第17話 ギガンティア

「ここ数日、「三国山」の周辺で妙な出で立ちのヤツが現れるんだとよ。被害はこっち神奈川国じゃ出てねぇが、静岡国と山梨国のハンターが数人返り討ちに遭ってるらしい」

「生命までは取られねぇらしいが、武器をられたヤツはいるんだとよ。まぁ、ハンターが武器をられるなんざ、どうかしてるとしか言いようがねぇが、面白くねぇか?」


「へぇ、そぉなんだ?」


「まぁ、本来なら神奈川国ギルドウチが扱う案件じゃねぇんだが、向こうのギルマスから泣き付かれててな、誰かを依頼クエストに送って恩が売れるなら儲けモンだ。暇なら行ってくんねぇかな?」


「ふーん、そぉなんだ?」


「どうやら、「型」を使えるらしいぜ?その妙な出で立ちのヤツはよ」


がたッ


「今、なんて言ったの?!」


「だから、「型」を使えるらしいぜ?嬢ちゃんのお得意の「型」だな」


 少女はスカーフェイスのその依頼を断るつもりだったから聞き流しており、断り文句まで考えていた。

 しかし「型」の件で考えを強制的に改めさせられていた。



 少女は結局、スカーフェイスから言われた依頼クエストを受ける事にした。スカーフェイスは「泣き付かれた」と言っていたから、要請デマンドが来ており早々に誰かを送り込む算段だったのは分かりきっていた。

 だから少女は完全な当て馬にされたコトが悔しかったが、「型」を使えるモノが悪事を働いているなら見過ごせなかったのだ。まぁ、悪事を働いているとは一言も言っていないので、それは早とちりなのだが、それはそれこれはこれだ。


 しかし受け取った依頼書に依頼クエストの詳細はあまり記載されておらず、分からない事だらけだった。

 だから、「どこ」で「何」をすればいいのかも分からなかったのだ。

 取り敢えず「型」を使う「妙な出で立ちのヤツ」とやらを捕まえればいい事だけは理解したので、取り敢えず大雑把おおざっぱ過ぎる目的地の「三国山」を目指してセブンティーンを走らせていった。



-・-・-・-・-・-・-



 その「妙な出で立ちの男」であるハロルドが徘徊はいかいし始めてから、もう既に何日が経っただろうか?

 道に迷っているのでは無いと思いたいハロルドだったが、いくら歩いても一向にどこにも辿り着けない事に焦燥感と共に腹立たしさを覚えていた。途中、幾度となく魔獣にも襲われた。

 だから幸いにも鬼種オーガから奪った棍棒が役に立っていた。



 彷徨さまよっている途中で、ちゃんとした装備の者に突如として襲われる事が何度かあった。

 そいつらは、話しを聞く事もせずに突然襲い掛かって来たが、殺さない程度に返り討ちにしておいた。でもそれが良かったのかどうかは分からなかった。

 だが、返り討ちにしなければ自分の生命が危険だった事から正当防衛としては成り立つだろう。


 だがそんな事よりもハロルドにとっては空を飛べない事が腹立たしい限りだった。

 元々ハロルドは空を飛べないが、空を飛べたらこんなに彷徨う必要がないと感じられたからだ。


 更に付け加えるならば、ハロルドはどうしようもない程の空腹感に襲われていた。元より魔族デモニアであるハロルドは食事を必要としない。

 だから「魔界」にいた時には感じなかったお腹の不快感に最初は戸惑っていた。

 しかし、食べる物があってもそれが食べられるのか何も分からない身の上で、食べるコトを知らないハロルドは、山の中にたった1人でワケの分からない空腹感に耐え忍んでいるのが精一杯だった。


