第5話 特別クラスの生徒たち
特別クラスの教室は他の新入生の教室をいくつか通り過ぎた先にあった。
教室の周囲には空き部屋が多く存在することから、特別クラスの教室は空き部屋を急遽使うことになったのではないかとシロウは推測する。
生徒たち全員が好きな位置の席についたのを確認したネオンが、改めて自己紹介をした。
「特別クラスの教官を担当するネオン・ユリシーです。あなたたちと年齢はそう離れていないから、気軽に接してくれると嬉しいな」
「それでは遠慮なく聞かせていただきますけど、特別クラスとは何でしょうか? わたくしたちは何も聞かされていないのですけれど」
「うん、まずはそこから話さないといけないね」
アリシアの最もな問いかけにネオンは応じた。
「あなたたちは
「……かの有名な環境学者の第一人者であるクレイン・マクレガー博士が発見した、第三の元素」
ユリリカが答え、ネオンは頷く。
「ユリリカさんの言う通り、およそ十年前にマクレガー博士が発見した新たなる元素、それが星辰力。
「その星辰力がわたくしたちと関係あるのでしょうか?」
「うん。率直に言うと、あなたたちは星辰力に適応した体質なの」
ネオンの発言に教室内が僅かにざわめく。
この場にいる誰もが初耳のようだ。
シロウも自分が星辰力とやらに適応しているとは知らなかった。
ネオンが詳細を語る。
「先月に入学試験があったよね。あなたたちの総合能力を精査した結果、星辰力に適応していることが判明したの。第三の元素が発見されてから今まで、あなたたちほど適性値が高い人類は存在していなかった。この事実を知った学院は急遽、特別クラスの設立を行ったというわけなの」
ネオンの説明を特別クラスの生徒たちは黙って聞いていた。
シロウは己が人類史上において稀有な存在だと知っても、あまり驚きはなかった。
そういうこともあるだろう、と素早く受け入れる。
他の者たちも同じようで、動揺している様子はない。
星辰力に見初められた世界の寵児たちは、教官の二の句を黙して仰ぐ。
「星辰力の特徴は、ほとんど魔力と同じ。火力や電力といったエネルギーに変換して扱うこともできれば、魔法にも似た攻撃方法としても扱うことができる。その性質を知った魔導武器メーカーは星辰力を応用する新たな武器を開発した。それが――
ネオンは太ももに巻きつけられたホルスターから一丁の拳銃を引き抜いて見せる。
「これが拳銃型の星辰器。私には扱えないけど、あなたたちの誰かなら扱うことができる。特に普段から拳銃を武器とするユリリカさんなら、慣れるのも早いでしょう」
「その星辰器を私たちに使えと?」
冷静に問うユリリカにネオンは頷いた。
「特別クラスは学院の一クラスであると同時に実証テストの場でもあるんだ。星辰力に適応した者たちが星辰器を扱い行動すれば、世界に対してどのような作用をもたらすのか。あなたたちは果たして、時代を切り開く新世代の人類になれるのか。その是非を、ここにいる全員で示してもらいたいの」
特別クラスについての説明が終わり、沈黙が教室を支配した。
それぞれ思うところがあるのか、生徒たちは思案顔で黙り込んでいる。
一人だけ机に突っ伏して寝ている少女はともかく、他の者たちは真剣に向き合っているようだ。
「面白いではないですか。さしずめ、わたくしたちは神に選ばれた時代の寵児なのですから」
「アリシアさんは特別クラスに在籍してくれるのかな?」
「当然でしょう。新世代の騎士見習いとして、ネオン教官の教鞭を仰ぎますわ」
「他の子たちはどうかな? もし普通のクラスが良ければ、今からでも移籍することは可能だよ」
ネオンが席に座る生徒たちを見回す。
誰からも異存は上がらず、ネオンは手のひらを合わせて華やかに微笑んだ。
「それじゃあ、この六人で特別クラス結成だね。さっそく自己紹介をして貰おうかな。左の席から順に立ってくれる?」
「まずは俺か。了解した」
一番左側の席に座っていたシロウは立ち上がり、同じクラスの仲間たちに自己紹介をする。
