第19話 王族殺害2
壁も天井も白く塗られた廊下を数人で歩く靴音だけが響いている。前を行くのは白の塔を警護している騎士でそれについて歩くのは王妃ジョルジャと私とエミリオの三人だけだ。
母上が秘密裏に王妃ジョルジャに連絡を取り数日のうちに私とコレットの密会がお膳立てされた。誰にも見つからないように塔へは王妃ジョルジャの馬車を使いそこへ私は侍女としてエミリオは変装して彼とわからぬようにして護衛として付き添い、母親が娘と面会するために来ているように見せかけている。
慣れた感じで王妃ジョルジャは開かれたドアをくぐる。部屋の中には憔悴しきった顔のコレットがもたれかかっていたソファから身を起こした。
「お母様……また来てくださったのですか」
力無く微笑むコレットは見ていて痛々しい。もともとぽっちゃりとしていた姿はやつれ少し痩せたように見える。王妃が我が子の隣へ静かにすわるとここへ案内してくれた騎士は下がりドアの外で待機する。
それを確認すると王妃はポケットから幾つかの小さな魔術具を取り出した。それは盗聴を防止する物で持っている者たちだけが内密に話をしたり聞いたりすることが出来る。
王妃がそれをコレットに一つ渡し、振り返ると私とエミリオにも渡すの見てコレットが驚いた顔をした。
「お母様、どうしてこの者達に……はっ、あなたは、リアーナ様!」
コレットは侍女の格好をしていた私に気づいて怯えた顔をして隣に座っていた母親にしがみついた。
「コレット姉様落ち着いて下さい、大丈夫です」
私はゆっくりと近づくと笑顔を作って警戒心を解こうとした。
「近づいて来ないで!お母様どうしてリアーナ様をここへ入れたのです、私は兄妹の誰かにこのような目に合わされたのですよ!」
「コレット、落ち着きなさい。リアーナ王女殿下は大丈夫です、王妃エリザベス様ともきちんと話し合い契約をしてここへお連れしたのです。先ずは話を聞きなさい、貴方を救う為の時間があまりありません」
王妃ジョルジャは焦る気持ちを必死に抑えながら娘コレットをなだめていた。
「コレット姉様、私も助かりたくてここへ来たのです」
そう言うとコレットはまだ疑いながらも私が向かいのソファに座るのを黙って見ていた。
「助かりたいって、どういうこと?」
「姉様は呪いをかけられたと仰っているとか」
私の言葉にコレットは顔を歪めるとポロリと涙を溢した。
「貴方も私を馬鹿にするのね!誰も私の話を信じてくれない!だけど私はデミアンを殺したいなんて一度も思ったことない。それなのに気がついたら、あんなことに……」
王妃は優しく娘の頬を撫でると落ちついた声でゆっくりと話した。
「リアーナ殿下も呪いをかけられたそうです」
コレットはハッとすると顔をあげてこちらを見た。私がコクリと頷くと縋っていた母親から離れ身を乗り出した。
「貴方は何をしたの?」
「シタのではなくサレタのです。今は男の身体なんです」
そう言って羞恥に耐えながら侍女服の胸元を開いた。
コレ何度やればいいんだろう……
コレットと王妃がジッと膨らみのない真っ平らな私の胸を見て少し首を傾げていった。
「リアーナ様は最初からそんな薄い感じではなかった?」
「これ……そういうことは思っていても口にしてはいけません」
「はぁ!コレット姉様何を仰っているのですか!?だいたい姉様は私の裸を見たことは無いでしょう?」
ドサクサに紛れて王妃様までこっそり私を貶してるし。騎士コースを取っている訳でもないコレットにそんな機会があるわけない!