 そして、気が付けば脚がフラつき、そのまま倒れ込んでしまったのだった。




「おんめぇ、そんなトコで、まだ何をやってんだ?」


「は、腹が変なんだ。力が湧かない。立っているのも辛い。どうにかならないだろうか?」


「おんめぇ、ちゃんと喰ってるだか?前に見た時より、だいぶけてるようだが?」


「喰う?いや、小生じぶんは何も食べていない。食べる物を持っていない。その前に食べなければ?」


「おんめぇ、なぁに言ってるだか?食べずに生きていけるほど、甘い世の中じゃねぇだろ?」

「よっこいせっと。おんめぇ、座れるだか?そのまんまじゃ、なんにも喰えんべ?」


「ち、力が入らない」


「じゃあ、しゃあねぇな。ちょっと口閉じてろよ?よっこいせっと。よっこらせっと」


 大男はうつ伏せのハロルドをゴロンと転がし仰向あおむけにすると、手を引っ張って強引に上体を起こしていった。

 ハロルドは為すがままに上体を起こされると、その目の前には干し肉が差し出されていた。

 それは大男が背中に担いでいた袋の中に入っていたモノだが、ハロルドはそれを受け取ると口の中へと運んでいった。



「うまいっ」


「だろ?ちゃんと喰わねぇと力は入んねぇ。ちゃんと喰ってちゃんと寝る。そうしなけりゃ人間は生きていけねぇ」


「げほっげほっ」


「何日も喰ってなかったんなら、急いで喰ったらダメだぁ。ほれ、水飲んでちゃんとよく噛め!」


 ハロルドは干し肉を受け取り一心不乱に食べていった。

 ハロルドの身体は栄養を欲していたので、むせ返りながらも差し出された干し肉を無我夢中で頬張っていた。

 そんなハロルドは竹で作った水筒の水をもらい、ようやく落ち着きを取り戻していった。



「お陰で命拾いした。本当に世話になった。この恩は一生忘れない」


「おんめぇ、オラが怖くねぇだか?」


「怖い?数日前に話し掛けられた時は流石に突然で驚きはしたが、怖いと思った事などないぞ?」


「そかそか、おんめぇ、珍しいヤツだな」

「じゃあな、人探し頑張んな。それにちゃんと喰って寝ろよ」


「世話になったッ!」


 ハロルドを助けた大男はまた深い森の中に消えていった。

 ハロルドは大男の背中に頭を下げ見送るとまた、宛のない森の中を彷徨っていった。




 少女はセブンティーンを走らせ、三国山付近に到着した後、鬱蒼うっそうとした森に分け入らず、ブーツに火を点すと上空からバイザーを使って捜索する事にした。



「だいたい、ここら辺が龍人族ドラゴニアの村があった辺りだったわよね?」

「まぁ、村に行っても、もう誰もいないから情報収集は無理だけど」


「ん?えっと、あっちに幾つか反応があるわね。行ってみようかしら?」


 少女はバイザーに光点を見付けると、その光点に向けて身体をひねかじを切って向かっていった。



 少女はそこにいる者達に気付かれないように上空から近寄って行く。そして物音を立てない様に大地に降りると木の陰に身を隠していった。



「人が襲われてる?ん?でも…あぁ、なるほどね」

「あれは巨人族ギガンティア…かしら?それで巨人族ギガンティアが闘っているアレは、一眼巨鬼種サイクロプスね。アタシはどうしようかしらね?」


 少女の視線の先には巨人族ギガンティアが一人に対して、一眼巨鬼種サイクロプスが3匹いる。

 巨人族ギガンティアが劣勢である事に変わりは無いし手助けをする事は

 だが手助けをする云々の前に、ギルドからの依頼クエストに挙がっていた「妙な出で立ちのヤツ」が「ではないのか?」と考えるようになっていた。


 確かに視線の先の巨人族ギガンティア一眼巨鬼種サイクロプスも妙ちくりんなカッコだからだ。だが、そうなると「型」の件は解決しない。

 まぁその場合、「見間違い」ってコトで丸く収めるコトを考えついた少女だった。

 もしかしたら、ギルマスが少女の気を引く為に話しただけの、とすら感じたからだ。




 巨人族ギガンティアは生態系上、亜人種に分類されヒト種に近い言語体形を有している。だが、国に属さず村を造らず、山岳地帯や森林地帯で1人で狩猟生活をしていると過去に研究者から報告が為されていた。

 謎の多い種族だが、ヒト種に対しては概ね敵対していないとされている。


 体長は平均して2m~3m程だ。だから視線の先の巨人族ギガンティアは平均の中央値からすれば大きな個体になる。

 そして、巨人族ギガンティアも他の種族同様に固有能力ユニークスキルを持っている。

 それが「真巨大化ジャイアンティズム」である。



 対する、一眼巨鬼種サイクロプスは魔獣であり、言語体形は有していない。特徴的なのは頭に生えた一本の角と顔にある大きな「一つ目」だ。

 拠って、その特徴から一眼巨鬼種サイクロプスと呼ばれているが亜種は確認されている。

 拠って、討伐難易度の振り幅は、A~Bランクに分類されている。

 体長は平均して4mくらいと言われており生態系の中では大分類で「鬼種おにしゅ」の中に含まれ、中分類で「巨鬼種おおおにしゅ」となっている。


 一眼巨鬼種サイクロプス近距離ショートレンジを攻撃範囲としているが、巨体故にヒト種の近距離ショートレンジとは範囲が大分だいぶ異なるのは明白だ。だから戦士ウォリア系のジョブでは間合いに入るのが難しい相手でもある。

 付け加えると敏捷性AGIは高くないが筋力値STRは異常に高い。


 新たに発見された亜種では敏捷性AGIが高い個体も発見されたとか、されてないとかの話しもあるがそれは余談だ。




 戦闘は終始劣勢であった巨人族ギガンティアが、一方的に一眼巨鬼種サイクロプスに対して負けそうな勢いだったのだが、突如として現れた闖入者ちんにゅうしゃに因って形勢は徐々に変わっていくのだった。

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