第31話 商会

 ついに動力に関して実現性の目処が見え始めたレティシアであるが、これでようやくスタートライン立ったに過ぎないとも彼女は思っていた。

 これから更に先を見据えれば、問題・課題はまだまだ山積みである……と。


 それでも、暫くは開発が停滞していたことを思えば、大きな一歩を踏み出せたのは喜ばしいことには違いがなかった。



 さて、これから開発はいよいよ本格化していきそうではあるのだが、そうなれば資金繰りも相当にシビアになってくるのは明白であろう。


 とすれば、以前アンリに打診された商会立ち上げの件も具体化しなければならないだろう……そう、彼女は考える。



(でも、私が会長って……父さんには、『やってみる!』なんて言ったけど、全然自信がない……)


 生憎と、彼女は前世で会社経営の経験など無いので知識チートなどは当然期待できない。

 経営どころか会計だって素人だ。

 そんな状態で商会の会長なんて務まるとも思えないのだが……



(ん〜……まぁ、父さんも手伝ってくれるって事だし、先ずは相談かな。準備は進めてくれるって言ってたし、それが今どうなってるかも聞かないとだね)



 ということで、彼女は早速父親のもとに相談しに行くのであった。

















「商会の件かい?それなら登記申請してるところだよ。今は認可待ちだね。会長はキミで、副会長はアデリーヌ」


「いつの間に……手伝ってくれるとは聞いてたけど、そこまでやってもらえるとは思わなかった……」


「なに、登記自体は書類を準備して所定の手続きを踏むだけだからね。大変なのはこれからだよ」


「そっか〜……がんばる!」


 いよいよ商会の立ち上げが具体的に進むと聞いて意気込むレティシア。



「扱う商品はある程度決まってるから……当面は商会のメンバーを募集しなければだね。これまで取引のあった商会から人員を派遣してもらうのと……工房は親方のところなら傘下になるのも乗り気になってくれるだろう」


 いわゆるヘッドハンティングと言う事になるのだが、そのあたりはモーリス公爵家との繋がりが強いのでスムーズに調整できるだろう。


「ん〜……あとは、マティス先生に魔道具開発関連の顧問になってもらいたいなぁ……」


 これまでも新たな魔道具を作るときに、いろいろ相談に乗ってもらったので、是非ともお願いしたいと考えていた。


「まぁ、キミがお願いすれば大丈夫じゃないか?」


「取り敢えずお願いしてみる。あとはリディーさんかな……」


 先日の会合でそのような話になっていた。

 鉄道の実現には彼の力は欠かせないものになるだろう。



「リディー……?あぁ、先日会ったというアスティカントの卒業生か。どんな人なんだい?」


「あの人は凄いよ!私の考えを即座に理解してくれたし、その上でいろんな改善点やアイディアも出してくれるし!商会を立ち上げるなら絶対に必要な人材だと思う!」


 目をキラキラさせて力説する娘に少し気圧されるアンリ。


「そ、そうか……それは良い出会いだったね」


「うん!」


 娘の喜びように、父親として微笑ましく思うが……


(ふむ……身元はハッキリしているようだが……しっかり身辺調査はしておかねばな……)


 などと内心で考えているあたり、彼も相当な親馬鹿であるのだろう。






 その後……


 人員の募集の目処もある程度立って、曲がりなりにも活動が行えるようになるまで着々と準備が進むのであった。




















「ここがモーリス商会本店(予定)?」


「そうだね。中古だけど悪くない物件だよ」


 アンリと商会についての話をした数日後には、当のモーリス商会の拠点となる店舗の確保も済んで、今は父娘で視察にやってきたところ。


 大都市の部類に入るイスパルナでも最も賑やかな区域の一つである中央広場に面した、地上3階建ての建物。

 店舗兼事務所のそれは周囲の建物と比べても中々に立派である。

 中古との事ではあるが、しっかりと手入れは行き届いるらしく外観も綺麗なものだ。

 少なくとも、登記したばかりの商会が本拠を置くには十分すぎる物件だろう。



「当面は事務所として使うだけだろうが……何れは開発した魔道具などを直売する店舗にしても良いんじゃないかな」


 今のところは開発・生産したものは取引先の商会を通じて販売することになるが、体制が整えば店舗経営も行えるだろう。



「よ〜し!頑張るぞ〜!!」


 こうして、レティシアはようやく鉄道開発も商会立ち上げも、その一歩を踏み出すことが出来たのだった。

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