第35話 Wishes of those who are together
「来たな?我が姪よ。
「今日はそなた以外にはここには誰も来ない。先ずは遠慮せず言葉を交えようぞ」
ごくッ
つい先日、少女の事を追い掛け回していた男と、同一人物とは思えない程の気迫、そして圧力。
ウラノスともクロノスとも違った「圧」が少女に向けて放たれており、その小さな身体が感じる
「母様を解放してあげて下さいッ!」
「ならんッ!」
「アヤツは自身に課した「
「それならばせめて、アタシを母様に逢わせて下さいッ!」
「ならば、その力で、
ゼウスは「圧」と共に立ち上がり、手に持つ
やはりどう見ても昨日とは別人にしか見えなかった。
「なるほどね、アテナが言ってた通りだわ。昨日の男とはまるで大違い。今日が本気モードってコトね?」
ドクンッドクンッ
「ヒト種の身で我が前に立った事を後悔させてやる。大いなる
ゼウスは
「ただの一振りでこれだけの力ッ!流石は
「
「デバイスオン、シールドメイデン!!」
少女は2つの「盾」を用いて、自分の全方位をカバーする「盾」を形成していく。そこに向けて、「バリバリバリッ」と、大気を引き裂く轟音を立てながらゼウスの放った「雷霆」が少女に迫っていった。
そして、これらの行動は少女が導き出した戦略の一環だった。
-・-・-・-・-・-・-
「あの「
“生半可な力では無理だろう”
「何か手段はあるかしら?」
少女は神殿に向かう為に空を駆けながら、アテナの
“「
「雷撃なら、絶縁体を使えば守り切れるのかしら?」
“並の絶縁体では絶縁しきれないだろう”
「それならば、何か方法はあるの?」
“あるにはある。それは、自分のデバイスの中を見てみる事だ”
「デバイス?あぁ、随分前にドクに作ってもらったアレのこと?」
“雷撃とは即ち電気だ。電気はエネルギーであろう?”
「五つの力のコトね?えぇ、そうね。確かに
「ならば、神殿に着く前に調整は必須ね。知恵を貸してもらえる?」
こうして秘策を得た少女は、神殿に行く手前で少しだけ
少女はクロノスと互角だったコトから、「なんとかなるだろう」と考えていたのは慢心だったのか、それとも……だがこれは余談である。
「デバイスオープン、S-M700type-R」
かちゃっ
「上手く調整出来ていればいいけど……」
“それを言ってしまっていいのか?”
「ま、それもそうね。これ以外の手段なんてないんだしねッ!ゴリ押し以外……」
少女の言の葉に反応し、デバイスから取り出されたのはスナイパーライフルをドクが魔改造したレールガン
これは本来であれば全長が1mを超える為に、デバイスに収納出来ないサイズなのだが、そこは魔改造の結果、マウントベースの辺りで折り畳む事で収納可能となっている。
まぁ、実弾を撃つのであれば本来はダメ構造だろうが、仕様的に実弾を撃たないのであればOKだろう。
ちなみにこの銃モドキは少女が「魔界」から帰ってきた折にドクに発注した一丁だった。
少女は自身のオドの総量を知り、オドを自在に操れるようになった事から、自身のオドを収束・圧縮して撃ち出す事が出来る武器として考案した物だ。
要は
だが、最終的に
それはそれでグッジョブだったので、今回は電気エネルギーを射出出来るように調整してある。
それをアテナの
ゼウスが放った幾重にも及ぶ「雷霆」は、大気すらも
一方で少女は展開した2つの盾が集めた「雷霆」の電気エネルギーを、「S-M700type-R」に収束・圧縮していった。
「なッん……だとッ!?
