第51話 遭遇
黄金街道から分かれた細い道を進んでいく。
途中で昼食や小休止を取った以外は、歩き通しである。
旅慣れないはずのレティシアだが、冒険者たちが驚くくらいの健脚ぶりを見せていた。
「いや、途中で歩けなくなるかと思ったんだが……なかなかどうして、やるじゃないかお嬢さん」
「私もお嬢様がこんなに体力があるとは思いませんでした」
「えへへ〜」
「……治癒魔法も使えるとはな」
そう。
彼女は道中辛くなってきたら、治癒魔法をかけながら歩いてきた。
治癒魔法で関節の痛み、筋肉痛、足の裏に出来たマメ……等を治すのだ。
しかし、治癒魔法では疲労は回復出来ないので、純粋に彼女自身の頑張りもあるだろう。
それが分かってるから、箱入り(?)の貴族令嬢が見せた思いがけない根気強さに、皆は感心してるのだ。
「腹案も考えていたが……これなら予定通りに行きそうだ」
旅慣れない護衛対象がいるということで、当初の予定が狂った場合の別プランも想定していたが……どうやらそれは使わなくて済みそうだ、とフランツは言う。
周囲の景色は徐々に山地のそれへと変わっていく。
背の高い木々が林立し、鬱蒼とした雰囲気になる。
日はとうに天頂を過ぎて久しく、あともう少しすれば空は茜色に染まるだろう。
「あともう少ししたら野営予定地だな」
「え〜と……確か鉱山が休止する前は坑夫たちの村だった場所ですよね」
「そうらしい。開山して割と直ぐに休止になったから、それ程の規模では無いらしい。放置されて久しいが……雨風が凌げる建物が残っていれば、野営せずに済むんだが」
「私は野営も楽しみです!」
「本当、レティシアさんは変わってるわよね……」
ウルスラがしみじみと呟く。
エリーシャも、うんうん…と頷いてる。
「そうですか?」
「そうよ。普通だったら公爵令嬢相手にこんな口調で話したら怒られるし。こんな獣道みたいなとこ通ったら、やれ「疲れた!」だの、やれ「虫が!」とか言いそうなものよ。……まぁ、イメージなんだけど」
「あはは……まぁ、私もそんなイメージはありますね」
彼女が、この国の貴族令嬢が割と逞しい事を知るのは……もう少し未来の話だ。
「それにしても、確かにこの道は細いかな……何とかしたほうが良さそう」
「何とかって……どう言う事ですか、お嬢様?」
「今回向かってる鉱山は、まだまだ十分な採掘量が見込まれてるんだけど……それを運び出す道がこれじゃあ……ね」
「なるほど。確かに、せっかく採掘しても輸送がネックになりそうだな」
そう言うことである。
獣道よりは多少マシ……と言う程度の道では大量の鉄は運び出せないだろう。
「多分、道の整備をする前に休止しちゃったんだね……見に来ておいて良かったよ」
鉱山の採掘再開とともに、道の整備も計画に盛り込まなければ……と、彼女は算段を付ける。
そして、暫く山道を進んでいると、斥候のウルスラが警告を発する。
「しっ!静かに……何かいるわ」
「……魔物か」
「多分、そうね……複数の気配……木々に紛れながら息を潜めて近づいてくる。こっちに気がついてるような動きね」
「この辺の分布図だと……ゴブリンあたりか?」
「いや、ウルスラが察知した時点で既にこっちに気がついてるってんなら……もう少し高ランクなんじゃ?」
「何れにせよ油断は出来ん。この場で迎え撃つぞ。レティシア嬢は後ろに」
「は、はい!」
「お嬢様、私の側に……」
魔物を察知して即座に臨戦態勢を取る冒険者たち。
エリーシャも抜剣してレティシアの前に立って構えを取る。
(魔物……昔、家族でピクニックに行ったとき遠目に見て以来だ……ちょっと怖いかも。でも……この人たちなら大丈夫だよね?)
魔物が近くに来ていると聞いて、流石のレティシアも恐怖を覚える。
しかし、こちらも高ランクの冒険者が揃っている。
きっと皆が護ってくれるから何の心配もいらない……レティシアは、そう自分に言い聞かせて心を奮い立たせるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます