第38話『奪還編⑨ バカばっか』

一同の目の前に、フラフラと姿を現した男…。


終夜「ヒロ…。」


そう、ソイツは、ワケも分からずジロちゃんに体を乗っ取られ、酷使された挙句、ゴミ扱いされて、体を乗り捨てられた博記であった。


博記「何が何だか分かんねぇけどよ…。」


そう、先程、琴羽が博記にメッセージを送り、ココに呼んだのである。


琴羽「だって、あのままリタイアなんて、カワイソウでしょ?」


当の博記は、多少、体力は回復したのか、普通に動けているようだ。


菜々子「ゴメン!あまりにもヒロの体力がゴミやったけん、スッカリ存在自体忘れとった!」


博記「オマエ正直にも程があるぞ!こっちゃあイキナリ体を乗っ取られ、アチコチ走り回らされた挙句にゴミ扱いされて、指一本動かせない時にツンツンされたんやぞ!!」


琴羽「あ、ツンツンしたのは私です。」


琴羽は、恐る恐るといった感じで右手を上げた。

そして、博記は、一連の出来事の説明を受けた。


博記「ジンとニック?酒かよ…。」


ジン「違うアル!アタシとニックは人間アル!!」


琴羽「あぁー…。ジントニックと掛けてるのね…。」


終夜「ホント、オマエは酒が好きだなぁ…。」


博記に呆れた視線を送る終夜。

ギャル正宗も、救急車を呼んだりしている間に、菜々子が鞘を見つけて、無事に鞘に収まった。


博記「ナナ…。」


菜々子「ん?」


博記は、イツになく真剣な表情を菜々子に向けた。


博記「本当に、申し訳なかった。」


深々と頭を下げる博記。


菜々子「ちょっ…。どうしたんヒロ?」


博記「イヤ、ナナの大切なモンを、オレの気まぐれで、失わせるトコやった…。」


琴羽「ヒロ。」


博記「ん?」


琴羽は、博記の目を真っ直ぐ見て言った。


琴羽「自惚れないで。私達は仲間でしょ?」


博記は、琴羽が言わんとしている事が伝わったのか…。


博記「あぁ。一人じゃ無いよな。オレらSoundSoulsは、仲間だ。」


終夜「ヘッ。バカがよ。」


ジン「アイツ、馬鹿アルか?」


ジンは博記を指さして言った。


終夜「あぁ…バカだ。」


博記「テメ…。」


博記が喋ろうとするが、ソレを遮って…。


終夜「オマエら全員バカだよ。大切なモン目の前にして、守らずには居られない…バカばっかだよな。」


博記「…。」


琴羽「ヒロ、ヒロが、ナナちゃん呼び出して、あんなセクハラ紛いのハナシなんてしなければ、こんな事にはならなかったんじゃないか、とか、気に病む必要も無いけんね。」


博記は、ギクッとした表情になり…。


博記「どうしてその事を…。」


琴羽「偶然が重なっただけ。誰が悪いとか、誰の所為とかでもない。でも、私達やけん、こうして乗り越える事が出来た。」


菜々子「ちょっと今回は、納得いかん部分もあるけど…。」


琴羽「まっ、まぁソコはソコで…。それにしても…。」


琴羽は、マスターの行方を気にしているが、ジンの手前、言葉にはしなかった。


そして、そのまま、それぞれ解散した。

琴羽は、例のジンとニックは山神家が預かる発言の前に、夜深に状況を説明し、夜深の了解は得ていたようだ。

最も、そこを、如何に上手く菜々子に説明するかで苦労したようだが。

なので、ジンは、ひとまず菜々子と山神家に向かった。


そして、翌日の山神家では、菜々子が夜深に呼ばれた。


菜々子「ハナシって?」


夜深「今回の一連の事は、チコちゃんに聞きましたわ。」


夜深自身も、ウソをつくのは得意では無いようで、少し目が泳いでいる。


菜々子「アタイは納得してない部分もあるけど。」


夜深「時に、そのアナタの相棒の、ピーチちゃんは元の姿に戻れたんですのよね?」


菜々子「うん。」


夜深「この後は、どうするツモリなんですの?その刀と、元に戻れたピーチちゃんは、シェアハウスに返すの?」


菜々子「ピーちゃんとは、話して、アタイが引き続きギャル正宗を持ってる事にしようと思う。で…。」


菜々子がソコまで言うと、菜々子が持っていたギャル正宗の鍔付近に、人魂と化したピーチが姿を現した。


夜深「あれれ?またその姿に戻ってしまいましたの?」


