3270話
鳥のモンスター……もしかしたらニールセン達を襲った巨大な鳥のモンスターだったかもしれない存在はセトに気が付いたか何かして逃げ出した。
そのことを残念に思ったレイだったが、実際にこうして逃げられてしまった以上はどうしようもないのは事実。
(まだかなりの距離はあったけど、セトなら追いつけたと思うんだけどな)
そう思うレイだったが、もしここで巨大な鳥のモンスターを追ったりすれば、それでかなり派手な戦いとなるのは間違いない。
しかし、そうなれば穢れの関係者の拠点でもその派手な戦いについて気になってもおかしくはなく、レイとしてはそれだけは避けたかった。
自分達……レイやセトが近くにいるとしれば、穢れの関係者の拠点にいる者達がどのような行動をするのか分からない。
それは昨夜ヴィヘラによって気絶させられた穢れの関係者の件を思えば明らかだ。
「敵の数を減らすって意味なら、それもいいかもしれないんだけどな」
「え? どうしたの、レイ」
レイの呟きを聞いたニールセンが、不思議そうに尋ねる。
そんなニールセンに、レイは何でもないと首を横に振った。
「気にするな。逃がした獲物は大きかったかもしれないと思っただけだ」
「逃がした獲物? ……それって、まさかレイが言っていたモンスターじゃないんでしょうね?」
「その可能性は否定出来ない」
「……否定しなさいよ、そこは」
呆れた様子のニールセンだったが、その中にはどこかほっとした思いもあった。
以前巨大な鳥のモンスターと遭遇した時、自分が殆ど何も出来なかったことを気にしてのことだろう。
実際には妖精魔法を使って巨大な鳥のモンスターの行動を妨害したりしたのだが、ニールセンにしてみれば普段からレイと一緒に行動することも多く、その為に自分が戦いに参加したらしっかりと相手を倒すことが出来ないとおかしいと、そんな思いがあったらしい。
「とにかく、いなくなった以上はここでどうこう考えていても仕方がない。当初の予定通り穢れの関係者の拠点に向かうとするか」
元々そちらが最優先だったのだから、ここで無駄に考える必要はない。
そう言うレイに、ニールセンも素直に頷く。
「そうね。まずはそっちを何とかしないと。……巨大な鳥のモンスターの件はもう終わったことなんだし」
「俺としては、出来ればその巨大な鳥のモンスターの魔石も欲しいんだけどな」
「魔石を集める趣味って、変なの。そういう趣味って面白い?」
「趣味は人によって違うからな。特に収集の趣味とかなると、他の人には全く理解出来ない物を集めたりとかするのも普通だし」
レイが思い浮かべたのは、日本で見たTV番組のことだった。
コレクターの特集をやっていた番組では、それこそ切手や昔のコイン、映画のポスターといったように、それなりに知られている物を集めるコレクターもいたが、それ以外にもペットボトルの蓋であったり、缶ジュースの缶であったり、スーパーやコンビニで弁当を買った時についてくる割り箸の袋であったり……ちょっとレイには理解出来ないような物を集める者もいた。
そういう意味では、隕石や宝石を集めるというはメジャーな収集の趣味で、魔石もまたそれと似たようなものだろうというのがレイの考えだ。
実際レイ以外にも魔石を集めるという趣味を持っている者はいる。
ただし、集める魔石が希少になれば希少になるだけ高額になっていくので、当然だが集める魔石によっては入手するのに結構な金額が必要になるのだ。
ゴブリンの魔石はすぐにでも入手出来るだろうが、高ランクモンスターとなるとそう簡単に入手は出来ない。
それこそ貴族であったり、大商会の会長であったり、何らかの大規模な組織を率いるような者の趣味として、魔石の収集はそれなりに知られている。
魔石を集めるという意味では、それこそ実力次第では自分で魔石を好きなだけ集められる冒険者にも、その手の趣味を持つ者は多い。
勿論それは、あくまでも相応の実力を持つ者だけだが。
レイは分類としてはそれに入る。
ニールセンもレイのそんな趣味について知っていたからこそ、特に疑問は覚えなかった。
「魔石を集めるのは、取りあえず穢れの一件を何とかしてからにしてよね。それなら私も手伝うから」
