第16話 Love Affirmation  白熱

受け持っている仕事の進捗状況などを報告し合う、定例ミーティング。


フロアを無人にするわけにはいかないので、数人ずつ時間を分けて、週に一回程度行うその会議は、曜日も時間帯もバラバラだ。


急にエラー報告が入ったり、データ集計依頼が入る事もあるので、日時指定したくても出来ないのが現状だった。


昼下がりのフロアは比較的落ち着いていて、急な依頼も入っていない。


他部署との連絡会議に出ている、上司組と、パソコン操作のヘルプに駆り出された数名を除けば全員在席中だ。


各自、通常業務を勧めつつ、資料整理やら、パソコン内のデータ整理を行っていた。


暇な時に纏めようと思っていたセラー修正の報告書を整理していると、芹沢が近づいて来た。


システムと睨めっこするより、営業のほうがよほど向いているのではないかと思われる、人のよさそうなタレ目が印象的な芹沢は、今話題の草食男子の代表と呼ばれるアイドルタレントに少し似ている。


標準装備の笑顔と物腰の柔らかさが人気だ。


「橘、今落ち着いてる?」


「大丈夫ですけど」


一瞬だけ顔を上げて、書類を揃えながら美青が応えた。


「じゃあ、今からミーティングしよっか」


「構いませんけど」


ぐるりとフロアを見回して頷いた美青が、隣の間宮に視線を移した。


「菜々海も行くでしょ?」


大抵、美青と間宮はセットで呼ばれる。


今日もそうだと思って声をかけたが、間宮がすかさず首を振った。


「まだ修正残ってるんで無理でーす。お先にどーぞ。おっかけますから」


「そう?終わるまで待っててもいいけど」


「いや、すぐに始めたいから、橘先に行ってて」


いつになく強い口調で芹沢が言った。


「他のメンバーはどうします?」


「ああ、いいよ。俺が声かけとくから」


後2人は呼ぶだろうと思って提案したが、これもあっさり断られた。


「そう・・ですか?」


一応部署の中では若手の方だし、先輩に押し付けてしまっていいものかと悩む美青の背中を押す様に、間宮が手を振る。


「変な依頼電話かかって来る前に、ちゃっちゃと終わらしちゃって下さいー。いってらっしゃい」


たしかに、平和な午後だと油断した途端、複雑なエラー連絡が入ったり、面倒な集計依頼が来たりする。


ここで時間を無駄にするのは良くないと、美青は立ち上がった。


「・・・じゃあ、行ってきます。場所はいつもの三階の会議室ですか?」


「三階だけど、いつもの部屋取れなかったから、奥の小会議室ね」


「わかりました、じゃあ行ってきます」


「うん、俺もすぐ行くから」


「すぐおっかけますからねー」


ふたりにニコニコしながら見送られて、美青はフロアを出て会議室に向かった。




☆☆☆




いつも使用する会議室の前を素通りして、廊下の突き当りに進む。


部署内の会議は、大抵長机を囲んで行う形式だったので、小規模な打ち合わせ用の会議室は、入った事が無かった。


二つ並んだ小会議室のうち、奥のほうに使用中のプレートが下がっている。


誰か先に来ているようだった。


念の為ノックをしてドアを開ける。


僅かな隙間から中を覗いて、美青は来るタイミングを間違えた事に気づいた。


6人掛けのテーブルがひとつだけある、小さな部屋。


椅子に腰かけているのは一人だけ。


後姿で、すぐに相手が誰だか分かった。


「宗方・・・」


「お、来たな」


ここ数日まともに口を聞いていなかった事に、ようやく気づいた。


宗方は先日の気になる人がいる発言以降も、何かと美青に話しかけて来たのだが、すぐに仕事の話から脱線する宗方との会話にどう対処してよいか分からずに、避けまくっていたのだ。


”時間あるか?”


