第14話

 俺の心臓は張り裂けそうだった。


 これを恋と呼ばないと何と言えば良いのだろうか。

 

 また俺には見えてしまったぞ、ウエディングロードが。

 

「あの…」


 俺が勢いよくドアを開けてしまったせいで金髪の美女が困った顔をしている。


「あ、ごめんなさい」


「大丈夫ですよ。ビックリしただけなので」


 優しい、普通だったら魔なし嘘つきが私を困らせるなよ、と言われてもおかしくなかったのに。


 ここまで優しかったら俺と付き合ってくれるかもしれない。


「ジン。席に案内してあげて」


「は、はい。じゃあこっちに」


「あ、はい」


 さっきの女と大違いだ。


 礼儀と言葉が悪い奴からこんな真逆で素敵な人が来るなんて。


 泉に落とした銀の斧が金の斧になった話を思い出してしまう。


 だけど、あれって銀の斧も貰えるんだったよな?銀の斧はいらないな。


「こちらにお座りください」


 俺は椅子を引いて待つ。


「ありがとうございます」


 金髪美女はわざわざこちらを振り向いて笑顔でお礼を言ってくれた。


 可愛い。


 もう、キュンキュンしちゃう。


 この娘が俺の彼女になったら毎日楽しいだろうな。


「まず学年とお名前を聞いても良いですか?」


「はい。一年のカレンです」


 カレンちゃん。


 きれいで良い名前だなぁ。


 口に出して読みたいよな、カレンちゃん。


 一年生って事は同級生だよな?同級生は片っ端から告白してきたからカレンちゃんにも告白した可能性がある。


 けど、思い出せないって事は告白してないのかもしれない。


 カレンちゃんも俺の事を覚えてないから告白してる可能性は極めて低い。


 だったらマイナススタートじゃなくてゼロからスタートする事ができる。


 いや、さっきの椅子を引いてあげた時点でプラスからスタートする事ができちゃう。


 何に対してもスタートダッシュってめちゃくちゃ大事だから、これが出来るやつと出来ない奴とでは雲泥の差がある。


 今の俺とレンだな。


 次はお前が指を咥えて見る番だな。


 相変わらずムカつく顔をしているな、殴りたくなる。


 ダメだダメだ、ここで殴ってしまったらカレンちゃんに引かれちゃう。

 

 引かれちゃったらマイナススタートになっちゃう。


「で、今日は何の用事があってここに来たのかな?」


 俺がキモい事を考えている内に部長がカレンちゃんにここに来た理由を尋ねる。


 名前と学年だけでキモい事考え過ぎだろ。


「屋敷にこれが届いてまして」


 そう言ってカレンちゃんはそっと机に名刺くらいの大きさの紙を出した。


 屋敷って言った?カレンちゃんって屋敷に住んでるの?お金持ちだなぁ。


「これ…」


 カレンちゃんが出した紙を見た部長の表情が曇った。


 ん?何が書いてるんだ?嫌がらせの手紙とか?


 俺も見ようと身を乗り出したらレンの奴と顔が近くなってお互い嫌そうな顔をした。


 どうしてこいつと顔を近づかないといけないんだよ、カレンちゃんとチェンジしてくれ。


 それにお前は嫌そうな顔すんなよ!



『日付が20に変わる時、光にも闇にもなる宝石をいただきに参ります。タクト』


 

「予告状?」


 予告状なんか初めて見た。


 そもそもこの世界に怪盗が存在する事すら知らなかった。


「タクトって誰?」


「お前タクトを知らないのか!?」


 レンは大袈裟に驚く。


 そんなに有名な奴なのか?タクトって奴は。


「タクトは盗むと決めた物を華麗に盗んでいく。どれだけ対策しようと捕まえる事は不可能とまで言われている世紀の大怪盗なんだ」


「世紀の大怪盗…」



 俺は思わず呟いてしまった。


 あまりにかっこよくて。


 


 

 

 

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