「分かってるよ。……魔石を集めるという意味では、穢れってのは魔石の類もないし、美味しくない相手なんだよな。その辺がちょっと疑問だが」
「疑問? 何が疑問?」
レイの一言が気に掛かったらしく、ニールセンはレイにそう尋ねる。
レイはそんなニールセンの様子に前々から疑問に思っていたことを口にする。
「モンスターが生み出されるのは、基本的に魔力の濃い場所で活動している動物がモンスターとなることが多い。まぁ、モンスターとなった親から子供のモンスターが産まれたりもするが、それはともかくとして」
「そうね。そんな感じで間違いないわ」
「そして穢れというのも、基本的には魔力だ。……長が言うには、悪い魔力らしいけど。つまり、良い悪いはあっても魔力は魔力だ。同じ魔力から生み出された存在なのに、何で穢れには魔石がないんだ?」
「それは……そう言われればそうね。今までは穢れは穢れだとばかり思っていたから、そういう風に考えたことはなかったわ。でも、これから襲撃する場所に行けば何かその件に関する手掛かりもあるんじゃない? もしくは長に直接聞いてみるとか」
「それしかないか。……で、その肝心の目的地はまだ遠いのか?」
「ううん。……私の記憶が正しければ、あそこの森だと思う」
レイの右肩に立ったまま、ニールセンが眼下に広がる森を指さす。
先程の鳥のモンスターの一件があってからもセトは飛び続けていたので、ちょうど目的地が見えてきたタイミングだったらしい。
「あそこか。……見た感じだと森の中に広い場所はないな。だとすれば、セト籠を降ろすのは森の前……いや、森に見張りがいる可能性を考えるともっと離れた場所にした方がいいか」
穢れの関係者の拠点がある場所だ。
見張りの類はいて当然だろうと呟くレイ。
「って、ちょっと待って。もしレイの言ってることが本当なら、前回私達が来た時に向こうにはもう見つかってるんじゃない?」
「その可能性はあると思う。けど、ニールセンやイエロがいたのに手を出してくることがなかったのを考えると、その時は見張りが行われていなかったのか、もしくは偶然見つからない場所を通ったのか。見張りをしていた奴が眠っていたという可能性もあるな」
穢れの関係者は妖精の心臓を欲している以上、ニールセンがいるのにそれを見つけておきながら手を出さないということはまずないとレイには思えた。
実際に以前ニールセンと遭遇した穢れの関係者の様子から、その辺は間違いないだろう。
イエロもまた、黒竜の子供だ。
妖精の心臓のように絶対に欲しいといった様子ではなかったものの、それでも手に入れることが出来ればその価値は非常に大きい。
他にもハーピーのドッティがいたものの、こちらはモンスターとしてはそこまで珍しい存在ではないので、もし穢れの関係者の目に留まっても特に狙われることはなかっただろう。
もっとも、ドッティは普通のハーピーとは思えない程に頭がいい、恐らくは希少種なのだが。
ただし外見は普通のハーピーと違わないので普通の者が一見しただけで希少種とは認識出来ないだろう。
「とにかく、地上に降りるぞ。見張りがいようといまいと、もし敵として出て来たら倒して情報収集……は昨夜の件を考えると難しそうだけど、出来るのなら情報収集はしておきたい」
レイとしては、昨夜戦った穢れの関係者は特別な存在だったと思いたい。
実際にわざわざ派遣されてきたのだろう者である以上、そのようにレイが考えてもおかしくはなかった。
ニールセンもそんなレイの意見には同意なのか、すぐに頷く。
「そうね。レイが言うように森から少し離れた場所の方がいいと思うわ。森に入るのも、道のない場所から入った方がいいと思うし」
人が通ることが多い場所は、当然だが地面が踏みならされて自然と道のようになる。
獣道と表現するのは少し大袈裟かもしれないが、穢れの関係者の拠点に向かう最短距離がそのような道となっている可能性が高かった。
そのような道だけに、見張りをしっかりとしている可能性が高い。
だからこそ、そのような分かりやすい場所ではなく道のない場所を通って移動するというのは悪くない話だった。
「いっそ、セト籠じゃなくて、セトに乗って上から森に入るのもいいかもしれないな」