「シロウ・ムラクモ。東洋国出身だ。武器は刀で、東洋剣術の霧雨一刀流を修めている。田舎者で学生の勝手が分からないために苦労をかけると思うが、よろしく頼む」
「シロウくんは学院長様の知り合いでもあるのよね?」
「ああ、クーデリアとは少しだけ付き合いがある。学院への入学を決めたのも彼女が勧めてくれたからだ」
シロウが学院長と関わりがあると知り、ユリリカとアリシアが若干驚くように注目した。意外な一面があるのだなというような奇異の視線で見つめられ、むず痒い気持ちを覚えながらシロウは着席する。
「次の人、立って自己紹介してくれる?」
「は、はい! 私は……ジェシカ・アーノルド。出身は
シロウの隣席である少女が、ぺこりと頭を下げた。
クラスメイトの中でも二番目に背が低く、緋色のツーサイドアップヘアが似合う童顔の少女だった。緊張しているのか眉が八の字に下げられているが、ひとたび笑えばどのような堅物男子も虜になるような愛くるしさを全身に漂わせている。
ジェシカが着席すると、隣のユリリカが立った。
「ユリリカ・エーデル。よろしく」
短い自己紹介を終えて着席するユリリカ。
それ以上は言わずとも、シロウ以外の誰もが彼女を知っているようだった。
クールな姉の後にアリシアも立ち上がる。
「お姉様に続きまして、エーデル家の次女であるアリシア・エーデルですわ。庶民を導く
「随分と上からだな」
「ふふっ、貴族はいつでも胸を張っていなければなりませんの」
シロウに向けて姉よりも大きな胸を張るアリシア。
制服のボタンが弾けるかと心配になるほどの豊満な乳房だ。
ユリリカよりも数段は大きな胸を得意げに張り続けたアリシアは、勝ち気な笑みを浮かべながら着席する。
「次は、シャルンさんだね」
「分かりました、教官」
間延びする声を出した少女がゆっくりと立ち上がる。
クリーム色のロングヘアと眠そうに細められたタレ目が特徴的な少女は、ふわふわとした声で自己紹介をする。
「シャルン・アイゼンベルクです。よろしくお願いします」
ユリリカと同じようにシンプルな自己紹介だった。
ジェシカが何やら驚いたように目を見開いている。
「アイゼンベルク家のご令嬢さん……まさか同じクラスに三大貴族の三人が揃うなんて」
「エーデル姉妹とシャルンの家柄は有名なのか?」
「それはもう。エーデル家とアイゼンベルク家といえば西洋国で知らない人はいないほどの名家だよ」
ジェシカがひそひそと説明してくれる。
エーデル家とアイゼンベルク家はヴァリエス王国にて三大貴族と謳われる名家らしかった。シロウは情報を与えてくれたジェシカに礼を言う。
「最後の子は……あはは、まだ寝ちゃってるね」
「すぅ、すぅ……」
一番右の席で眠りこける獣人族の少女。
狼の耳と尻尾を生やしたショートヘアの彼女は、クラスで一番に背が低く小柄だ。
隣席のシャルンが肩を揺らすと、獣人族の少女は目を覚ましてあくびをする。
「起きたばかりでごめんね、自己紹介してくれるかな?」
「……ソーニャ・ベルフォード。よろしくー」
「ソーニャさんは狼人族なんだよね?」
「うん。狼の耳と尻尾を生やす獣人族。わふわふ」
狼の鳴き声のつもりなのか、わふわふと息を漏らすソーニャ。
その姿を見たアリシアが溜め息を吐く。
「なんとも気の抜けるお方ですわね……見ているこちらまで緩んでしまいそうですわ」
「あの子も私たちと同じ、星辰力の適性者よ。仲良くしてあげたら?」
「冗談はよしてくださいな、お姉様。わたくしはあのようなお方と馴れ合うために騎士学院の門を潜ったわけではありませんのよ?」
ソーニャの態度が気に食わないのか、アリシアは辛辣な目を向けていた。
特別クラスのメンバー全員が自己紹介を終えて、今日の学院活動は終わりを告げる。
「あなたたちの寮舎を案内するね。私についてきて」
そう言ったネオンに六人は従うのであった。
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