第23話 婚約話


「どぉおりゃあーーーっ!!!」


 怒号とともに槍戦斧ハルバードが豪快に振るわれる!!


 ドゴォっ!!


 刃引きしてるとは言え、直撃すれば大怪我…命の危険すら有り得る容赦ない一撃だが、リュシアンはそれを紙一重で避けて、こちらも当たればただでは済まない神速の突きを放つ!!


「フッ!!」


「なんのっ!!」


 ガキィッ!!


 攻撃直後の不安定な体勢を狙われたにもかかわらず、侯爵は無理矢理得物を引いて槍を弾く!




 既に手合わせが始まってからかなりの時間が経った。

 その間お互いに一歩も譲らず、有効打は今の所無し。



 目まぐるしく入れ替わる攻防に、レティシアはわけが分からず既に戦いを目で追うのを諦めている。

 彼女の信じ難いことに、ルシェーラははっきりと動きを把握しているらしく、逐一報告をしてくれているのだ。


(う〜ん……これは、転生チートは私には無理だなぁ……いや、鉄道開発は知識チートの賜物か?ワンチャン、魔法チートもまだ期待できるかも)


 何れにしても、武術は自分には向かないな…と早々に見切りをつけるのであった。









 延々と続くと思われた勝負だったが、決着の時はそれから暫くしてやってきた。


「はぁ…はぁ…はぁ……」


「…流石に身体が出来てねぇだろうから、そろそろ体力も限界だろ」


「い、いえ……まだまだやれます!!」


「無茶すんな。今の時点で互角なんだから…俺程度なんざ直ぐ追い越しちまうだろ。ここまでだ」


「……はい。ありがとうございます」


 有無を言わせず侯爵は終了を宣告し、渋々ながらリュシアンはそれを受け入れる。

 一先ずは引き分けという形だが、戦いを続けていれば自分が負けていたであろうことは彼自身か良く分かっていることだろう。


「そんな悔しそうな顔をするなって。……一つアドバイスなんだがな。個人の武勇を突き詰めるのもいいけどよ、お前は騎士志望なんだろ?ならば、求められる資質は強さだけじゃねぇ。騎士って言うのは国を、国民を守るのが役割だ。そのために自分がどう有るべきなのか、よく考えるんだな」


「どうあるべきか…」


「まあ、偉そうに言ってるがよ。俺だって大戦では色んなやつに助けられてどうにか生き延びることができたんだ。一人では成せないことも、多くの仲間の力があれば、な」


「…はい」


「いやしかし、久しぶりに良い運動が出来たぜ。ここのところ事務仕事ばかりだったからなぁ…礼を言うぜ、リュシアン」


「いえ、こちらこそ胸を貸していただき、ありがとうございました」


 こうして二人の手合わせは終わったのだが…



「おとうさま!リュシアンさま!おふたりともすごかったですわ!!」


 武術大好き幼女、ルシェーラが二人に称賛の言葉をかける。

 戦闘中もそうだったが、今も興奮冷めやらぬ様子。

 もともと父の事は尊敬していたが、今回の手合せでリュシアンの株が爆上がりである。


「おう。ありがとな」


「ありがとう、ルシェーラちゃん」


 二人とも相好を崩してルシェーラにお礼を言う。


 だが、そこで予想もしない無邪気な爆弾発言が飛び出した。


「リュシアンさま、すごくかっこよかったですわ!!わたくし、リュシアンさまのおよめさんになりたいです!!」


「な、なにっ!?」


「まあ…」


「あら!いいわね〜!リュシアンはまだ婚約者もいないし…」


 即座にアデリーヌが反応する。

 手合わせにはさしたる興味もなかった様子だったが、こと恋愛関連の話は大好物らしくノリノリで話を膨らませようとする。


「…母様。流石にルシェーラちゃんとは年齢差が…」


「何言ってるのよ。そのくらいの年の差なんて貴族では当たり前にあるわよ。あなたもそろそろ考えなければいけないし、侯爵のお嬢さんなら申し分ないし…ねえ、あなた?」


「え?あ、ああ…そうだね……だけど、ルシェーラちゃんはまだ小さいし……急いで決めなくても」


「ウチとしては問題ないですわ。ねぇ、あなた?」


「い、いや、俺ぁ…」


 リファーナもどうやら乗り気のようだ。

 だが、侯爵としては複雑な様子。



(…もはや兄さんの意思は関係なさそう。何か悟ったような顔になってるよ…)


 母親二人のノリノリの様子を見て、「口出ししても無駄」と考えてるようだ。



 そうして、リュシアンの婚約話はトントン拍子に進んでいくのだった。

 本人の意見はそれ以上聞かれることもなく…

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