第65話
アデレードはうっかり食事に夢中になってしまっていたが、アンリエットにローランの話を聞こうと思って話しかける。
「アンリ、ローラン様のことを教えて下さい。アンリにとってローラン様はどんなお兄様なのですか?」
「ローランお兄様はこう見えて意外と感情丸出しなところもあるんですよ。見た目はいつも麗しの微笑みの貴公子なのに」
ローランは整った美しい顔立ちで麗しく微笑んでいることが多い為、密かに”麗しの微笑みの貴公子”というあだ名で呼ばれている。
「ちょっとアンリ。何をアデレード嬢に吹き込む気ですか!?」
ローランは自分の妹のアンリエットが何か良からぬことをアデレードに吹き込むのではないかと慌てて止めようとする。
今でこそ学園の関係で一緒には暮らしていないが、アンリエットは妹であるだけにローランのこともよく見ている。
「……ほら、そういうところですわ。心配しなくてもおかしなことは言いませんわ。この前、学園で寮生活を送っているはずのお兄様が急にこの屋敷に帰って来ていて、その時は何があったんだろうと思ったのです。そしてお兄様を観察すると、何かどことなく浮足立ってそわそわしているように見えましたの。だから、私、お母様に何の用事でお兄様が戻って来たのが聞いてピンと来て。例の初恋の人に会いに行くのかと直球で聞いてみたら、一瞬で真っ赤になってしまって……」
(あの日のローラン様は微笑みはあってもお顔を真っ赤にすることはありませんでしたが……ご自分のお屋敷ではそんな感じだったのですわね)
アンリエットの暴露にローランは顔を赤くする。
「アデレード嬢、今しがた妹がおかしなことを言いましたが、あれは嘘です。気にしないで下さい」
「ローラン様、そんなお顔で言われても説得力が皆無ですわよ。でも、ずっと微笑んでいるお顔よりもそちらの方が人間らしくて好ましく思えますわ」
「良かったですわね、ローランお兄様。浮足立ってそわそわしていたお兄様でも受け入れてもらえそうで。この分だと私の将来のお義姉様はアデレード様になる日も近いかもしれませんわね」
アンリは屈託のないにっこりとした笑顔で告げる。
「それはまだお互いのことを良く知ってからということになっていますので……」
アンリの言葉にアデレードが答える。
「……ふーん。でもお兄様にも言えることですけれど、アデレード様も婚約者がいない状態だと広まったら恐らく引く手あまた。あんまりもたもたしていると、他の方に奪われてしまいますわよ? お兄様も今、あちこちから猛攻を受けてさらりと躱していらっしゃいますが、いつまでもその状態という訳にもいかないでしょう?」
アンリエットの発言にアデレードは気づかされたことがあった。
アデレードはゆっくり時間をかけてお互いのことを知っていき、その上で判断すれば良いと思っていたが、ゆっくりしている間に他の人に奪われる可能性があるということを全く考えていなかったのだ。
(よくよく考えてみたらローラン様みたいな侯爵家の跡取りで美しい人がいつまでもフリーの状態だなんてある訳がないですわ。ローラン様が私ではない人に愛を囁くなんて想像すると胸がズキっとする気がする……)
その後、ローランがアデレードに何かフォローするような言葉を言ったが、アデレードは上の空で、話を聞いていなかった。
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