第3話 学院入学
シロウの騎士学院の入学が決まり、一同は倒れ込んだ黒色ローブの集団を見下ろした。
「こいつらは何者なんだ」
「黒の装束と仮面……恐らくバビロン教徒たちかと」
集団の格好を観察したクーデリアが初めて聞く組織の名を口にする。
シロウは腕を組みながら意識を失った集団を眺めた。
「聞いたことがないな。師匠は知っているのか?」
「ええ、少しは。彼らは邪教に属する教徒です。東洋大陸でも目撃されていましたが、西洋大陸にも現れるのですね」
クーデリアがバビロン教団について説明する。
約二年前、西洋大陸の各地で街や村を襲撃し始めた邪教徒。彼らを統一しているのがバビロン教団という組織であり、何が目的で民衆の生活を脅かすのかは不明だった。
謎に満ちた集団だが、一つ分かっているのは、教団の者たちは悪魔を崇拝していることだ。
「悪魔……」
その言葉を口にした瞬間、シロウの脳裏に村を襲った双頭獣の姿が蘇る。あの異形の怪物は、まさしく悪魔のようではなかったか。
片腕を失い倒れた妹の姿を今でも鮮明に思い出せる。
もし双頭獣が悪魔であったのなら、バビロン教団を追えば何かが分かるのではないか。
「シロウ、どうしました?」
「いや、なんでもない」
リンカに心配され、シロウは首を振った。
今は深く考える必要はない。まだバビロン教団と双頭獣に関係があるのかは分からないのだから。邪推を振り払ったシロウはバビロン教徒の様子を確認しようと前に出た。
その瞬間、バビロン教徒たちの身体が紫色のオーラに包まれた。
そして瞬時に消え去る。集団が一人残らず姿を消したのを見て、一同は顔を見合わせた。
「これは転移の術でしょうか、リンカ先輩」
「さあ……とにかく教団は後回しです。今はシロウの入学について話し合いましょう」
「その件なのですが、今年度はもう入学式を終えているのです。シロウくんの入学は来年以降になるかと」
アルセイユ騎士学院は基本的に編入学を認めていない。
入学するためには年度初めに行われる試験に合格する必要があった。
「来年だな。覚えておこう」
「シロウくんが無事に試験を合格できるように祈っていますね」
「ありがとう、クーデリア……クーデリア学院長?」
「ふふ、どちらの呼び方でも構いませんよ」
「そうか。ならば遠慮なくクーデリアと呼ばせてもらおう」
来年の試験に向けて期待が募る。
どのような試験なのかは開催日まで不明らしいが、己の力が試されるとなると否応にも心が滾ってしまう。シロウの武士魂は試験当日を待ちきれないというように激しく燃え盛るのであった。
クーデリアとは一時別れて、シロウとリンカは王都入りを果たした。
王都の片隅にある家で暮らすようになり、早くも一年が経つ。
試験を無事終えて合格を知らされたシロウは、リンカと共に祝杯を上げた。
そうして、入学式の当日。
シロウはアルセイユ騎士学院の門の前に立っていた。
「ここが、クーデリアが長を務める学院……」
ようやくこの時がやってきたとばかりに胸が高鳴る。
周囲を見回すと、シロウと同じぐらいの年頃の男女が制服姿で学院の敷地に足を踏み入れていた。
男女共に青を基調とした制服は、涼しい季節に対応した半袖仕様。
男子生徒はきっちりと着込むタイプの制服だが、女子生徒は太ももから下の脚部を露出させたミニスカートをはためかせており、見慣れない衣装に視線が引き寄せられる。
「あまり見るのも失礼か」
よこしまな意図は全くないが、下半身をじっくりと観察されて嬉しい女子はいないだろう。物珍しい制服を見るのも程々にして、シロウはアルセイユ騎士学院の門を潜った。
広い敷地内は主に校庭、校舎、寮舎の区画に別れており、他にもシロウが知らない謎の白亜の建物がいくつかあった。まずは入学式が始められる別館に移動する必要がある。
水を迸らせる噴水の側を通り抜け、花壇が並ぶ校庭を進んだ先に別館がある。大きな白亜の建物の前には、すでに大勢の生徒たちがひしめいていた。
新入生であろう生徒たちに紛れて別館に入る。
会場に並べられた椅子の中で適当に端のほうを選び腰を落ち着ける。
隣に座った女子生徒を横目で見て、その美貌に驚いた。
目が眩むような輝く金色の髪を腰まで伸ばした少女であり、白磁を思わせる滑らかな白い肌はシミ一つなく美麗だ。完璧な造形美を誇る小顔は見る者の目を奪い去る魔性さを帯びており、宝石をそのまま嵌め込んだような蒼色の瞳は、彼女が貴種であることの証だった。
「……なに、じろじろ見て」
「すまない。貴族を見る機会が少なかったものでな」
「そう……この学院には私のような貴族がたくさんいる。あんたは平民みたいだけど」
「ああ、生まれは東洋国の田舎村だ」
「精々、底意地の悪い貴族のお坊ちゃんとお嬢ちゃんたちに虐められないよう、上手く立ち回ることね」
気の強さを象徴するツリ目がシロウを見据え、そして静かに前を向く。目つきは冷やかであるものの、あまり感情を露わにする性格ではないようで、落ち着いた印象を持つ少女だった。
シロウは入学式が始まるまで目を閉じて瞑想に耽る。
やがて前方で響く足音を耳にしたシロウは目を開け、壇上に立つクーデリアに視線を寄せた。
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