第4話 入学式を終えて、残された六人
クーデリアの存在を認識した生徒たちは私語をやめて沈黙する。
大勢の新入生が注目する中で、クーデリアは至極落ち着いた様子で小さく息を吸って吐いた。
「これよりアルセイユ騎士学院の入学式を始めます」
学院長の宣言により入学式が開幕する。
教官たちが次々と壇上に立ち挨拶を続けた。
全ての教官たちが挨拶を終えると再びクーデリアが中心になり、学院の教訓を語る。
「アルセイユ騎士学院は若人たちの征く道を支え、未来へと導くことを教訓に掲げています。いつとて新たな時代を切り開くのは、優秀な若人たちです。あなた方が何を見て、何を知り、そして何処に進むのか。学院長として見守らせていただきます。最後に――」
クーデリアは新入生たちを見回し、穏やかに微笑んで言う。
「自分を信じて、仲間を信じてください。いついかなる時も、誰かと共に在るということを忘れないでください。私から伝えられるのは、それだけです」
一礼をしたクーデリアは入学式の終わりを告げる。
この場でクラスも発表され、教官に呼ばれた生徒たちは別館から退場していく。
名を呼ばれるのを待っていたシロウは、少女の声で呼びかけられた。
「自分を信じて仲間を信じろですって。中々に洒落た教訓ではありませんか?」
馴れ馴れしい声色で話しかけてきたのは、隣に座る貴族の娘と瓜二つの少女だった。シロウは腕を組んで少女を見つめる。
「お前は?」
「わたくしはアリシア・エーデルですわ。隣のユリリカお姉様の妹ですの」
「姉妹か。確かにそっくりだな」
ユリリカと呼ばれた冷やかな目つきの少女とは違い、アリシアには親しみやすい印象がある。大きな蒼色の瞳は輝きに満ちており、好奇心旺盛な猫を彷彿とさせる明るい表情をしていた。
だが、やはり姉妹だからか、気の強いところは同じのようで。
「貴族も庶民も関係なく親交を深めて仲間になれという有り難いお言葉なのでしょうけど、最後に信じられるのは結局のところ自分の力だけですわ。特に才あるわたくしは、足を引っ張るだけの仲間など必要ありませんわね」
「そうか。なぜそれを俺に?」
「ふふ、あなたもわたくしと同じ特別な人種だと思いまして」
「俺が? お前の言う庶民そのものだぞ?」
「確かにそうですが、立場の違いと才能は別のものです。庶民であっても才ある者は嫌いじゃありませんの。どうせ仲間になるのならば、あなたのようなお方が良いですわね」
シロウの才覚を見抜いたのか、アリシアは得意げに語る。
黙ってアリシアの言葉を聴いていたシロウは、ふと隣のユリリカが気になり話しかけてみた。
「随分と舌が回る妹だな」
「アリシアに気に入られるなんて、ツイてるじゃない。この子は優秀だから、媚びを売っておけば何かがあった時に助けてくれるかもしれないわよ」
「お前はどうなんだ、ユリリカ」
「私はあんたのことなんて知らないし興味もない」
素っ気なく言い放つユリリカに苦笑する。
もう話は済んだとばかりにシロウから視線を逸らしたユリリカは、この場に残る生徒たちが数人しかいないことに気づいたようだ。
「おかしいわね。まだ私たちは呼ばれないのかしら」
「そうだな。残りはもう俺たちを含めて六人しかいないようだが」
シロウの言う通り、会場に残った生徒は六人。
それぞれ名前を呼ばれないことを疑問に思っているようで、困惑の様子を見せている。一人だけは椅子の上に丸まって寝ているが。
「ごめんね、待たせてしまったよね」
残る生徒たちに向けて声をかけたのは、年若い白髪の女性だった。
教官専用の制服を着ていることから、彼女もまた教官なのだろう。
まるで同年代の友に語りかけるように、女性は親しみやすい口調で言った。
「ここに残るあなたたちは、とあるクラスに所属することになったの」
「わたくしたちがですの? たった六人しかいないのですけれど?」
この場に残る全員の疑問をアリシアが代表して問いかけてくれる。
教官の女性が頷き、姿勢を正しくして宣言する。
「この場の六名は、今年度に新設立されたクラス――特別クラスに配属されたメンバーです」
特別クラス――そのようなクラスがあることは聞かされていない。
一体どのようなクラスなのかとシロウが問う前に、クーデリアが現れて場の緊張が高まった。
「詳しい説明は教室で聞くと良いでしょう。ネオン教官、この子たちをよろしくお願いします」
「任されました、学院長様。それじゃあ、あなたたちの教室に案内するね」
ユリリカがアリシアと目配せし、お互いに溜め息を吐く。
エーデル姉妹も詳しい話は聞かされていないようだ。
他の者たちも同じなのか、ネオンという教官の後を付いていくしかなかった。未だに椅子の上で寝ていた少女もクーデリアによって起こされる。
シロウは立ち上がり、彼女たちの最後尾を付いて歩くのであった。
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