第46話 シリョノオモムクママ

極大五色アルティメット・ワン!!」


 虹色の矢は煌々と燃え盛る炎の中にいる黒い竜に向かって、その余韻を残しながら疾走はしる。そして、矢は蛇悪竜種アジ・ダハーカの首の付け根に突き立ったのだった。


 蛇悪竜種アジ・ダハーカは最後の悪足掻きとでも言いたそうに吐息アジブレスを吐き散らしながら……、更には身体から無数の幼体を放出しながら……、極大魔術に因って、その存在を掻き消されていく。



「さてと、後はあの幼体アジ・アサミチーナ共ねッ!」

「ってか、だいぶ炎陣フレイムサークル突破されちゃってるなぁ。個体差かしら?でも、そんなコトは言ってられないわね。ぶるる。あぁ、ダメ!見た目がアタシは受け入れられない」


 少女は炎を越えて進んで来る「アジ・アサミチーナ」を見て、身体を震わせながらも次々に魔術を放っていった。別に少女は蛇が苦手というワケではない。だが、三頭ではないにせよ、見た目がグロテスクな蛇悪竜種アジ・ダハーカの縮小コピーみたいなモノなので生理的に受け入れられない様子だった。

 そしてそれが、極大魔術アルティメット・ワンの影響で消滅する寸前まで、巨体から放出され続けていたので幼体アジ・アサミチーナの数は、既にざっとでも数え切れる量ではない。

 炎陣フレイムサークルである程度の数は減らせているが、それも蛇悪竜種アジ・ダハーカ吐息アジブレスの影響で抜け道が出来ているのかもしれなかった。だから膨大にウゾウゾと蠢いている姿は尚更の事、生理的に受け付けられるモノではなかったのだ。



「皆の者、かかれぇッ!」


「へぁ?!来てくれたの?」


「アンタを敵に回すよりはコイツらの方がよっぽどラクそうだ。まぁ、アンタと違って歯応えはかなり無さそうだけどね。扇風扇刃ウインドカッター


「助成させてもらう!刺突流舞ダンスランジ


「みんな……よぉし、こうなったらアタシも頑張んなきゃねッ」


 エ・ラーダに率いられた軍勢は結局のところ、蛇悪竜種アジ・ダハーカと闘う事にはならなかったのだが、魔獣アジ・アサミチーナの殲滅には一役買ってくれていた。何しろ「量」が膨大なのだ。単純な数だけで言えば……、数千いや、数万は放出されていたかもしれない。

 流石の少女でも、1人では骨が折れる程の「量」だ。だからと言って、山ごと吹き飛ばすワケにもいかないのだから大規模な魔術は使えないし、使えても炎陣フレイムサークルのような範囲系魔術が関の山だった。

 拠って、軍勢の助太刀には大いに助けられていた。


 それでもなお、すべての魔獣アジ・アサミチーナが殲滅された頃には日が沈みかけており、空は夜の帳が降りる直前のマジックアワーを迎えていたのだった。




 これは殲滅完了後の事。全員で無事に「パルティア」に戻った少女は、エ・ラーダから声を掛けられ小さな「ピラミッド」に呼ばれていた。

 少女は「ピラミッド」の中へと続く階段を一段一段踏みしめて登っていく。小さな「ピラミッド」を照らす陽の光は既に無い。周囲の壁には松明が付けられ煌々と暗闇に抵抗している。高い壁にも松明は取り付けられているので、誰かが宙を待って取り付けているのかもしれない。

 そんなコトを考えながら少女は階段を登って行ったのだった。



「えっ?!ちょっと、どう言う事?アフラ、何でここにいるワケ?」


「その件については、此の我から話そう」


 少女が入った小さなピラミッドの中には、「パルティア」の元の持ち主であるアフラ・マズダがその宿敵侵略者であるハズのエ・ラーダと共にいた。

 流石にこの状況は想定しておらず、少女は混乱する事になったのだ。



「だがその前に……。此度は大変、世話になった。街に一切の被害を出す事なくあの蛇悪竜種アジ・ダハーカを倒してしまうとは正直驚いている」


「アフラ……。にしては、ポーカーフェイスのままなのね?」


「さて、此度の件では此の我も思う所があったのでな、アフラ・マズダ殿にお越し頂いた上で、そなたも交えて話しをしようと考えたのだ」


「話し?アタシに何かをさせようって魂胆なのかしら?」


「まぁ、此の我の話しを最後まで聞いてから返答してくれればよい」


「じゃあ、黙ってその話しを聞いてあげるわ」


「では、話そう。我々は神域を持たない「組織」だった故に、神域を手に入れる事に固執し過ぎていた。その為に、今回の侵略を巻き起こしてしまった。そして、事前にその土地の情報などを得ていなかったごとが今回の騒動を引き起こしたとも言える。もしもあのまま蛇悪竜種アジ・ダハーカが解き放たれていたらと考えるとゾッとする思いだ」


