9/1 呪いが解けない
9月1日。
「お前なんかが社会に出てやっていけるわけがない」
「どこででも野垂れ死ね」
出ていくとき、父親に言われた言葉。
「どんな職業を選んでもストレスはつきものだけど、君の心身はそれに耐えられなかったということだね」
辞めるとき、社長に言われた言葉。
この二つの言葉に交互に苛まれる一日だった。
まるで父親の言うとおりになっているじゃないか、と思うと、自分がふがいなくて、悔しくて、苦しかった。
呪いが、解けない。
朝、妹が来た。来てくれたけど、口が重く、まともに会話ができなかった気がする。妹の誘いで近所の洋菓子やさんに向かった。あいにくの定休日だったので、近くの和菓子屋さんに行った。妹は、練り切りとみかん大福を買った。私には抹茶プリンを買ってくれた。帰ったら、練り切りを食べる用の楊枝はないし、抹茶プリンは凍っていた。妹は手づかみで練り切りを食べ、私は凍ったまま抹茶プリンを食べた。ふたりして何してるんだろうね。と、その時だけは少し笑えた。
それからは、無為な午後。小説は一本書けたが、雰囲気だけで書いたもので、どうにも納得がいかなかった。以前書いた短編を膨らまそうにも、それはそれで完結してしまっている気がして、どう手を施していいかわからなかった。
私はベッドに逃げ、動画を流しながら目を閉じていた。
そうこうしているうちに、夕方、つきあっている男が様子を見に来た。しばらくは泣き言を言いながら横になっているしかできなかった。少し経つと、なにもしないでいるとどうにかなりそうで、私は彼をカラオケに誘った。料金は向こうが持ってくれた。それから2時間ほどカラオケに滞在した。
この頃ほとんど歌っていないせいなのか、それとも煙草で喉が焼けているのか、思うように声が出なかった。
カラオケの好きなところは、歌詞をじっくりと見れるところだ。自分の状況や心境と近いものがあればそれだけで胸がいっぱいになり、自分の選べない言葉を使った歌があれば才能が羨ましくなり、雰囲気のいい歌があれば「私もこんなものが書けたらいいのに」と悔しくなった。ことあるごとに泣きそうになりながら、なんとか2時間を過ごした。
今日はそのまま、久しぶりにまともな夜ご飯を食べた。普段はヨーグルトだけとかプリンだけとかだった夕飯。今日はスーパーで弁当を買った。家にある食料を少しずつ食いつぶすだけだった日々に、唐突にあらわれたごちそうだった。
おなかがいっぱいになると、なぜだか罪悪感が湧いてくる。自分がこんな風にいい思いをして生きていいのかと、苦しくなる。
いまが苦しくて仕方がないのに、自分が一番自分を苦しめたがっている、気がする。
苛むのは自己嫌悪だけでなく不安もそうだった。小さな不安から大きな不安まで、心の中に満ちていた。本の発注にミスがないだろうか。私にちゃんと発送がこなせるだろうか。母のもとへ戻る準備が私にきちんとできるのだろうか。ほんの1カ月足らずで仕事をやめてしまった自分が、この先どうやって生きていけるのか。私にまともにできる仕事があるのか。仕事と言われることを、私は何一つまともにできないんじゃないか。人に迷惑ばかりかけて、こんな風に生きていていいんだろうか。
ぐるぐる。ぐるぐる。不安と自己嫌悪が交互に巡る。
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