第48話 マニオチタモノノサダメ

「それならば、お言葉に甘えてアタシの話しを先に言わせてもらうわね」

「アタシはつい最近、知り合いになった神族ガディアから、をされて、「オリュンポス」にそれを伝える役目を仰せつかったの。だけど、「アースガルズ」の主神であるオーディンにも伝える事が出来るいい機会だから、この場で言わせて貰うわね」


「「うむ」」


「「パルティア」は中立国としての立場をこれからも採用するのと同時に、「エル・シーナ」と共存し、更には「神界」で新たに産まれた神の寄る辺となるそうよ」


「なるほどな……。そう言う事なら「アースガルズ」は「パルティア」を容認しよう」


 オーディンは少女の言の葉に対して返答し、ゼウスもオーディン同様に「「オリュンポス」も「パルティア」を容認する」と返していった。しかしながら、オーディンは複雑そうな顔を見せている。何か思うところがあるのかもしれない。ゼウスは何かを言いたそうな真剣な顔付きだが、髪型がその真剣さを妨害していた。



「それにしても一体、何が起きたのか?それは教えておいて欲しいものだな」


 オーディンは少女の発した「結論」を認めた様子だが、オーディンを「オーディン足らしめる概念ファンタスマゴリア」は、「結論」だけで無く、「経緯」も欲したのだった。その概念ファンタスマゴリアこそが知識欲とも言えるもので、それが満たされなければ何時間でも話しに付き合わされる事になる。

 それを知っているゼウスは、だから何かを言いたかったのかもしれない。


 少女はそんな事を知る由もない。だから純然たる気持ちで、オーディンの欲した「経緯」を紡いでいった。


 オーディンは話しの途中で「それは面白い」とか、「なかなかやるな」とか色々と「合いの手」を入れていた。それに加えて相槌も打ち、少女はその対応に乗せられてしまい、色々と余分な話しまでした事は否めないかもしれない。

 どうやらオーディンは非常に聞き上手のようだ。


 自分の想いを一方的に押し付けるゼウスとは違っており、ゼウスがもしオーディン同様に聞き上手なら女性から更にモテるだろう……とかは口が避けても言わないし、その前に「髪型をなんとかしろよ」とかは余談である。



 こうして少女はすべての「経緯」を話し終え、オーディンは納得した顔で「なる程な」と結んだのだった。




蛇悪竜種アジ・ダハーカの抑止力となる事を、あの「エ・ラーダ」に認めさせるとはな……」


「えっ?エ・ラーダを知っているの?」


「この「神界」は今でこそ平穏だが、一時は戦乱があちこちで起きていたのだ。「エル・シーナ」もそれに乗じていてな、何度も戦場でまみえた。だから当然、エ・ラーダの事も知っているさ。彼奴きゃつは合理的な男だ。それ故に自分達の置かれている「境遇」と「共存」を天秤に掛けたのであろうな」


 オーディンはどこか遠い目をしながら独り言のように紡いでいた。それは認めた男の居場所が出来た事への感慨だったのかもしれない。



 それから3人は言葉を交わし、幾つかの情報を交換した上で2人はゼウスの神殿を後にする事にした。しかしその会話の中で、オーディンがこの地に来た主たる目的だった話題は出なかった。




「ところで、後で話しを聞かせて貰うって言ってた事はもういいのかしら?結局、中ではその事に触れなかったけど?」


「まぁ、アイツゼウスの反応を見る限りでは、然したる重要性もなかったようだしな。別の機会にしておくさ」


「それならいいけど……」


「だが、お嬢さん。お嬢さんとは近い内にまた、会う事になるかもしれないな」


 意味深な言葉を残してオーディンはその場から消えていった。オーディンの身体は光に包まれ少しばかりの余韻を残して唐突に消えた。その光景に少女は驚いていた。



「転移魔術?!今の魔術よね?神族ガディアでありながら、魔術を使う者……か。なかなか侮れない存在ね。それにしても、神族ガディアもやっぱり魔術特性を持っていたのね。これは発見だわッ!」


 少女はそんな独り言をサークル魔術陣を出現させると次なる目的地へと転移していった。




 少女は「パルティア」の小さな「ピラミッド」の前に唐突に現れた。周囲にはどうやら人の気配はない。見送りの時はあれだけいたのに、出迎えはないらしい。まぁ、唐突に帰って来たのだから当たり前と言えば当たり前のコトだ。

 そして小さな「ピラミッド」の中に転移したのだから尚更の事だろう。ここの入り口には門番がいる事から、中に入るのは誰でもOKではないのかもしれない。

 そこら辺の仕様は神域に拠って異なるというか、平和かどうかの問題や主神の統治力的なモノにも由来するのだろう。


 少女はそんなどうでもいい事を考えながら、小さな「ピラミッド」の階段を登っていく。そして中に入ろうとした時に1人の女性が入り口にいる事に気付いたのであった。

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