と訊かれる度に、素っ気なく、ない!と言い続けてきた。


これまで宗方と繰り返してきた日常会話を思い出して、どこまでが仕事の範疇で、どこからプライベートだったか、必死に考えた。


考えすぎて結局答えは分からず仕舞いだ。


あれこれ考えるのが嫌になって、とにかく誤解されるような会話は極力避けようと決めた。


菜々海と宗方が付き合ってるって噂が立った時とは違う、あの時は本人たちも面白半分で騒いでたけど、今は宗方には好きな人がいるんだから・・・


そして、とてもじゃないが、万一宗方との噂が流れたとして、間宮のように冗談半分で躱したり、わざと噂を煽る様な事を言って面白がるスキルなんて、美青は持ち合わせていない。


恋愛未経験の美青に同僚の恋を後押しする技量は無い。


だからせめて、恋路を妨げるような事だけは、しないでおこうと思った。


「なんか、お前とちゃんと話すの久しぶりだな。突っ立ってないで、座れよ」


「・・・イヤミ?」


「それ位言いたくもなるっつーの」


呆れた顔で宗方がぼやいた。


「それは・・・悪かったと思ってるけど。でも、それもこれも、あんたのためっていうか」


何となく真正面に座るのは嫌で、はす向かいに腰掛ける。


いくら無愛想で素っ気ない美青でも心苦しくないわけがない。


宗方は多少鬱陶しいけれど、気のいい同僚だ。


面倒見もいいし、美青の数倍気配りも出来る。


そんな彼だからこそ、幸せになって欲しいと思っているのだ。


「ああ、それな、おおまかなとこだけ間宮に聞いた」


「なんで菜々海が」


「それはいい。そーじゃなくてな。お前、誤解してるぞ」


「なにを」


「俺が気になる相手云々言ったのを」


「ちゃんと聞いたでしょ」


「俺とお前が仲良いのを、誰かが噂でもしたら困るって思ったんだろ」


「別に仲は良くないけど、前は菜々海だったし、うちのフロアで残ってんのあたしだけだし、何かと・・・心配かけてるし。こういうしょーもない噂は、尾ひれついて回るから。だから、そうなる前に」


「馬鹿かお前は!」


「なにがよ!?」


「同じフロアの同僚と話したり、飯食いに行っただけで噂になってたら、会社中スキャンダルだらけだろーが!それなら、お前と志堂さんだってとっくの昔に噂になってるよな」


「失礼なこと言わないでくれる!?あの人は既婚者だし、奥様をすっごく大事にされてるんだから!」


「知ってるよ!この会社で志堂専務の愛妻家っぷり知らんヤツは潜りだ!」


「じゃあ、引き合いに出すのやめなさいよね!」


「だからっ、そうじゃなくて・・・男友達とふたりでメシ食いに行ったりするだろ、普通に」


言い返した宗方が、なぜか、急に不味そうな顔になる。


言われた意味が分からない。


美青は眉根を寄せた。


途端、自分の交友関係の狭さに気づいた。


女子高から唯一続いている友人は一人だけ。


それも、とっくに結婚しており、頻繁に会うことは無い。


先輩に至っては、時折有無を言わさず食事に誘って来る桜のみだ。


ちょっと待って・・・


美青にとっての世界は、今やもう自宅と会社のみだった。


誰かと知り合うのも会社の中のみ。


だから、宗方の話を聞いた時点で、彼の想い人は社内の人間だとはなから決めつけていた。


気の合う友人とグループデートをした、なんていう話はまるで別次元の出来事だ。


気の合う異性というものに出会った事のない美青にとって、男友達という概念は存在していなかった。


これまで、他人の視線なんて気にした事は無かった。


誰と誰がいい感じだろうと、関係なかった。


興味が無かったから。


でも、毎日顔を合わせる宗方が相手となるとわけが違う。


少なからず関わりのある人間が、誰かを思っているというのだ。


初めて、宗方を異性だと意識した。


そこで漸く気づいた。


それまで自分が”同僚”という枠だけで回りと接してきたことに。


そして、宗方の視線の意味に。


「わ、るかったわね!普通が分かんないわよ!そんな気の毒そうな顔しないでくれる!?困ってないから!」


ろくに男友達がいないことに、口にしてから気づいたのであろう宗方が、なぜか美青の返事に表情を緩めた。


「あ、だよな。よかった」


「なに安心してんのよ、宗方!腹立つわねあんた!馬鹿にしてんの!?」


「いや、別にしてない」


きっぱり言い返された事にも無性に腹が立つ。


「と、とにかく、あんたがどこの誰を好きでもいいの!


