第37話『奪還編⑧ ブチかませ!』
超音速の人斬りが、あろうことか凪兎に憑依してしまった。
そして、更に菜々子の体に憑依させる事を要求している。
ジンは、われ関せずで、心配そうに、ニックの傍に座り込んでいる。
凪兎「早くしねェと、コイツ、殺しちまうぜェ?」
琴羽「そしたらアンタもナナちゃんの体は手に入らないわよ?」
凪兎「最悪は、別に構わねェさ。またチャンスは、幾らでもある。」
相変わらず下品な笑みを浮かべる凪兎と、額に汗をにじませている琴羽、菜々子。
菜々子「刀剣憑依を使って霊能力者の霊をギャル正宗に憑依させれば…。」
琴羽「まだその設定活きてたんや。」
終夜「イヤ設定て…。」
終夜は、この期に及んで緊張感の無い琴羽に、半ば呆れ顔だ。
琴羽「でも、ピーちゃんに体を乗っ取られて、ギャル正宗に霊を憑依させるんやろ?その後は、そのギャル正宗でナギを斬るん?ソレが精神的な斬撃なら良いけど、物理的な斬撃だったら?」
菜々子「み…峰で叩く…とか?」
琴羽「…。」
それではタダの殴打だ。
琴羽も、表情でそう物語っている。
凪兎「どうすんだよ?生憎、オレァ、気が長い方じゃないんでねェ。」
そう言うと凪兎は、傍に落ちてた鋭い壁の破片を拾い、首筋に当てた。
琴羽は、ふと、ニックの傍に座り込んでいるジンに視線を移す。
琴羽「分かったわ。ナナちゃんの体を好きにして良いわ。」
菜々子「えっ!?」
凪兎「あァ?」
菜々子「ちょっ…チコ何言いよると?アタイ、チコになら好きにされてもイイけど、流石にアイツはイヤや。」
それはそれで危ない発言だが、琴羽は…。
琴羽「もうコレしか方法が無いんよ…。」
菜々子「………。」
凪兎「分かりゃァイイんだよ。」
凪兎は、首に壁の破片をあてがったまま、菜々子の方に歩を進めようとした。
その瞬間だった。
ニックのシューズを履いたジンが、ツマミを最大に回し、凪兎に向かって目にも止まらないスピードで突進した。
凪兎「なっ…。」
次の瞬間には、ジンの膝が、凪兎の腹部に突き刺さっていた。
そのまま白目を剥いて凪兎は気絶した。
ジン「コイツが悪いヤツだって事は分かるアル。」
ジンは、そのまま着地すると、今度はニックのシューズが煙を吹いて壊れた。
琴羽「ナイス!ジンちゃん!!そんでナナちゃん!!!」
菜々子「へ?えっ!?」
菜々子は一瞬の出来事に、理解が追い付いていない。
琴羽「ナナちゃん!!アイツ、気絶した!!何とかナギの体から追い出して!!」
菜々子「えっ!?チョ待てよ!!」
菜々子は狼狽えて、意味も無くギャル正宗を構えている。
琴羽「ジンちゃんが行動しそうやったけん、アイツ油断させるために、あんな事を言ったん。だけん、このチャンス無駄にしたらもう次は無いけん!」
菜々子「くっそ、どうすれば…。」
ソコに、再びギャル正宗の鍔付近にピーチが姿を現す。
ピーチ「相棒!やっぱウチが相棒の体を乗っ取るしか…。」
その、人魂と化したピーチを、ふと見つめる菜々子。
菜々子「アタイなら…。」
ニヤリと、先程までの凪兎に負けず劣らずの悪い笑みを浮かべる菜々子。
ピーチ「えっ?」
菜々子「アタイなら、ピーちゃんに触れられる!!」
そう叫ぶと、菜々子はピーチを右手で包み、左手にはギャル正宗を握り、気絶している凪兎に突進した。
琴羽「なるほど…そのテがあったか…。」
そして、凪兎の体に、右手で包んでいるピーチを押し込んだ。
次の瞬間には、ポンッと、例の人斬りの霊が凪兎の体から飛び出した…。
終夜「えっ?ツマリこれ…ナナの体から…。」
琴羽「人斬りを押し出したの。考えたわね…。強制的にピーちゃんをナギに憑依させて、既に憑依していた人斬りを押し出すとは…。これなら除霊しなくても、追い出せる。」