セトはレイを乗せて飛ぶことは出来るが、レイ以外の者を乗せるのはかなり厳しい。
しかし、マリーナとヴィヘラの身体能力を考えると、セトの足に掴まって上空から移動するのは難しくはないかもしれない。
「うーん……でも、マリーナもヴィヘラも服があれよ? 厳しいだけじゃない?」
ニールセンが心配したのは、マリーナとヴィヘラの服装だ。
マリーナはいつものようにパーティドレスを着ており、ヴィヘラは踊り子や娼婦のような薄衣を着ている。
どちらもヒラヒラとした服を着ている以上、風の強い場所を飛ぶとそれによってマリーナやヴィヘラが上空でバランスを取るのが難しくなるのは明らかだった。
「短時間なら問題ないと思うけど……そうだな。セト籠を降ろしてから聞いてみるか。それで問題がないのなら、上空から侵入したいと思う。その時は、幻影が使われている洞窟を示すのはニールセンに頼むことになるけど、構わないか?」
「ええ、安心してちょうだい。私がしっかりと案内をするから」
そう言うニールセンの言葉に頷き、レイはセトに森から少し離れた場所にセト籠を降ろすように頼むのだった。
「私は構わないわよ? ヴィヘラの分も、精霊魔法でどうにかなると思うわ」
「……まさかこんなにあっさりと了承して貰えるとは思わなかった」
森から少し離れた場所。
セト籠をおいたそこで、レイはマリーナからあっさりと自分の提案に頷いて貰えたことに驚く。
ヴィヘラは? と視線を向けると……
「マリーナが言ってるし、問題ないわ。それに私は前にも何度かセトの前足に掴まって飛んだことがあったでしょう?」
こちらもまた、あっさりと了承する。
ヴィヘラにしてみれば、以前にも同じことをしたのだから、わざわざ聞くのはどうかと思う。
勿論、地上に男達がいて、鼻の下を伸ばして見ている場所に上空から侵入したいとは思わない。
だが今回の一件を考えるとその辺の心配はない。
そもそもこれから自分達が行くのは、街中ではないのだ。
穢れの関係者の拠点なのだから、そんな自分達を待ち受けるような真似をする者がいるとは思えなかった。
……もし待ち受けている者がいても、それは鼻の下を伸ばした者達ではなく、自分達の隠れ家に侵入しようとしている敵を殺したり捕らえたりしようと思う者達だろう。
そのような相手の場合は、寧ろヴィヘラとしては望むところだった。
セト籠をミスティリングに収納しつつ、レイは二人に頷く。
「じゃあ、セトに乗って直接森の上空から向かうということで。……それにしても、こうしてあの森を見ても特に嫌な感じとかはしないな。穢れの関係者の拠点なら、そういうのがあってもいいと思うんだが」
穢れを見ると、本能的な嫌悪感を抱く。
だが森を見ても特にそのようなことはない。
それが不思議だったレイに、マリーナが声を掛ける。
「幻影で隠している以上、向こうにとっても重要な拠点なんでしょう? なら、見ただけで穢れを見た時のように嫌悪感を抱くとか、そういうことはないんじゃないかしら」
「……なるほど。偶然この辺を誰かが通り掛かって、その途中で森を見て本能的な嫌悪感を抱いたら、何かがあると考えてギルドとかに探索の依頼が出されたり、場合によっては領主とか騎士や兵士を派遣したりするかもしれないしな。ブレイズ達みたいに」
「そういうことね。そしてギルドとしては、そういう依頼が出たら引き受けないという訳にもいかないわ。周辺の治安を守るのは、ギルドの仕事の一つでもあるもの。……これが街中の件なら、警備兵とかに任せておけるんだけど」
マリーナが元ギルドマスターとしての意見を言う。
もっとも、マリーナがギルドマスターをしていたのはミレアーナ王国唯一の辺境のギルムだ。
そこでのギルドマスターの経験が、この場所に当て嵌めた場合にどこまで正しいのかはレイにも分からなかったが。
それを言えばマリーナが拗ねそうだったので、素直にその意見は聞いておく。
色々と状況が違うものの、それでもマリーナの意見に聞くべきところがあるのは間違いなかったのだから。
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