社内だろうと社外だろうと関係なく、そういう紛らわしく思われるような行動は控えようって事よ!


仕事はちゃんとする、プライベートは干渉しない、それが同僚でしょ。


宗方の恋路を邪魔したくないから!」


だから、無い知恵を絞って、普通の同僚的距離を推し量っているのに。


美青の言葉に、宗方が凄い剣幕で怒鳴った。


「なんでだよ、邪魔しろよ!」


「はああ!?それこそなんで!?人がせっかく背中押そうとしてんのに、余計な事はすんなってこと!?」


「その考え自体が見当はずれだって言ってんだよ」


「どこがよ!」


「勝手に勘違いして空回って、さんざん人の事無視しやがるから、こーやって無理矢理時間作ったんだろ!」


「無視はしてない!返事はしてた!それに時間てなによ!今日は定例ミーティングでしょ!」


「芹沢と打ち合わせ用に取った時間を削ったんだよ」


苦虫を潰したように宗方が言った。


「・・・は?」


「こうでもしねぇと話聞かないだろ、橘」


「え、ちょっと待って、ミーティングは、嘘?」


思い切り眉を顰めた美青に、宗方が先手を打つ。


「怒るなよ!そもそも話聞こうとしないそっちが悪いんだからな」


「開き直る気!?原因は宗方でしょ!」


怒りに任せてテーブルに、ミーティング用の議事録ノートを叩きつける。


控えめなノックと共に、ドアが開いたのはその時だった。


「あのー・・・白熱してるトコ悪いんだけど」


顔を見せたのは芹沢だ。


気まずそうに苦笑いしながら、美青と宗方の顔を交互に見つめる。


「・・なんだよ」


「なんですかっ」


苛立ちは収まらず、先輩ということも忘れて鋭い視線を向けると、芹沢が改めて申し訳ない、とこぼした。


「いや、それがさ。本田屋の社員さんが、打ち合わせで来てるらしくて」


聞き覚えのある社名に、美青が表情を和らげる。


その様子にほっとしつつ、芹沢が美青に視線を移した。


「橘の出向先だった会社だよな?」


志堂の分家が経営する、紙製品の関連会社だ。


宝飾品の納める包装箱等を制作していた。


「そうですけど」


「挨拶したいんだって。エントランスにいるみたいだけど」


「・・・わかりました、行きます」


まだ言いたい事があるんで残ります、というわけのもいかずに、美青は渋々ノートを掴む。


もうなにもかもがわやくちゃだ。


どうしてこう言い合いになるのか、自分でも分からない。


もっと冷静に話し合いできる筈なのに。


いつも宗方を前にするの感情のストッパーが振り切れてしまう。


大声で怒鳴り合うなんて、倒れた時以来だ。


ある意味、ここまで遠慮なくぶつかれる相手というのは、貴重な気すらしてくる。


近づく、を通り越して、時々どかんと踏み込んで来る宗方の接し方は、美青の思考回路を綺麗にねじふせてしまう。


だから、考える事を放棄して突っぱねるしかなくなるのだ。


それもこれもあんたが悪いんだからね、と剣呑な視線を宗方に向けて、芹沢には申し訳程度に頭を下げておく。


貴重なミーティングをこんなことに使わせて申し訳ない。


「芹沢さん、すいませんでした・・・じゃあ、行ってきます」


