第15話 Love Affirmation 謎解きその2
「と、ゆーわけでー」
「おい、いきなり本題に入るな、先に一口飲ませろ」
店に着くなり切り出した間宮の頭を小突いて、宗方が届いたばかりのビールを煽る。
本日、芹沢は彼女とデートの為欠席だ。
定例会となりつつある週1の作戦会議ともいえる飲み会。
間宮も良く冷えたチューハイで喉を潤して、定番の枝豆に手を伸ばす。
「よし、いいぞ、話せ」
「わー横暴だー」
枝豆を口に運んだ間宮が、眉を上げて困った先輩ですねぇと呆れ顔になる。
「なんだよ、いいだろ。お前が勿体ぶると気になんだよ。
今日は芹沢いねぇんだからな、脱線すんな」
「はいはい・・・えーでは、覚悟はいいですか?」
「は?覚悟?」
いきなり問われて、宗方は面食らった。
何を言われるのかと身構えてしまう。
もう一口と手を伸ばしかけたビールを端に追いやって、身を乗り出す。
ここ数日、凹んだりくたびれたり、悩んだり色々しまくったのだ。
今更、覚悟もくそもあるかと開き直ってやる。
「いいよ、話せ。何言われても驚きゃしねぇよ」
「おお、男らしい」
間宮が茶化す様に笑った。
記憶の片隅に追いやった、女性陣二人からの男らしくない発言が、蘇る。
好き勝手言いやがって、と腹の中で罵っておく。
「うるせーな」
「なんでそこで怒るんですかぁ?誉めてるのに」
「余計な事言わなくていいから、本題に入れ、本題に」
「それでは今度こそ。美青姉さん、告白されてないそうですよー」
「・・・・・・・・は?」
「良かったですねー。マグレに賭けて」
「・・・お・・・お前、今なんて?」
「だからー、宗方さんから告白なんてされてないって、言ってました」
「え、間宮、お前何て訊いたんだよ!?」
間宮の肩を掴んでがくがく揺さぶる。
わーもうやめてくださいよーと呑気な声を上げた間宮が、宗方の手を払って、視線を正すと、コホンと咳払いをひとつした。
「美青ねえさーん、宗方さんから告白されたんですかー?え?ナニソレ美味しいの?知らない聞かない覚えがない。あれ?宗方さんは姉さんになんってお話したんですかー?気になってる人がいる。あたしの事もあれ以来気にしてるってさ。ほーほーほーそゆことー。はい、以上!」
「以上じゃねえよ!」
「それはこっちの台詞ですよ!」
珍しく間宮がすごんだ。
「だから言ったじゃないですか、相手はあの、橘美青だって」
「・・・・わかってるよ」
「わかってなーい。遠回しなカッコイイ告白なんて不要です」
「・・・お前な」
「ちなみに、姉さんは、宗方さんには別の想い人がいて、その相手が誤解したら悪いから、同僚として仕事で関わる以外は、話さないようにしようって、決めたそうですよー」
いつも通りの間延びした口調に戻った間宮が、任務は終わったとばかりにチューハイをごくごくと飲んだ。
「あいつ・・それで俺の事避けてたのか・・・」
「フラれて避けられてた訳じゃなくて、良かったですねぇ」
「・・・なんで気づかないんだろ・・俺、分かりにくいか?」
「比較的分り易い方だとは思いますけど。ただ、相手がそういう色恋事に無関心な女子なのでね。あの矢印こっち向いてるぅ!とかあの二人フラグ立ってるぅ!とか周りの人間関係を気にするっていう基礎知識自体が入ってないんですもん。そりゃあ、自分が好意を寄せられてるなんて想像もしてませんよ。だって、恋愛未経験者ですから、あの人」
あ、これは超個人情報だったな、と間宮が苦笑いする。
「・・・そうなの?」
「その昔告白された事はあるみたいですけど、考えられなかったって言ってたしー。あれ、なんかニヤニヤしてるー宗方さんやらしー。姉さんが綺麗な身体だって分かってホッとしてんじゃないでしょーねー。良からぬ妄想とかしてたら、許しませんよ、私ー」
「いや・・べつに・・・してねぇよ!」
少しくらいしたっていいだろう。
それくらい罰は当たらない筈だ。
何となく、そんな気はしていたけれど、間宮からの言葉で確信を持てた。
つまり、あいつを口説き落とせば、何もかも全部、俺が最初の男になるわけだ。
ふいに抱き寄せた感触が蘇ってきた。
薄っぺらい華奢すぎる身体。
あの時の動揺は、抱きしめられた事に対する動揺だったのだ。
珍しく図星を刺されたせいで、それどころじゃなかったから、気づかなかった。
ああ・・・くそ、そうと分かってたら、もう少し強く抱きしめておくべきだった。
他の誰かを思っているなんて、勘違いできない位の力で。
そうしたら、こんな面倒な誤解が生まれずに済んだのに。
「・・・で、現役続行ですよね?」
「ったりまえだ」
宗方が言い切って、残りのビールを煽った。
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