5. 両親

 悪役令嬢役を引き受けたら異世界に飛ばされ、そのうえ、子供に戻っていた。

 困惑していると、部屋のドアが開き誰かが入って来た。


「マリー、どうした何があった!」

 入ってきたのは黒髪のイケメン男性だった。スタイルもバッチリ。


「あなた、マリーは無事なの?!」

 少し遅れて、金髪碧眼の美人もやってきた。

 そして、その美人は、そのまま、私に抱きついてきた。


「マリー、意識が戻ったのね。よかったわ。突然倒れて、意識が戻らなかったから心配したのよ」

 私、意識不明だったのか? 何があったのだろう?


 それよりこの二人は誰だ? 私はこの二人を知らない。

 状況から見て、私がマリーで、この二人はマリーの両親だろうか?


「お母様?」

「なあに、マリー」


「お父様?」

「なんだ、マリー」


 やはり、両親で間違いないようだ。

 そして、両親の服装だが、二人の後からやって来て、様子を窺っている人たちとは明らかに違う。

 後から来た人たちは、執事服やメイド服だが、二人の衣装は、いかにも高級そうだ。

 ここがプロヂューサーが言っていた公爵邸なら、二人は公爵と公爵夫人で間違いないだろう。

 そうすると、私は公爵令嬢ということになるのだが……。


 私が、受けたのは悪役令嬢役だ。

 もしかして、既に劇は始まっているのだろうか?

 だが、プロデューサーは準備期間が七年あると言っていた。


 説明がないまま放り出されて、わけがわからないことだらけだ。

 そうだ、こちらにいるマネージャーに詳しい事は聞けと言われたんだった。


「あのー。マネージャーは?」

「マネージャー? 何のことだい?」


 あれ? マネージャーは? マネージャーはどこ!


 マネージャーがいないことには、この後、何をすればいいかわからないじゃない。

 何処で油を売っているのやら。使えないマネージャーだわね!


 ああ、せめて、台本が読めれば、いくらか現状を推測できるのだろうが……。

 台本はしっかりと枕元に置いてあった。

 マネージャーはあてにならないから、これは、文字を覚えて、台本を読むのが最優先事項だわね。


 そういえば、両親がしゃべっているのは日本語じゃないけど、意味がわかる。

 プロデューサーのあれで、言葉を授かったということなのだろうか?


「あら、マリー、顔が赤いわよ」


 プロデューサーから、額にキスをされたことを思い出して頬を染めてしまったようだ。

 お母様が、私の額を触って熱を確かめながら心配している。


「もう少し寝かせておいた方がいいだろう」

「そうね。マリー、もう少し寝ていなさい」

「はい、わかりました」


 私が素直に頷くと、お父様が、私を抱き上げベッドに寝かせてくれた。


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