「うん、宗方にはちょっと頭冷やすように言っとく」


困った顔の芹沢に見送られて、会議室を後にする。


静かな廊下に出ると、さっきまでの怒鳴り合いがいかにやかましかったか分かる。


まるで子供の喧嘩だ。


誰にも情けない顔を見られたくなくて、赤くなった頬を押さえつつ、非常階段を降りてビルの正面玄関に向かう。


見回すまでもなく、目的の人物は見つかった。


「橘先輩!」


にこやかに手を振ってくるのは、膝丈の上品なプリーツスカートにベージュのジャケットを着た可愛らしい女性だ。


志堂本社に顔を出したから、と、わざわざ挨拶をして帰るような人間を、美青はほかに知らない。


彼女のこういう細やかな気配りが、周りの印象をさらに良くしている事は分かっていたけれど、美青は未だに同じ女子高出身というだけで、部署も違った自分が好かれている理由がよく分からない。


”聖琳女子の名に恥じぬ品位ある振る舞いを”


入学式や卒業式といった行事はもちろん、月に一度の全校朝礼でも、理事長から常々言い含められてきた校訓。


まさにお手本通りの、その立ち姿に圧倒されつつ、美青は手を振り返した。


艶のある栗色の髪を緩く巻いて背中に流し、控えめで丁寧なメイクできちんと感を演出する。


くるんと上向きに上がったまつげを震わせて、彼女は申し訳なさそうに言った。


「お忙しいのにすみません」


「いいよ、べつに。久しぶりね、小野寺さん」


「お久しぶりです、わー先輩、相変わらず細いですねーちゃんとご飯食べてますか?」


「うん、ありがとう、大丈夫」


「村上先輩とご一緒してたんですけど、ちょっとだけでも、ご挨拶出来たらなと思って。先輩、今年も聖琳会来なかったから」


卒業生たちが、毎年春に学校内のホールで集まる同窓会には、年配のご婦人から、つい最近の卒業生まで、さまざまな聖琳の乙女が集う習わしになっていた。


もちろん、そんなものに興味はないので、美青は卒業して以来一度も参加した事が無い。


「ごめん・・・面倒くさくて」


「先輩いつもそればっかりですね」


もー、と可愛らしく頬を膨らませる姿は、人気の女性ファッション誌のモデルのようだ。


怒りで頬が染まった美青とは違い、チークで愛らしく彩られたピンクの頬は、思わず指を伸ばして突いてみたくなる。


「たまにはお茶しましょうよー」


「会社の方向全然違うし、小野寺さんたしか実家遠いでしょ?」


「わ、覚えててくれたんですか?嬉しい!ここからだと、一時間半はかかりますけど」


「ほら、遠いじゃない」


上から下まで”女の子です”という武装をした彼女と、顔を突き合わせて何の話をすればいいのか分からない。


菜々海とそれなりに上手くやっていけているのは、彼女が普通の女子とはちょっと違うオタクという人種だからだ。


距離を理由にいつもと同じように断りを入れた美青の顔を見ていた小野寺が、急に眉根を寄せた。


「あのー橘先輩?」


「なに・・どうかしたの」


「あの人たちって、先輩のお知り合いの方ですか?」


「は?」


困ったように小野寺が指差したのは、美青の後ろ。


勢いよく振り返った美青は、次の瞬間叫びそうになった。


「っむ・・・」


宗方と芹沢さん!?