菜々子「イチかバチかやったけどね。じゃあ、行くよ!?ピーちゃん!!」
凪兎「ブチかませ!相棒!!」
凪兎に憑依したピーチは、倒れたまま叫んだ。
菜々子の体から押し出された人斬りの霊は、顔を引きつらせて逃走を始めた。
菜々子「逃がすワケなかろうもん!ピーちゃんを、元に戻せえぇえええぇぇっ!!!」
菜々子がそう叫んで、キッと人斬りの霊を睨み、地面を蹴って跳躍した瞬間、ギャル正宗を青い炎が包む。
終夜「なっ…。刀が燃えた…?」
琴羽「たぶん、夜深さんのようなチカラが発現したんやと思う。大体、夜深さん関連は青いけん。」
終夜「大体青いて…。」
建物の陰から、離れたと思われた夜深も、心配そうに事の成り行きを見守っている。
夜深「さすがですわ…。私の次に機転の利く行動…。自分に出来ない事をムリして体現するのではなく、自分に出来る事で最良の解決方法を探した。」
そして、人斬りの霊に向かって青い炎に包まれたギャル正宗を一閃する菜々子。
人斬りの霊は、声を上げる間もなく爆散して木っ端みじんになった。
そして、着地する菜々子。
ピーチも、凪兎の体を離れ、再びギャル正宗の付近を漂っている。
菜々子「た…倒した…?」
琴羽「たぶん、倒したんやと思う。」
菜々子は、まだ信じられないという顔をしている。
そして、次の瞬間、ピーチの姿が、シェアハウスで見た、金髪で、羽織袴に身を包んだ姿へと戻った。
ピーチ「も…戻った…。」
終夜「マジかよオイ…。」
琴羽「コレは作者にとっても予想外の展開だったみたいやけどね。こんなに早く決着つけるツモリは無かったみたい(笑)」
終夜「イヤ作者て…。」
そして、建物の陰から見守っていた夜深も、もう心配ないと判断したのか、姿を消したようだ。
ピーチ「相棒…。」
菜々子「やったやん!ピーちゃん!コレで、アイツに体を乗っ取られていたとは言え、アタイがピーちゃんにした事の責任は果たせた…。」
琴羽「ミンナの協力があったけん、やね。」
終夜は、冷静に、凪兎とニックに救急車を呼ぶために電話をかけている。
いくら気絶させるためとは言え、凪兎が受けたダメージも大きい。
琴羽「あ、ヤッベ。アイツ忘れてたわ。」
そう言いながらスマホを操作している琴羽。
そして、救急車の到着を待ち、病院に搬送された凪兎とニック。
マスターの体は、イツの間にかその場から消えていたため、消息は不明となった。
後に残った琴羽、菜々子、終夜、ジン。
ジン「………。」
琴羽「ジンちゃん。」
ジン「ウルサいアル。アタシに構うなアル。」
琴羽「でも、アナタとニック君は、行くアテが無いんでしょ?マスターも、姿を消したみたいやし。」
ジン「ウルサいウルサいウルサいウルサいッ!!!」
ジンは、涙をボロボロ流しながら叫んだ。
琴羽「こんなに素直で真っ直ぐな子達を…弄ぶなんて卑劣な…。でもね、ジンちゃん。」
琴羽は、ジンを抱き締めた。
ジン「!!」
琴羽「大丈夫。ニック君も、命は無事。だけん、大丈夫。」
ジン「勝手な事を言うなアル!!」
ジンは、涙を流しながら、しかし、琴羽を振り払おうとは、しない。
琴羽は、更に強くジンを抱き締めた。
琴羽「アナタとニック君は、山神家が責任を持って預かるから。」
菜々子「えっ?」
菜々子は、キョトンとした表情を琴羽に向けた。
琴羽「何も心配しなくて良いの。」
そんな菜々子の戸惑いなど、意に介してさえいないのか、琴羽は優しくジンの頭を撫でている。
ジンも、琴羽に撫でられるがまま、ただ涙を流している。
そのまま、ジンが泣き止むまで琴羽はジンを抱き締め続けた。
そんな一同の元に、一人の男が姿を現した。
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