第11話

 ドサっと布団にダイブをする。


「お前もこっち来いよ」


「バウッ!」


「あー夜だから静かにな」


「ハウ」


 やっぱりかわいい。


 夏になったらキツくなるかもしれないけど寒い日には最高だ。


 この犬を飼いたくて師匠を説得しようとしたら意外とすんなりと受け入れてくれた。


 いや、2時間の説得はすんなりじゃないのか。


 師匠にしては早い方なんだよ、今日じゃなかったら4時間でも無理かもしれない。

 

 あの人は口より先に手が出る人だからボコボコになるんだよ。


 だから今日も当たり前のようにボコボコにされた。


 しかも手を出す相手は俺限定らしい、自分の後輩にはちゃんとしてるらしい。


 ほんとちゃんとしてるよあの人は。


 とりあえず今日は寝よ寝よ、2回寝れるか分からないけど寝よ。


 だって明日になったらマイちゃんに告白されるのだから。


 あー!明日が楽しみだー!


「あー!明日が待ち遠しいー!」


「うるさい!」


 怒られてしまった。




 ***



「ふーん♪ふーん♪ふふーん♪」


 スキップしながら学園へと向かう。


「うわっ魔なしだ」


「うわっ魔なしがスキップしてる」


 ちっ、陰からコソコソ言いやがって、別にスキップしても良いだろ。


 ちなみに魔なしは魔力が無い奴をバカにする言い方だ。


 まぁ俺は言い慣れてるから気にしてない。


 あと、今日はマイちゃんから告白されるのが分かってるからそんな言葉では俺は落ち込まない。


 魔なしでもちゃんと彼女が出来るから、他の魔力が無い人の希望になって欲しい。


「うわっ、ジンだ。キモッ」


 それはただの悪口だからな。



 ***



 いや〜いつかな?


 とりあえず1時間目までには来なかったなぁ。



 ***



 3時間目までにも来なかった。


 あれだな、きっと昼休みに来るんだよ。


 授業の間の時間って短いよな!短い時間で告白なんて出来るわけ無いよな!



 ***



 昼休みの時間にも来なかった。

 

 ま、まぁ、昼休みってご飯食べる時間だから、そんな少ない時間で告白なんか出来ないから。


 普通に考えたら放課後に決まってるじゃん!何を焦ってるんだ俺は。



 ***



 ちょっと待てよ。


 これは俺から迎えに行った方がいいんじゃないか?


 だって女の子って白馬の王子様に憧れてるって聞いた事があるからな。


 これはもう…、ね、俺が迎えに行かなくちゃいけないよね?


「待っててね、マイちゃーーーん!」


「うわっ、また魔なしが変な事言ってる」


 うるせぇ。



 ***



 あ、マイちゃん発見。


「マイちゃーん!」


 俺は手を振りながらマイちゃんに近づく。

 

 いつ見てもマイちゃんはかわいいなぁ、この子が俺の彼女になるのか。


「…なに」


 あれ?機嫌悪くない?


「いや、そんな大事なことじゃないんだけど」


「じゃあもう行ってもいい?急いでるから」


 あれ?なんか俺が想定していた反応と違う。


 違うでしょ!


 私ずっとあなたの事探してたの!あの時のお礼が言いたくて。


 そう言っていただかないと困りますよ、俺のプランが崩れるから。


 急いでるって、それって俺へのお礼より大事なことなの?


「待って」


 俺は背中を向けて去ろうとするマイちゃんを呼び止める。


 なんで俺が呼び止める側になってんだよ!普通逆だろ!


「だからなに」


 何この娘、いきなりキャラ変でもしたの?雰囲気が怖いんですけど。


「あの…、ほら、昨日の事で、ね?」


 直接言ってしまうといやらしく聞こえてしまうからそっちが思い出して欲しい。


「昨日がなんなの?」


 何こいつ、俺が昨日助けてやったから生きてるし、形見も戻ってきたのにお礼くらいあっても良いだろ!


「お礼の一つや二つがあってもいいかなぁって思って」


「なんであんたにお礼を言わないといけないの」


「だってデカい犬倒したの俺だし、形見も取り戻したし…」


「は?あんたどこにもいなかったじゃん。それにあれ倒したのレンだから」



 ………は?


「いやいやいやいやいや、あれ倒したの俺だから!」


 な、何が起こってんだ?


 確か、倒したのは俺だったはずだ、なのに何でレンが倒した事になってんだ?


 今俺がいるのはパラレルワールドか?


「そんな訳ないでしょ、あんたその場にいなかったんだから」


「いや、い…」


 待てよ、俺が来た時にはレンもマイちゃんも気を失っていた。


 あと、もう俺の名前を呼んでもくれなくなって

る。


「でも、でも、俺は罠にかかったからいなかっただけで、倒したのは俺で間違いないから」


「罠の所にちゃんとフェンリルがいたからそんな嘘通じないから」


 そう言えば起きた時にでっかい犬が一緒に寝てたな。


 だから、あの時俺を起こしてくれなかったのか。


 ただでっかい犬が罠にかかっただけだと思って。

 

「魔なしの上に嘘つきでもあるんだね。最低」


 マイちゃんは背を向けて去っていく。


「いや、え?ちょっ」


 俺は動けなかった。


 俺はただ遠のいていくマイちゃんの背中を見る事しか出来なかった。


 俺はここに来て初めて告白もせずにフラれてしまった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ジンがモテるまで見守ってやってください。

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