エレベーターホールの陰からこちらを伺っているのは、紛れもなく同僚の二人だ。


美青に気づいた宗方が、げっ!と顔を顰めて、芹沢の肩を思い切り殴る。


芹沢が迷惑そうに宗方を睨み付けて、美青に苦笑いを返した。


「仕事場の・・・同僚」


物凄く嫌そうに美青が告げる。


なんでよりによって宗方たちがここにいるのだ。


どう好意的に見ても、様子を見に来たとしか思えない。


人付き合いが苦手な美青に、挨拶をして帰るような物好きな人間の顔を見に来たというところか。


さっきの宗方との会話が思い出されて、途端怒りが蘇る。


隠れても仕方ないと思ったのか、バツが悪そうな宗方と、苦笑いの芹沢が歩いて来た。


「なによ、見物でもしにきたの?」


「ちょっと、先輩っ」


腕組みして睨み付けた美青に、小野寺が慌てて窘めるような視線を送った。


こんなに好戦的な美青は見た事が無かったのだろう、オロオロと狼狽えながら、宗方たちと美青を見ている。


「ち、ちがっ!」


宗方が慌てて首を振る。


芹沢が笑いをかみ殺しながら後を引き継いだ。


「いや、ごめん。さっき俺慌ててたから、お客さんがエントランスに居る事伝え忘れたと思って、追いかけて来たんだ。ちゃんと会えたんだな、良かったよ」


そんな言い訳がましい事を言われても信用できるわけがない。


なんせ、宗方は美青のことをまともな男友達もいない女だと思っているのだから。


間違ってないから余計にむかつく!!


「橘と同じ部署の人?」


「いえ、違います。彼女は秘書課です」


「ああ、綺麗だし、そんな感じするね」


「とんでもないです!」


「まあ、システム室っぽくはないな」


美青を見た後で宗方がぼそりと呟いた。


「どういう意味よ!」


「はい、喧嘩しない。俺は同僚の芹沢です、こっちは宗方」


芹沢のリップサービスに動揺する事も無く、背筋を伸ばして、小野寺が軽く会釈を返す。


「小野寺と申します。橘先輩とは、同じ高校出身で・・すごくお世話になってるんです」


心から尊敬している声音で言われると、こっちが困ってしまう。


聖琳の鑑とも呼ぶべき、謙虚で上品な挨拶に、品位のかけらもないさっきまでの口喧嘩をさらに情けなく思う。


「いや、何もしてないから」


「そんな事無いです、いつも気にかけて下さって、嬉しかったんですよ」


花が綻ぶように笑顔を向けられて、不覚にもキュンとなる。


「へー・・・後輩の面倒見てたんだな、お前も」


「ほんっとにあんたのその口・・二度と喋れないように縫い付けてやろうか?」


「裁縫苦手そうだけど出来んのかよ」


痛いところを突かれた。


家庭科の成績はいつも実習ではなく、筆記テストで稼いでいた。


ミシンの使い方もいまは危うい。


「うっさいな!」


小野寺の前だと言う事も忘れて思わず言い返してしまう。


後輩の前だから、なんて取り繕うつもりは全くないけれど、彼女の前でこんな風に取り乱したりすることは一度も無かった。


「橘先輩のおっきい声なんて、初めて聞きました・・」


目を丸くした小野寺がクスクス笑う。


「新たな一面を見せられて良かったな、橘」


「ほんっと帰って、宗方」


ぶすっと膨れ面で宗方を見上げる美青に、小野寺が微苦笑のままで口を開いた。


「村上先輩も待ってるし、そろそろ行きます。今日、先輩に会いに来たのはこれを渡したかったからなんです。聖琳会で配られた、在校生が作った栞なんですけど・・・先輩、桜が好きって言ってたから」


リボンが通された小さな押し花の栞を受け取って、美青が小野寺を見つめる。


ずっと昔、適当に返した会話の答えを、彼女はずっと覚えていてくれたのだ。


ズキン、と胸が痛くなった。


彼女の純粋な厚意に触れるたび、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


「・・・ありがと」


「いえ、じゃあ・・・失礼します」


最後まで丁寧にお辞儀して、ビルの外で待つ先輩の元に駆けて行く小野寺を見送る。


「・・・感じいい子だな」


しみじみ呟いた宗方の台詞が、胸に刺さる。


「お嬢さん育ちって感じするなぁ・・・で、橘ってもしかして聖琳女子出身なの?」


「・・・そうですけど」


不承不承肯定した途端、芹沢と宗方が目を丸くした。


こういう反応にももう慣れた。


だから言いたくなかったのだ。


「いいですよ、別に、意外って自分でも分かってますから。あの子は、ほんとにいい子ですよ」

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