第99話 賑やかし実況

 さあ、本日もやって参りましたダンジョン攻略のお時間です! 攻略も進んで、ただいま35層を攻略中であります。約1週間かけて地道に進めた攻略も大詰め。36層に進めば転移石があるので攻略が楽になるでしょう。




「魔物が手強くなってきましたね。一筋縄ではいかない魔物も出てきました」


「状態異常は面倒だな。こうも動きを制限されると迂闊に近づけん」




 門番君と髭熊が話していた通り、少しずつ状態異常を織り交ぜてくる魔物が増えつつあります。ローション小魚は移動速度低下、黄色いクラゲはマヒ、ハリセンボンは毒等々。かなり面倒です。状態異常を振りまいてくる敵って本当にウザいですよね。そういうのは最低だと思います。俺? 俺はいいんですよ。




「しかし、広いわ、水没してるわで攻略が進まんな」




 イケおじが嘆息するのも当然。階層を下るほど階層が広くなっているのですから。しかも、ここまで攻略できる冒険者が少ないようで、これまでのように冒険者の多さで階段を推測する芸当ができなくなったのです。仕方がないので手探りで攻略しているのですが、行き来に時間がかかってしょうがありません。これはですね、通勤時間が伸びているのと同義です。実に面倒ですよね。




「そうですね……。もうそろそろ攻略の仕方を変える必要があるかもしれません」


「変えるとなると、ダンジョン内で寝泊まりするのか?」


「はい。他の冒険者の方々はしているそうですよ」


「また野宿生活か……」




 野宿って慣れないと大変なんです。しかも、この世界は魔物と盗賊なんてゴロゴロいるのですから、一人旅はとても危険なのです。折角自分たちの家があるのに帰らないなんて勿体ないと感じるのは普通ですよ。それに、アイナがいるのですから、あまり不自由な思いはしてほしくありません。ただでさえこれまでが不自由だったのですから。




「嬢ちゃんもいるんだぞ」


「わたくしは構わないわよ。野宿も楽しいわ」


「俺も野宿は楽しかったです」




 アイナって意外とお転婆なのかもしれない。門番君もアウトドア派なのでしょう。俺とは大違いです。俺はふかふかのオフトゥンに包まれながら思う存分寝たいです。しかし、年齢差はありますが最年少の二人組からオッケーが出たのですから、たぶん今度からのダンジョン攻略は野宿をしながらになるでしょう。面倒だぁ。




「おっと、魔物がいますね。この強さ的に宝箱を守る魔物でしょう」


「あなた、案内して」


「何気に神崎が一番気配探知の範囲が広いのか」


「私の唯一の取り柄です」




 いやー、これだけはマジでアイナすら凌駕している俺って凄くない? ずっと他人の気配を気にして生きてきたから発達しるのかもしれないな。全然嬉しくないわ。


 さて、そんなこんなで気配のあるところに到着しました。そして、そこには宙に浮かぶ魚がいます。あれは……マグロ? きっと一本釣りに漁師生命を賭けた男たちの物語が詰まっているのでしょう。あ、目が合いましたね。




「っ! 避けてください!」




 なんて早い体当たりだ。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。あ、このセリフを言ったキャラって骨の魚に食われてなかったっけ? フラグか?


 俺は横っ飛びに回避しつつ体勢を立て直しながら振り返る。すると、そこには刀を振りぬいたイケおじと、エラから鮮血を吹き出しながら地面に突き刺さるマグロがいた。あの一瞬で正確に弱点を切りつけたらしい。




「こんなものか」


「大和さん、凄いです」


「後藤だってそのうちできるようになるさ」


「頑張ります!」




 おっと? 門番君が更に厳しい訓練をご所望だ。もしかすると門番君もM気質なのかもしれないな。あ、野郎の性癖とかクソどうでもいいのでアイナと俺の視界の外でやってください。現場からは以上です。


 こちら実況席。俺はマグロを捌いています。動画の知識を頼りにそれっぽくやってみましたが、これは下手くそですね。中落ちがたくさん取れました。もっと修行をしなければならないようです。髭熊が持ってきた宝箱には巨大なフォーク、もといトライデントとかいう種類の槍が入っていました。付いているスキルの中には水生特攻とかいうのがあるようです。




「神崎は槍を使っていたな。今は棒だが」


「あ、大丈夫ですよ。私はこれで十分です」


「だが他に使う人間がいないだろう」


「クランメンバーの誰かに渡せば良いのではないでしょうか?」




 この階層の武器ならば、手前で攻略に手こずっているパーティの火力底上げにつながるはずだ。折角のスキルが一部役に立たなくなるが、それでも強いから問題ないだろう。


 俺の意見は採用されて、トライデントは誰かの手に渡ることになりました。ついでに俺のため込んでいる装備品も有料でお渡ししましょう、と伝えたら、爽やか君が引き攣った笑みを浮かべていましたね。ハハッ、ざまぁないぜ。


 それからは特に目立った取れ高はありませんでした。残念です。俺の素晴らしい実況をお伝えすることができないなんてっ! え? くどい? もういい? 真面目に攻略しろ? おやおや、これは手厳しい。仕方ありません。そろそろ実況なんて止めて普通に活動しますかね。

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