第24話 未知との遭遇

「東弥様、今日は楽しかったですねー」

「ああ、途中へんな人もいたけど」

「でも、あのお兄さんも好きな人へのプレゼントって言ってました。私も、何かプレゼントほしいなあ」


 ショッピングモールからの帰り道で。

 小春はチラチラと東弥を見ながら何かをおねだりする。

 もちろんなんでもいいのである。

 好きな人へのプレゼント、という部分が大切なわけで。


「……まるで俺がお前のことを好きって言い方に聞こえるけど」

「ちぇっ、バレた。東弥様ってほんと、そういうところだけ察しがいいですね」

「お前が浅はかなんだよ。でも、まあ、いつも曲がりなりにも護衛任務を全うしてくれてる褒美くらいなら、いいけど」

「そ、それはもしや……やはり東弥様は私のことを」

「なんでそうなるんだよ。ただの労いだ」

「ちぇっ。でも、東弥様からのプレゼントならなんでも嬉しいです」

「そっか。で、何がほしいんだ?」

「もちろん、東弥様の愛」

「調子乗るな、却下」

「むー。それじゃお揃いの何か、とかはどうですか?」

「なんでお揃いなんだよ」

「それくらいいいじゃないですかー。ダメ?」

「あーもう、すぐに拗ねるな。じゃあキーホルダーとかでいいか?」

「はい、それじゃ帰ってネットショップ見ましょう」

「はいはい」


 すっかり小春に甘くなったなと。

 東弥は自分自身に呆れる。 


 そして、帰ってすぐにネットショップを開いてお揃いのものを選んでいると、なんだか不思議な感覚に陥る。


「……なんか、こういうのが一番いいのかな」

「え、このキーホルダーですか? うーん、私はこっちの方が好きですけど」

「いや、そういうわけじゃなくて……ううん、そうだな。じゃ、これ買うか」

「わーい」


 小春と二人でいる時間。

 それが何より平凡で、しかし落ち着く。


 多分、小春がいなくなったら寂しい。

 そんな自覚をしてしまった時、東弥は自分自身の気持ちの正体に気づいてしまう。


「……好き、か」

「え、やっぱりさっきのキーホルダー嫌でした?」

「あ、いや……ええと、小春、明日は放課後何する?」

「え、東弥様が誘ってくれるんですか?」

「あ、いや……まあ、どうせ離れろって言ってもついてくるだろ。だったらもういいかなって」

「えへへ、ようやく小春のしつこさに気付きましたか。んー、それじゃ明日はカラオケとか行きたいです」

「カラオケ、いいな。じゃあそうしようか」

「わーい」


 自分が誘ってあげただけでこんなにも喜んでくれる無邪気な小春が、なんだか愛おしい。


 東弥は、しかし今まで冷たくしてきた小春にどう接したらよいかわからないまま、やがて日が暮れていった。



「東弥様、牛乳がないので買ってきます」


 夜。

 寝る前に牛乳を欠かさず飲む習慣を持っている小春はそんなことを言う。


「夜道は危ないぞ。俺も行く」

「いえ、東弥様は狙われやすいんですから。大丈夫です、こう見えても忍のはしくれなので」

「そうか。じゃあ任せるけど、くれぐれも変なやつについてくなよ」

「えへへ、東弥様が心配してくれるなんて嬉しいです。ではいってきます」


 シュッとその場から小春は姿を消す。


 そして、外に出た小春は素早くコンビニを目指す。


「ええと、もうすぐ着くかな……ん、あれは?」

「ああ、お嬢様が俺のぬいぐるみを喜んでくださった。これ、もしかしていけんじゃね?」


 昼間、ゲーセンで出会った黒服がコンビニの前で何やらブツブツとつぶやいている。


「……」

「ん、なんだお前は? あれ、どこかで見たことあるな」

「あ、お昼にゲーセンで会いましたよね?」

「そうだったかな? で、なんの用だ?」

「いえ、独り言呟いていたので」

「おお、そうか。いやなに、お嬢様と上手くいきそうで気分が高まっていたのだ」

「ふーん」


 変な人だなあと。

 小春は首を傾げていると、聞いてもいないのにベラベラと男はしゃべる。


「いやなに、俺はとあるお嬢様に仕える身なのだがな、そのお嬢様のことが好きなのだ。無論、従者としてそれはよくないことという自覚はあるさ。ただ、好きなものは仕方あるまい……って、お前みたいな小娘に話しても理解できまいな」

「なんかそれ、すっごくよくわかります。私も、仕える身でありながらご主人様が大好きなんです」

「なに? まさか俺と同じ境遇のものがいるとは。お嬢様ほど可愛くはないが、貴様とは上手くやれそうだな」

「一言余計です。でも、どこのどなたか存じませんがお互い頑張りましょうね」

「だな。また会うことがあれば互いに幸せな報告をしようぞ。して、名は?」

「小春です。コパルンって呼んでください」

「ほう。俺はサスケだ。かっこいいだろ」

「うーん。ま、頑張ってください」

「おう、ではまたな」


 男は颯爽とその場を去っていった。


 さっき自分が意気投合した相手こそ、本来は排除しなければならない存在であるとも知らずに。


 というより。


「ふむ、生意気だが可愛げのある小娘だったな。あれ、名前なんだっけ? ことりん? いや、ユパ様? ん?」


 基本的に真田はアホである。

 だから小春のことをおぼえることはおそらくない。


 一花に命じられてコンビニにお菓子を買いに来たはずなのにそれすら忘れたまま。


 屋敷へと帰っていった。

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