「何だったら下も見せましょうかぁ!」
私は立ち上がってスカートの中へ手を入れた。
「お待ちになって!」
「いけません姫様!!」
王妃とエミリオが必死に止めて来たので思いとどまると腰を下ろした。コレットだけが頬を染めつつも止めなかったのがちょっと気になるが、まぁお年頃だし興味はあるよね。
「ゴホンッ、では改めまして。姉様が呪われたと思ったのは何故かをお話し下さい」
コレットは頷くとデミアン殺害の三日前の事を話し出した。
コレットが学院で帝王学コースを終え貴婦人コースへ行こうとしていた時のこと。同じコースを取っている私がいつもなら同じ教室へ一緒に向かうはずがその日は騎士コースの特別授業と時間が被っていたのでそちらは欠席したため姉様は一人でその教室へ向っていた。勿論ひとりと言っても護衛と侍女は常についていた。
次の教室へ向かう途中、学院の中庭の横の廊下を歩いているとふと花の香りがした気がして気まぐれに庭を横切ろうとしたらしい。普段なら次の教室へ急がねばならずそんな事は侍女達が止めるはずが誰も何も言わずさもそうするのが当たり前かのように三人は人気の無い中庭へ行っていったそうだ。
「そこで……女を見たのです。ですけどそこからの記憶は曖昧で、でもその女が言ったのです。『同じ手は使えないからねぇ、色々と試してみないと』って言って何か魔術を使われた事は確かです。
でもその事は私を含め侍女達もすっかり忘れてました。あの事件が起こった後に思い出して、何故あの時デミアンと話していたのかも覚えていません」
私はあの夜の女の顔が浮かんだ。
「どんな女でした?」
「顔はそこそこの……でも真っ赤な唇が印象的でした。あまり若くはありませんでしたね、いわゆる年増でした」
「コレット姉様ってけっこう毒舌ですわね、でも私がやられた相手も恐らく同じクソ女魔術師でした」
二人で顔を見合わせるとニヤリとした。
「王女ともあろう二人がそのような悪い言葉を使ってはいけませんわ」
王妃ジョルジャが窘めるようにそっと口をはさんだ。
「心の中だけにしておきなさい」
と付け加えたが。
コレットは今回の事が無実だとわかったところで王位を狙うことはもう出来ないだろう。一度ついた汚点は中々拭うことは出来ないが私に協力することによって白の塔から出ることが出来るかもしれない。
そういう魂胆があって母上と王妃ジョルジャは私が王位につくために協力すると契約を交わしたのだ。
今回の私とコレットに起きたことは確実に兄妹の中の誰か、もしくはその周辺者の手によるものに間違い無い。
一体誰の仕業か……
サムエウが死んで以来混乱を極めている王位継承だがコレットが妨害された事によって現在候補に残っているのは六番から十番までの五人。
六番目の王妃の子、王子オスカリ、十九歳、今は騎士団に所属しているが気ままな性格だ。
七番目の王妃の子、王女イスラ、二十歳、美しく賢い。最有力候補と言われている。
八番目の王妃の子、王女マクシーネ、十七歳、母親同様ちょっと意地悪。
そして私に続いて十番目の王妃の子、王子ゲイル、十歳、この年ながらとても優秀でまだ学院に入る年齢では無いが既に幾つかのコースの教師に特別に授業を受けさせてもらい修了している課程もある。
黒髪で大きな茶色の瞳の可愛い弟で私とはけっこう仲が良い。大きくなったら騎士コースに入って強くなるんだと言って時々訓練の見学に訪れキラキラした目で騎士達を見ている。
中でもゲイルの憧れはアーネストらしく、優れた剣術と豊富な魔力をいかした氷の魔術を見てかなり興奮していた。
ゲイルにも魔力があり土の魔術の遣い手だ。私には魔力がなく魔術が使えるだけ羨ましい事だがゲイルにしてみれば憧れのアーネストと同じ氷の魔術の遣い手になりたかったらしい。
魔力があってもどのような魔術が使えるかは自身の資質が大きく作用する。ゲイルは主に土を操る力に長けているがそれは何も攻撃に向けてばかりではない。土で何かを形作り頑丈な建築物、例えば城や囲壁など国を形作るのに必要不可欠な魔術だ。エミリオも土の魔術の遣い手で時折ゲイルにアドバイスをしていることもある。
こんなに可愛いゲイルが私達を陥れたとは思いたくないが本人に関係なく周りの者の手によるかもしれないので他の兄妹に話すことは出来ない。
それは私の婚約者のアーネストも同じで、アーネストの一番上の兄デズモンドは一番有力とされる王女イスラ姉様の婚約者だ。
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