歴史の川
「少し長くなるがいいかな?」
「はい」
「クラウディアとガリヤの話は?」
「少しノヴォさんから聞きました」
私は頷いて話を続けた。
「それは歴史学の書物だ。君はまず知らねばならない。知とは自分を知り道を歩む上での
リヒトはコクリと
「クラウディアの基本教育の中に歴史学がある。一見、語学や数学と違って生活に直接関わりがないように思えるが、リヒトはどうして歴史を学ぶかわかるかい?」
リヒトは一瞬
「うーん……、わかりません」
私は自身の受けた先人達の加護に思いを
「歴史にはね、1人1人の人間の人生が詰まっているんだよ。名を残した者も残さなかった者も、我々の親もその親もずっと先のご先祖も。そうやって重なった血や想いが一つの川のように今に流れているんだ。歴史を学ぶこととは人生を学び教訓を得ること。私達が生きていく上で今いる立ち位置を知ることになるんだよ」
リヒトは感心したように固まっていた。
私も真新しい歴史の書物を手に取って開き、静かに指でなぞる。
部屋に少し風がそよいだ。
「
私は本の数行を静かに読み上げた。ついこの前のことのように思い出す。
「両国の間で争ったこと。3年前に君の故郷も含め多くの
「続き?」
「事実、
「え?」
リヒトは驚きながら、
「ガリヤとはクラウディアの北東、メルヴェイ山脈を越えた向こうの山岳地帯に自治国土を持つガリヤ教を
本を片手で閉じるとパンッという乾いた音が響いた。
「本には載ることはない裏の話だが、これもまた歴史の一つ。彼らは皇国に牙を
一瞬、昔のリガーメ広場の光景が頭に
「月に一度、彼らはスルグレアの東から
リヒトは目を丸くして口をポカンと開けた。
「どうして月に一度なんですか?」
驚かないのか、裏で争いがあることに。平和に見えるこの国の影でそんなことが起こっているなら普通なら誰しもが驚くだろう。
しかし当然かもしれない。ほとんど
私は紙と筆を取り出した。
「ガリヤにも
「ええっと、火耀、金耀、水耀、木耀、土耀、天耀、海耀」
賢い子だ。災いに巻き込まれるまでに両親と学術院から受けただろう教育をキチンと覚えているのだろう。
私は紙の上に縦に
「そうだ。この
そしてリヒトに口で説明しながらその横にそれぞれ意味を記して見せた。
火耀は戦いの日
金耀は
水耀は
木耀は
土耀は
「例えばクラウディアでも木耀以外の飲酒は禁止されていた。今では無くなったがね。それでも木耀にしか酒を飲まぬ人は今でも多い」
私はカモミールのくれたコスモスに少し目をやって言った。
「このように
私はその日を思い返しながら、今も戦っているノヴォやカシミール達の姿を思い浮かべた。
「そしてガリヤでは、
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