第35話 展望


 魔導力モーターの試作品が完成した。

 レティシアたちはそれが想定した通りの性能を有するのか、様々な測定や検証を行っていった。

 その結果、成果と課題が浮き彫りになる。




 ある日、魔導モーターの一通りの測定を終えたレティシアたち研究開発!ラボの面々は、各種測定結果を纏めたレポートに目を通し、そこに並ぶ数値の検証を行っていた。


「う〜ん……出力はまずまずだね。だけど……」


「連続起動時の挙動が安定しない。だが、これは……」


「ふむ。魔導モーターの問題というよりは、魔力池の方だな。魔圧と魔流が安定していないのだろう」


「耐久性の方は問題無さそうだぜ。軸受の摩耗は殆ど見られねえな。大型化したら負荷が全然違うだろうからまた違うかもしれんが」



 結論としては、魔導モーターそのものは期待通りの性能を示したのが成果。

 課題は魔力の供給側の方だった。


 また、今回は実際に動作できるかの検証を行うための小型試作品であるため、親方の言うように大型化した時に別の問題が生じる可能性はある。





 そして、今回の試作品の総評は……


「うん!先ずは成功と言っても良いんじゃないかな?」


「そうだな。モーターの方はもっと大型化して更に実用化の観点で検証しても良いかもしれない」


「問題は魔力池の方か……こいつはごくありふれた汎用品で、普通の魔道具の起動に使うには全く問題ないんだがな」


 課題はいくつかあるものの、最初としては上々の結果という評価だった。
















「大型化するとなると更に耐久性を持たせないと。取り敢えずこのケーシングの材質を変えたいね」


「ミスリル合金なら軽量かつ強度も優れてるが、その分コストがな……」


「魔性体(※磁性体の魔法版)は鉄のままで良いのか?」


「それもあるけど、属性化の術式の方ももっと効率化したいね。最終的には何両も牽引する必要があるから、出力は可能な限り大きくしたい」


 レティシアは今回の魔導力モーターの成功を受けて、最終目標を見据えた本格的な開発にシフトしたいと考える。

 彼女の頭の中では既に、開発した動力をどのように車両に組み込むか検討をしていた。


 即ち、集中方式か分散方式の何れにするか、についてだ。


 メリットデメリットはそれぞれの方式であるが……集中方式にしようと彼女は考えていた。


 分散式にするにはモーターの品質のバラつきを抑えないといけないが、まだそこまで安定した品質で生産できるか不透明だったこと。

 蓄魔力池に大きな容積が必要になると想定されるので、機関車のように純粋な動力車じゃないと配置が難しいであろうこと。

 大きな理由としてはそれらが挙げられる。


 機回しの手間など、デメリットも色々あるのだが……当面はそれほど大きな問題にはならないだろうと考えていた。


(連結器とか緩衝装置を工夫すれば、前世のヨーロッパみたいに機回しなんてしないで推進運転できるかも知れないし)



 そんな風に、彼女の中では急速にイメージが固まりつつあった。






















「お嬢様、もうそろそろお休みになっては……」


「あ、もうこんな時間か……ありがと、エリーシャ。もうそろそろ寝るよ」


 邸に戻ったあとも、レティシアは夜遅くまで設計作業に集中していたが、それを見かねたエリーシャが声をかけるとようやく彼女は作業の手を止めるのだった。



「……お嬢様、凄く楽しそうですね」


「うん。楽しいよ。夢が段々形になるのはね。停滞してたから尚更」


 動力の目処が付いたことで一気に夢の実現可能性が見えてきた。

 それまでも、台車や車体、線路や土木関連の基本的な設計などを行っていたので、決して無駄な時間を過ごしていた訳ではない。

 それでも心臓部とも言える動力が出来た事は大きな前進に感じられ、それに伴ってモチベーションも増大したのだった。



「いよいよ本格的に開発が始まる……そろそろ国にアピールしないとね」


「国……ですか?」


「うん。モーリス商会を立ち上げたけど、資金面ではまだ不安があるから、国家事業として認められないか……と言うのと、何よりも国土に線路を敷設するには先ず国の許可がいるでしょ?」


「確かにそうですね」


「いや〜、公爵家の生まれで良かったよ。ある程度道筋が見えてきたら、父さんに調整お願いしないと」


 国の重役たるアンリならば、国……国王に対しても顔が利くはずである。

 当然それを使わない手はないと、レティシアは考えるのだった。

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