菜々子「違うと。ピーちゃんは、確かに元の姿に戻れたんやけど、何故か、引き続き、この人魂モードにも変化出来るらしくて。」


ピーチ「コッチの姿が可愛くてチョベリグだから。」


夜深は、ピーチまでも、わが娘を見るような、優しい微笑を浮かべた。


夜深「ソレに、もうピーチちゃんは姿を取り戻したから、霊力も戻ってるハズですわ。なので、その刀を依代とする必要も無いのよね?」


菜々子「ソレもソウなんやけど…。ピーちゃんが、人魂モードもそうやけど、今までのスタイルが何気に気に入ってたみたいで、引き続きギャル正宗に憑依しとくって…。」


夜深「そう、解決した上での判断ならば。」


ピーチは、退屈なのか、ギャル正宗の周りをウロウロと浮遊している。


菜々子「でも、ピーちゃんの事は、ババ………セン子さんにも、ちゃんと話に行くツモリ。」


夜深「ソコまで筋を通すのであれば、問題ありませんわね。」


菜々子「そして、コレは、何も考えずに受け取って欲しい言葉なんやけど…。」


夜深「何かしら?」




菜々子「有り難う。」




菜々子は、そう言うと、頭を下げた。

夜深は、一瞬、戸惑ったような表情を浮かべたが、すぐに微笑んだ。


夜深「どういたしまして、ですわ。」


菜々子「アタイが、例の超音速の人斬りの霊にトドメを刺した時、アタイが持ってるギャル正宗が青い炎に包まれたんやけど…。」


菜々子の言葉を受け、夜深は、自分の青い髪を指さしながら…。


夜深「あぁ、ヤマガミブルーですわね。」


菜々子「なんそのサッカー日本代表みたいなネーミング!」


夜深「アナタの、何とかしたい、どうにかして、親友を助けたいという想いが、カタチになったのだと、思いますわ。」


菜々子「それでその…ジンとニックなんやけど…。」


夜深「うん?」


菜々子「チコは、なんやかんやで、夜深さんにハナシは通してるから、って言ってたけど…。」


夜深は、菜々子から視線を外し、窓から見える中庭で、セバスと楽しそうに組み手をしているジンに視線を移した。


夜深「あの子達が、身の振り方を決める少しの間、預かるだけですわ。それよりも、菜々子。」


菜々子「ん?」


夜深「ニック君を、病院に迎えに行ってきてくれる?」


そう、凪兎もニックも、強烈ではあるが、打撲程度だったので、長期の入院の必要もなく、この日には病院を出れるようだ。


菜々子「分かった。セバスと行ってくる。」


夜深「では、ジンちゃんも一緒に連れて行ってくれる?」


菜々子「?……分かった。」


夜深は、優しく微笑んで、続けた。


夜深「そして、その間、その刀を私に預けてくれないかしら?」


菜々子「ギャル正宗を?別にイイけど。」


そう言うと、菜々子はギャル正宗を夜深に手渡した。


夜深「有り難う。では、気を付けて行ってらっしゃい。」


菜々子「うん、行ってくる!」


そう言うと、菜々子は夜深の部屋を出て、中庭で、引き続き組み手をしている、セバスとジンを連れて、病院へ向かった。

夜深は、菜々子から受け取ったギャル正宗を手に、鞘から引き抜いた。


夜深「青い炎…。」


夜深は、誰も居なくなった中庭に出て、青い髪を風になびかせながら、ギャル正宗を中段に構えた。


夜深「私、青い髪をしているし、青い刀身の刀も持っていますが…、その、刀から青い炎というのは初耳ですの。確かに、あの時、青い炎に包まれていたのを見た気がしましたが、気のせいではなかった、という事ですわ。」


夜深は、独り言を呟きながら、足を肩幅程に広げ、腰を落とした。

どうやら、ヤマガミブルーというのは、夜深自身の青い髪や、青い刀身の刀を指す言葉でもあったようだ。

そして、深く息を吐き、カッと目を見開いて…。


夜深「ハァッ!!!」


そう言葉を発すると、夜深の周囲が、夜深が発した衝撃でザワザワと揺らぎ始めた。

次の瞬間、夜深はギャル正宗を真横に一閃した。


その衝撃の余波を喰らい、周囲の木が真ん中から真っ二つに斬れてしまっている。

だが、夜深が持っているギャル正宗からは、青い炎は出現していない。


夜深「やはり…。私の業とは違うようですわね…。」


夜深はマジマジとギャル正宗を見ている。

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