第64話

 三つ用意されているテーブルには、ルグラン侯爵とバーンズ伯爵、ルグラン侯爵夫人とバーンズ伯爵夫人、ローランとアデレードとアンリエットという組み合わせでそれぞれ着席する。



 今日は庭園で食事をするということで、屋外でこそ楽しめるメニューの内容になっている。


 庭園に持ち運び式のグリルを設置し、炭と木材を利用して火を起こし、グリルの上部に置かれた網に肉や野菜をのせて焼く。


 つまりバーベキューが今日のランチだ。


 肉や野菜を焼くことで発生する煙や匂いの問題、さらに一歩間違えると火災の危険性もあるので、庭園といっても、草花を沢山植えているような場所ではなく、隅の方の何か不測の事態が起きても問題がない開けた場所で行う。


 また、それらの問題への対策として、グリルの設置場所とテーブルの間も十分な距離は取っている。



 屋外で肉を焼き、その場で焼き立ての肉を食べるのは美味しいということは貴族階級の間でも知られていることだが、どうしても煙や匂いが発生し、火災が起こり得る危険性、道具類の設置と後片付け等を総合的に考え、やりたがる者はそう多くはない。


 バーンズ伯爵夫妻も例に漏れず、バーベキューは自分の屋敷ではやったことがなく、他人の屋敷にお呼ばれした時にほんの数回だけ楽しんだことがある程度だ。



 火を起こし、肉や野菜を焼き、テーブルまで焼いた肉と野菜を運ぶのは料理人と使用人が協力して行い、ルグラン侯爵家の面々とバーンズ伯爵家の面々はもっぱら食べるのみである。


 大人達には肉によく合う赤ワインが提供されており、ローランとアデレードとアンリエットには雰囲気だけでも赤ワインに近いものをということで葡萄ジュースが提供される。


 ランチということもあって、ライトボディで赤ワインの中では口当たりが軽いタイプのものだ。



「今日はバーベキューにしてみました。我が家の料理人が最適な焼き加減で、食材の味を最大限に楽しめるように調理しますので、しっかり堪能して下さい。では、乾杯しましょう。乾杯!」


 ルグラン侯爵の乾杯という言葉に合わせて、それぞれのテーブルではグラス同士を合わせたカチンという軽快な音が鳴る。


「アデレード嬢、私達も乾杯しましょう」


 ローランが葡萄ジュースの入ったワイングラス片手にアデレードに乾杯を提案する。


「ええ。乾杯」


 アデレードもワイングラスを右手で持ち、ローランが持っているグラスに軽く当てる。

 


 乾杯が終わった後から、肉と野菜を焼く作業は始まった。


 肉は牛肉と豚肉、野菜は玉ねぎやピーマン、キャベツやカボチャ等が人数分用意されている。



 焼き始めて少しすると、肉が焼けるジュージューという香ばしい音と共に段々と辺りに食欲をそそる美味しそうな匂いが漂い始める。


 そして、ついに焼けた肉がグリルの網から大きめの丸い白皿に移され、それぞれのテーブルに運ばれる。


 運ばれた後、料理人がナイフでサッと手際よく切り分け、切り分けられた肉が各々の皿の上に盛り付けられる。


 切り分けられた肉の表面は綺麗に網目が付いた状態で焼かれており、肉の断面から判断して、焼き加減はミディアムレアのようである。


 アデレードは早速ナイフとフォークを使って、一口サイズに切り、口へ運ぶ。


「初めてこのような形式で焼いたお肉を頂きましたが、凄く美味しいですわね!」


 アデレードはあまりの美味しさに感動して、つい興奮気味にローランに味の感想を言ってしまう。


「久々に頂きましたが、美味しいですよね。味付けは塩胡椒だけですが、シンプルで一番美味しさを感じられる味です」


 次々と運ばれてくる焼いた肉と野菜に全員、舌鼓を打ちながらどんどん食べる。

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