第53話
「少し疲れたので、あそこのガゼボで休憩しましょう。ガゼボなら丁度良い日差し除けになりますし、薔薇も見えますので」
「そろそろ一旦座って休憩したいと思っていたので丁度良かったです」
「アデレード姉様。喉が渇いたからお茶も用意してもらおう。あと軽食も一緒に食べたいな」
「元々お茶と軽食はお願いするつもりだったから、問題ないわよ。ローラン様は食べられないものや苦手なものはございますか? もしあれば配慮しますので、仰って下さい」
「食べられなかったり苦手なものは特にないです」
アデレードはローランとウィリアムを連れて、ガゼボに案内する。
ガゼボの中は中央に丸い円形のテーブルがあり、そのテーブルを取り囲むように椅子が四脚ほどおいてある。
三人は椅子に腰を下ろす。
アデレードは三人について来ていたメイドに紅茶と軽食を用意するよう命じ、メイドはすぐに命じられたものを用意すべく動いた。
緊急事態が発生したり、アデレード達がメイドにやってもらいたいことが発生した時の為に、メイドが二人ついて来ていたのだ。
二十分程経ち、メイドがバスケットを持ってきた。
「アデレードお嬢様、お待たせ致しました。サンドウィッチとスコーン、クッキーとフィナンシェをご用意させて頂きました。紅茶は水筒に入れております。では、また何かございましたらご用命下さい」
メイドはバスケットをテーブルの上に優しく置き、バスケットの中身をテーブルの上に手際よくセッティングし、その場を去る。
テーブルは赤と白のギンガムチェックのテーブルクロスが掛かっている為、飲食物を置いても衛生的に問題なく飲食を楽しむことが出来る。
「さぁ、頂きましょうね」
三人は思い思いにテーブルに用意された軽食を手に取る。
「私が頂いたサンドウィッチはレタスと生ハムとクリームチーズでしたが、ウィリアムとローラン様は違う具材のサンドウィッチでしたか?」
「私のはレタスとローストビーフとスライスしたオニオンでしたね。とても美味しく頂きました」
「僕が食べたのはレタスと玉子とキュウリのサンドウィッチだったよ」
ひとしきりサンドウィッチを食べた後は、紅茶で喉を潤わせながら茶菓子に手を伸ばす。
「そう言えばこの紅茶はどこの産地のものですか?」
「ヴィリアン産のものですわ。最近、我が家のお抱え商人から勧められて購入してみましたの。紅茶の色合いが澄んだ上品な色合いの茶色で渋みが全くなく、口当たりがとても良いので、我が家では最近こればかり飲んでいますわ。恐らくお母様達もサロンでこれと同じものを楽しんでいると思います」
ヴィリアンとはアデレード達が今、居住しているサンティア王国の南部の方の地域だ。
「ヴィリアン産なのですか。気に入ったから今度我が家でも購入してみます。……それはさておき、アデレード嬢。いきなりこんなことを言ったら驚くと思いますが、幼少期の頃のご友人のことを覚えておりますか?」
「幼少期の頃の友人?」
「ええ。金髪に青い瞳の。場所はこのバーンズ伯爵邸で出会った」
「……え!? どうしてそれをローラン様がご存知なのですか?」
「ふふっ、それはどうしてでしょうね? それで、覚えているのですか? 覚えていないのですか?」
ローランはやけに押しが強くアデレードに詰めかける。
「実は今日、ローラン様にお会いして、あの子を思い出すなぁと思ったのです。ローラン様は彼女と色合いが似ているから。お名前は覚えておりませんが、あの時、彼女と一緒に見つけた四葉のクローバーは今でも大切にしていますわ」
「名前を覚えていないのは残念ですが、それは嬉しいですね」
ローランはアデレードの返事を聞いて、嬉しそうな微笑みを浮かべるが、アデレードは彼に怪訝な目を向ける。
「何故ローラン様が嬉しいのですか? もしかするとローラン様のお姉様か妹様だったりするのですか?」
「いいえ、違います。実はその子は私なのですよ」
「あの子がローラン様……?」
「だから初めましてではないのです。私とアデレード嬢の十年ぶりの再会です。お久しぶりです、アデレード嬢」
ローランが満面の笑みでとんでもない爆弾発言をする――。
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