見張り番



あいつらは必ず12時きっかりにやってくる。ものすごいはやさでやってくる。


確認したらまず真上に「見えた」合図の1発目の発光弾。

あいつらが国境を越えてクラウディアに入ったらそれぞれが向かう方角へ2発目の発光弾。

僕と兄ちゃんは下を向くとスゥッと息を止めた。


───ラズリ様、罪深き僕らを御赦おゆるし下さい。戦う兄ちゃん達を見捨てないで下さい。罰なら受けますから、どうか少し御力おちからを貸して下さい。


お祈りをしながら集中を始める。


冷たい風に髪がれた。

右目の中にぼんやりとした熱を感じると、僕はゆっくりと顔を上げて目を開く。

真っ暗な夜が、深くあおい水の中に沈んだように漂っていた。


走るのをめて歩き始めた夜風と一緒に、僕とヒンメル兄ちゃんはあおの世界の中で揺らいだ。


白い息の先にのぞく遠く離れた国境沿いに目を向けると左手の奥にメルヴェイの山々がたたずんでいる。

雪化粧をした渓谷けいこくから幾つかの雪解け水が流れている。


右手の奥に広がる森は頭を揺らしていて、木々が息吹いぶいて揺らめく先っちょまでが鮮明せんめいに見えた。


「11時57分」


兄ちゃんの静かな声が時間を告げる。


視線を手前の廃墟の方まで向けると、南地区にカシミール姉ちゃんが瓦礫の高台に立ってピオッジアを握りしめている。


東地区の北寄りではノシロン兄ちゃんがスネイクを素振りしている。


ノヴォ兄ちゃんはその2人のちょうど真ん中くらい。いつもの黒いニット帽を直してから右手の腕当てを触っていた。


「11時58分」


そこからしばらくの間、遥か彼方の国境付近に意識を集中させる。


僕らはあおの世界で赤い目を追う。


とても時間が長く感じる。僕は集中が途切れないように気を引き締めた。

見落とさないように目を凝らしていると、やがて兄ちゃんの声が強張こわばった。


「11時59分。来るぞ」


───さぁ来い!みんなで追っ払ってやる!


僕はみんなのいる心強さに気持ちを奮わせた。

いつも時間になると、あいつらの赤い目と白い影が夜に浮かぶ。

ゆっくり脈打つ心臓の音を感じながら発光弾の銃をしっかり持ち直した。


だけど……。


必ず時間通りに現れるアリオス家の2人は、何故か今日に限ってその姿を闇に浮かべることは無かった。





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