第30話 新たな協力者


「つまり、こう回転すると属性が変わって…引力と斥力が交互に切り替わる事で継続的に回転するの」


「なるほど……そうすると、ここの材質はミスリルよりも鉄の方が良さそうだ。ミスリルだと魔力が滞留しやすいから瞬時に属性が切り替わらない」


「だね。そこは材料工学の研究成果で……魔導特性の適切な組み合わせを実験すれば……それに、合金とかも研究開発した方が良いかも。親方に頼めば色々試料は作ってもらえると思うし」


「それは追々やるとして、今はとにかく実現可能か検証するための実物を試作するのが先決ではないか?」


「うん、それはもちろん。ベースはこの設計図を元にブラッシュアップしていこうかな、って」


「試行錯誤しながらだな。しかし、最終的な目標を考えると…かなりの出力が必要になるな」


「魔力をプールしておく機構ね。でも、そっちは単純に大きさに比例するから……」



 最初はあまり乗り気ではなかったリディーも、今はすっかり夢中になって意見を交換しあっている。

 お互い自然と言葉遣いも砕けて、気安いやり取りになっていた。


 マティスはそれを微笑ましそうに眺め、時々魔法に関する意見を聞かれてアドバイスしている。



(以前もこんな事があったわ。これ、中々終わらないのでしょうね……)


 エリーシャは活き活きとしているレティシアを見て、内心で覚悟を決める。









 しかし、それも日が暮れる頃まで続くとなると、流石に話に割って入って止めるのだった。




「ご、ごめんなさい……すっかり夢中になっちゃって」


「いや、こっちこそ……中々に興味深い話だったし、俺も是非協力したいと思った」


「本当!?……あ、でも、アスティカントで研究員になるんだよね?」


 今は帰省のためイスパルナに来ているが、それが終わればアスティカントに戻ると言う事だった。

 だが、リディーは頭を振って答える。


「いや……アスティカントに残るというのも惰性的なところもあってだな…。正直、今日の話の方が魅力的に思えた。レティシア嬢さえ良ければ、俺も鉄道開発に本格的に参加させてもらいたい」


「もちろん!大歓迎だよ!」




 リディーはたった一日で己の世界が一変したのを感じた。

 彼女の語る夢はあまりに壮大で、最初は子供の絵空事に思えたが……彼女の話を聞いていると実現するのは不可能ではないように思えた。

 それはリディーにとっても非常に興味深く…レティシアに話した通り、何となく学院に残るよりは彼女の夢の実現を手助けする方が魅力的だったのだ。


 そして、レティシアの人となりも、こうして直に話をしてみると非常に好ましく思えた。

 少なくとも彼が嫌っていた、学院で接してきた貴族の子息たちとは別人種だということが分かった。




 具体的にリディーが鉄道開発に参画するに当たっては、これから立ち上げようとしている商会の一員になってもらおうか、という事になった。

 もちろんいきなりではなく、いろいろ調整した上で…だが。


 詳しい話や契約は後日詰めることとなり、今日のところは名残惜しくも解散することとなった。











「ごめんね、エリーシャ。すっかり話し込んじゃったよ」


「いえ、こちらこそ水を差してしまい申し訳ありませんでした」


「ううん、そんなことないよ。それにしても……リディーさんとは気が合いそうだよ!協力してくれることになったのは嬉しい誤算だったね!」


 心底嬉しそうにそう話すレティシアを見て、エリーシャは微笑ましげに主を見るのであった。


(ふふっ…まるで恋する少女みたい。……もしかして、本当にそうだったりして…?まぁ、まだお嬢様は8歳だし、そんなことは無いか……でも、将来的にはお似合いの二人になりそう)


 エリーシャは内心でそう思うのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る