 エ・ラーダの顔は、苦虫にがむしを噛み潰したような何とも言えない表情をかもし出していた。そして少女は言った通りに黙ってエ・ラーダの話しを聞いている。

 アフラの表情は……まぁ、言わなくても分かるだろう。



「此度の事で我等は反省をし、この事を今後は教訓にしていきたいと考えている」

「だがッ!我等が安住の地を求めているのは確かな事実であり、新たに産まれ落ちる神々が彷徨さまようのを此の我が見てはいられないのも事実だ」


 少女は何となくだが、エ・ラーダが言おうとしている事が読めた……が、やはり黙って聞く事にした。

 アフラは……まぁ、もうこのくだりは余談にしかならないから必要はないだろう。



「アフラ・マズダ殿のご好意に甘んじ、この地を我等の安住の地とさせて頂く事になった。が、その一方でこの地に於いて「パルティア」の神族ガディアとも共に歩もうと考えている。更に言えば、他の地より流れ流離さすらっている神族ガディアの受け入れ先であろうと考えてもいる」


 エ・ラーダの瞳に宿る意志は嘘偽うそいつわり無く、アフラからは何も感じる事が出来ない少女だった。そして少女は話しが完結したと考えた事によって今度は自分のターンがやって来たと直感していた。

 故にその口を開いていく。



「それで双方が納得しているなら、いいんじゃない?」

「で、早い話しがアタシにって事でいいのかしら?」


「頼まれてくれるか?」


「アタシがその事を伝えられる相手って、「オリュンポス」と「高天原たかまがはら」くらいしか無いけど、いいの?」


「それで構わない」


「じゃあ、それで良いなら請け負うわ」


「「宜しく頼む」」


 2人はタイミングを計ったようにハモっていた。元々は敵対者だったが、それ以前に2人の思考の向き方は同じなのかもしれない。要は似た者同士なのだ。

 人間界は「言葉の壁」で戦争を起こしたが、「神界」はそれこそ単純な「定住地」で戦争を起こした。言葉の壁よりはよっぽど原始的な動機かもしれないが、生きていく為に安住の地は必要な事に繋がるので、結果的に手を取り合ってもらえたなら一安心した少女であった。




 少女はその日、「パルティア」にてがわれた部屋に泊まり、翌朝の日が昇る頃に先ず「高天原たかまがはら」へと向かう事にした。余りに早朝過ぎて迷惑な可能性も考慮したが、頼まれごとは早めに終わらせたかったので向かう事にしたのだ。

 駄目なら駄目でなんとかなるだろうと安易な考えの元に……。



 少女が準備を整えてピラミッドの部屋から外に出ると、そこには「パルティア」の面々が待っていた。早朝にも拘わらず……だ。少女はその光景に少しだけ驚いたが、少しの会話をした後で「それじゃあ、行ってくるわね」と紡ぐと、サークル魔術陣を発現させて「パルティア」からその姿を消していった。




「流石に主神のいる部屋に直接転移するのは失礼よね……。そこまで仲の良い関係でも無いし」

「でもちょっと、やっぱり早かったかしら?出直した方がいいかなぁ……」


『此方へ』


「えっ?!」


 少女はアマテラスのいる「社」の側に転移したが、やはり社の目の前で怖じ気付いてしまっていた。しかしそんな少女の脳裏に一節の詩が流れて来たのだ。

 それは確かに脳裏に響いていたが、気のせいかもしれない。少女の願望が聞かせた詩だったのかもしれないが、それをきっかけにして社に向かって歩を進めていく。



 「社」の前には門番はいなかった。前回来た時は意識していなかったので記憶にない。

 拠って少女は恐る恐る社の中に入っていく事にしたのである。


 タケミカヅチに最初に連れて来られた扉の前に少女は立ち、「すいません。アマテラスさん、いらっしゃいますか?」と扉に向かって言の葉を紡いでいく。


 すると『どうぞ、お入り下さい』あの時と同じように声が響き、大きな扉が重い音を立ててゆっくりと開いていく。

 こうして少女は中へと入る事を許されたのだった。



 前回と同様で此処は変わらず、きらびやかな空間だった。そして扉から入ると少女はやはり勝手に、そうするのがまるで「自然」とでも言うかのような所作しょさで階段下で膝を付いていった。

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