「バカなッ!ありえんありえんありえんッ!」
「別に不思議なコトも、ありえないコトも存在しないの。だってそれは、なるようにしかならないんだからッ!」
「行くわ……よッ!アンタから借りた
ゼウスは少女がその手に握っている「筒」の中に眠る、異常に高められた「力」の圧力を感じ取っていた。しかし一方でゼウスがその圧力に危機感を感じ取り、その身が回避行動に移す前に、少女はその「筒」のトリガーを
「ぱしゅうッ」と比較的軽い音と共に一つの電気玉が射出され、ゼウスの元へと
拠って電気玉はゼウスに対して数千億ボルトにも及ぶ電圧の高負荷を掛け、その体内に数千万アンペアの電流を掛け巡らせたのだった。
通常の生物であれば、瞬時に焼け焦げ、生命活動を停止させる程の電圧/電流であると言えるだろう。だが、相手は「
だからこそ、
た・だ・し、いくら
拠って雷撃はゼウスの身体を、超高電圧の高負荷として奔りその自由を奪った。付け加えるならば、超高電流は身体中を駆け巡り身体の中から焼き払っていた。
だからその「痛み」は恐怖を心象風景に焼き付け、オマケとして身体中の「毛」と言う「毛」をチリチリにしたのだ。
「さて、今の貴方の、その動けない状態の内に、昨日の魔術を喰らわせてあげましょうか?それとも承認を渡してくれるのかしら?」
「まぁイヤなら、
「あぁ、でも自分から
「は、はいぼ……くを、…み……とめ…、る」
少女はゼウスの数歩手前まで歩き近付くと口角を上げ、悪っるい顔で紡いでいた。それは昨日、多少なりとも辱められた事への怨嗟がそうさせたのか、はたまた
しかしゼウスはその言の葉を受け、
ここで拒否する事は、それこそ「死」以上に怖い結果を齎すのが目に見えたからだ。
高負荷に因る麻痺が解けると、ゼウスは直ぐに一欠片の石を渡した。その目は実にオドオドとしており、あれだけ逞しい肉体美を構成していた筋肉は萎んでしまっている様子だった。
そこには既に絶対的支配者としての様相はない。強者に怯える小さな小さな草食動物のようだった。
「こ、これをお渡し致しますので、何卒、貴女様のお
「そ、それでは失礼致しますです、ハイ」
「なぁにあの格好?いいザマなのだわ」
「叔母様!」
「それにしても、やはり貴女は凄いのだわ!」
「叔母様、あの……、叔父様は、大丈夫ですかね?」
「あの唐変木にはいい薬になったと思うのだわ?だからそれを貴女が悔いる事も悩む事も必要ないのだわ」
ヘラは既にこの場にいない
愛は既にそこに無いと感じられる一面だった。
「それにしても、あの唐変木から一撃も貰わないで倒してしまうなんて本当に凄いのだわ」
「それは、ただ……今回は武器の相性が良かっただけです」
「それに、叔父様が
きゅっ
ヘラは謙虚な姿勢の少女にとても感心した様子だった。力を誇示することなく、闘った相手を尊重するその姿勢に心を打たれたらしい。
だからこそ、ヘラは少女を抱きしめていた。
「本当にいい娘を授かったわね、ウェスタ」
「そうだ、叔母様!母様のいる塔って、ここからどうやって行けばいいんですか?」
「案内してあげるから、付いて来るのだわ」
ヘラはゼウスが座っていた椅子に向けて階段を昇っていく。少女はヘラの後を追い掛けていった。
ヘラは階段の一番上に到着すると、視線の先にあるモノを指で指し示していた。
ヘラの視線の先、指で示しているそこには、エメラルドグリーンに輝く門があった。
「あれは?凄く綺麗な色をしてるけど……門かしら?」
「あれは、タルタロスの門。本来であれば中は
「それがこの欠片なのねッ」
少女は
門には
「綺麗な色。だけど、なんか不思議な色合いね」
「そしてこの先に母様がいるのね」
ごくっ
少女は門を見て呟きながら、手に三つの「承認」を握り締めていた。
少女は門のⅩⅡの「凹み」にウラノスの
少女は門のⅧの「凹み」にクロノスの
少女は門のⅢの「凹み」にゼウスの
三つの「凹み」にそれぞれの「承認」が嵌まり、地鳴りを響かせながらその門の紋様が動き出し、回転していく。そして、右に270度回転した所で紋様の回転は止まり、門は静かに開いていった。
少女は門が完全に開き切ると、玉座の近くに
ヘラは少女と目が合うと、何も言わずその頭をゆっくりと1回だけ縦に振ったのだった。
「行ってきますッ!」
「姉さんに宜しく伝えて欲しいのだわ」
門を
階段の周囲には銀河のような星の煌めきが見えている。
どこまで登るのか?どこまで登ればいいのか?終着点は全く見えていなかった。
だが、少女の足取りは決して重くなかった。
少女の記憶の中に母親の姿は一切無い。その
故に一欠片の記憶すら残っていない。
だが、ここに至るまでの間、何度も何度も母親の影に救われた経験は、
母親の
永く長く続く階段を、ただひたすら登った先にいる自分の「母」に対して、思いを馳せながら歩を進めていく。
「どんな事を話せばいいんだろう?」
少女は一歩ずつ歩を踏み締めて先へ先へ、上へ上へと進んでいった。
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