第17話 Love Affirmation 愚痴
「なんで喧嘩になるんだよ」
呆れ口調で見つめてきた芹沢に、宗方はげっそりと肩を落として見せた。
「んなもん俺が訊きたい」
どうしてこうも上手く行かない。
避けられ続けて、業を煮やして動いた結果がこれだ。
テーブルに突っ伏して、重たい溜息を吐く。
「わざわざ俺と間宮が気を回してやったのに」
「分かってる、感謝してる、恩に着る」
「わー・・・すっげ棒読み。その様子じゃ誤解は解けなかったか」
「よけい絡まった気ぃする」
「何やってんの」
「・・・ほんっとにな・・・ほっとしたり、焦ったり、悔しかったり。橘のそばにいるのすっげ疲れる」
身勝手なもので、宗方が女友達と飲みに行くような感覚で、美青が別の男と出かけているかも、と思ったら、途端に相手の男を殴りたくなった。
実際のところは、そんな男友達存在しなかったので、安心したわけだが。
同じフロアで過ごす数時間のうちに、宗方が知り得る美青の情報といえばごく僅かだ。
それでも、限られた時間の中で、精一杯アプローチしているつもりなのに。
ばっさり”仲良くは無い”と切られた。
しかも、誰と付き合ってもいいとまで言い放たれた。
悪意がないと分かっているからこそ、悔しかった。
打てば響く相手だとは思っていない。
思っていないけれど。
知れば知るほど、この状況に打ちのめされる。
今、美青に告白した所で、ばっさり切られて終わるに違いない。
それならせめて、避けられまくってまともに会話すらできないこの状況をどうにかしようと思ったのに。
可愛げのない態度と、全く見当違いの誤解をしている美青に、ついカッとなってしまった。
「・・・まーこれほど余裕のない宗方ってのも珍しいなー。お前もーちょっとスマートに恋愛するタイプだったもんな。あれだろ?これまで、ハイ召し上がれって据え膳女子としか付き合ってこなかったんだろ」
「そのどーしょーもねぇ喩えどーにかしろ、芹沢」
「あれ、やっぱり当たり?」
「うるせぇよ!」
確かに、自分に好かれようと一生懸命努力する女の子が可愛く思えて付き合ってきた。
だから、心変わりされてもすぐに気づいてしまうのだが。
「手がかかるし、面倒くさいし、疲れるけど、橘がいいんだろ?」
「・・・」
「もうやめる、って去年の年末俺の合コンにくっついて来た時も、結局誰とも繋がらなかったしな」
「・・・」
「凹んで悩んでイラついてるとこ悪いんだけど、橘に会いに来たのって、元同僚だろ?」
「それがなんだよ?」
「気にならないのか?」
「はあ?同僚だろ・・・別に」
「橘、前の会社でもシステム関係の部署だったんだぞ?ほぼウチと同じ様な環境ってことだろ」
「・・・」
ウチと同じ様な・・・?
それは、つまり。
「ずっと前に別会社に異動になった元同僚に、わざわざ挨拶して帰るなんて、おかしくないか?」
「橘に会いたくて来たってことか!」
「まあ、普通はそう思うよなー」
うんうん頷く芹沢を追い越して、宗方が足早に会議室を出る。
「相手の男見定めてやる!」
「ちょっと待ってって!さすがに突っ込むのはまずいって、宗方!」
「俺だってそこまで馬鹿じゃねぇよ!」
「飛び込む勢いで立ち上がった人が何言ってんの」
「うるせぇな。ちょっと離れた所から、見てみるだけだよ」
「見てみるだけで済めばいいけど・・・頼むから、エントランスのど真ん中で告白とかやめろよ?すっげ面白すぎてネタになるから」
「しねぇよ!」
したり顔で付け加えた芹沢の肩を小突いて、エレベーターに向かう。
無人のエレベーターに乗り込むなり、芹沢が声を潜めて囁いた。
「色々きつい事言ってごめん、お前の事が好きだから、空回っちゃうんだよ、俺」
「なんだよそれ」
「お前が橘に告白するときの台詞ー」
「余計なこと考えるなよお前は!」
「あの子には、面と向かってはっきり言った方が良いって。間宮も言ってただろ?ニュアンスで伝わる様なタイプじゃないんだよ」
「肝心な話する前に割り込んできたのお前だろーが!」
「それは俺のせいじゃないし、ちゃんと謝っただろ。
捕まえてすぐに告白しなかった宗方が悪いよ」
「物事には順番があってだな・・・」
「せめてまともに口訊ける状態に戻ってから、とか欲出したんだろ」
「ほんとむかつくな芹沢。お前今すぐ彼女と喧嘩しろ、大喧嘩。ちったぁ痛い目見ろや」
「・・・大人げないにもほどがあるよ、宗方」
こうしてぶつくさ言い合いをしながら、エントランスに向かったふたりは、美青の後輩とご対面する事になり、宗方の嫉妬は無駄に終わった。
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