第24話

「リリーとこのまま婚約する場合は、トーマス伯爵家の跡取りの立場を捨てねばならないというのは理解した。そういうことであれば、私はリリーとは別れ、アデレードに頭を下げ、再度アデレードと婚約する! それならば私は今の生活を手放さずとも済むはずだ!」


「ちょっと、ベン! あなた、何言ってるのよ!? わたしを捨ててアデレードお義姉様と再度婚約し直すですって!? わたし達は真実の愛で結ばれているんじゃなかったの?」


「それは間違いだったんだ! 今にして思えば、アデレードは伯爵令嬢として相応しい教養と品格があった。リリーとは比べ物にならないくらい価値のある女だ」


「何ですって!?」


 ベンとリリーは修羅場を繰り広げる。


 ベンはトーマス伯爵家の跡取りという立場と伯爵家での生活を失ってまでリリーと一緒になりたいとは思わなかった。


 そうなるくらいならアデレードに頭を下げるのは安いものだ。



「ちょっといいか、お二人さん。ベン、お前の中では彼女と別れ、アデレード嬢と再び婚約するということになっているが、肝心のアデレード嬢の意思はどうなる?」


「アデレードは私のことを愛しているはずだから、リリーを捨てて誠実に謝れば、もう一度私と婚約してくれるはずだ!」


「アデレード嬢に婚約破棄を突き付け、その後、そこの彼女に対する虐めで、アデレード嬢を悪女呼ばわりして謝罪を強要したらしいな。虐めは事実ではないようだから冤罪になるが。そんな元婚約者と再度婚約したいと思うか? しかも、婚約破棄を突き付けた時に彼女を真実の愛で結ばれていると言っていたようだが、こんなに短期間でころころと相手が変わるなんて、お前の真実の愛とやらは随分と安い愛なんだな」


「父上、ディナーが始まる前、兄上は僕に対してもそこの彼女との真実の愛とやらを盛大に語っていましたよ。何を言っているのか僕には全く理解は出来ませんでした」


「アデレードとお前の復縁はあり得ないと伯爵からの手紙に明記されていた。真実の愛なんだとほざいて浮気しておいて、冤罪で悪女呼ばわりに謝罪の強要。常識的に考えて復縁はあり得ないだろう」


「そんな馬鹿な……! アデレードは私が復縁したいと言えば泣いて喜ぶはずだ!」



 伯爵は私兵を呼び、トビーとリリーを拘束させる。


「こいつら二人を屋敷から追い出しておいてくれ。ベンは除籍するから伯爵家の者として扱わずとも良い」


「はっ」


「これが最後の餞別だ。そこの彼女と仲良くやってくれ。彼女と別れても伯爵邸には二度と入れないからな」


 伯爵は金貨が入った革袋――先程話題に挙がった分の金額は抜いている――をベンに渡し、私兵はぎゃーぎゃー喚いて抵抗するベンとリリーを彼らの引っ張って連行する。



 ベンはトーマス伯爵家の貴族籍から除籍され、リリーと一緒に追放される。


 ――これが愚かな二人の末路だった。





**********


読んでみて、もし面白いと思われましたらフォローや☆、♡で応援して頂けると嬉しいです!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る