サブキャラクター”】
正直に申すと、こんなに殺すつもりはありませんでした。
どのキャラクターもその散り様については悩み、またへこまされたものです。ですがポストアポカリプスという舞台背景、転じて生と死という作品全体のテーマからしても、避けては通れなかったのもまた事実。
そうしてふと気がつくと死屍累々。とりわけペトラについては、最後の最後まで悩み抜くことになりました。
エンディングは最初から決まっていたものの、誰が脱出するかについてまでは、土壇場まで決めかねていました。結果的にマリアにお鉢が回ってきたわけですが、当初の有力候補はペトラかソフィアのどちらかでした。嘘偽りなく、夢に見るほど悩み抜いたものです。
ですが機械と人の物語である以上、正体不明のマリオロイドからいっぱしの相棒へと変わっていたマリアを認め、送り出す。それが一番しっくりくると感じたのです。
ちなみにシスターの本名については、あれこれ考えたもののシスターはシスターだしと、得体のしれない感がある現在の形に落ち着きました。
【“エンディング”】
愛する者を守るためなら手段を選ばない。互いに嫌悪しつつも、根っこの部分はまるで変わらないラセルとシスターの対立が、最後まで物語全体を引っ張っていたような気がします。
対照的な結末をむかえた両者ですが、ストーリーうんぬんについては、どう語っても手前味噌にしかならないので割愛するとして。問題は、エンディングよりもエピローグの方でしょう。
それでも未来は続いていく、そういった意味ではこれ以上ないハッピーエンドにしたつもりですが、見方によっては露骨な次回予告そのもの。実際問題1.0とあるように、せめて2.0ぐらいはと、欲望がだだ漏れた結果がこちらになります。
あいにく生まれもっての遅筆でして、このデュプレックスにしても12稿もの下書きを経て、やっとの思いで作り上げたもの。1からの創造じゃなくすでに確立された世界観があるわけで、もうちょっと早く書き上げられるといいのですが・・・・・・今すぐは無理でも、ふとした拍子にやってくる。そのようなペース配分でよければ、これからもお付き合い頂ければ幸いです。
デュプレックス・ハートビート――マリオロイド1.0 野寺308 @177
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