8/29 捨てたはずの過去と、あったかもしれない未来について
8月29日。季節は移ろう。まだ8月だけれど、風はすっかり涼しくなり始めている。
今日から退職、ということになっている。私は今どこにも属していない。端的に言えば無職である。諸々の手続きにあって、職業欄でその他を選ぶたびにつきつけられる現実。
ついにやめてしまったんだな、あの職場。4年と少しの間に色々あったな。気づいたらそんなことばかりを考えている。
勤務日数が増えるからと改めて買ったオフィスカジュアルだとか、仕事のことについてメモをするために用意した専用の手帳だとか、今後の授業のために先回りして予習していたテキストだとか。あれこれ用意していた時の自分は、すっかりこの仕事を続けていくつもりでいた。
正社員として働き始めて半月で会社に行けなくなるなんて、少しも思っていなかった。
熱が出始めるまでは。あるいは、熱があっても感染の可能性があるなら出勤するように言われるまでは。
あの瞬間に、心がぽきりと折れていた。
いつしか職場にいるのが苦痛になった。自分がいてはいけないような気がしていた。授業だけは普通にこなせて、それで元気だ、平気だと思われる自分が忌々しかった。
二回連続で早退をして、そのまま退職。
楽しいこともたくさんあった。ほめられることもあった。優しい人たちばかりだった。けれど、ミスが続いていたたまれなくなることも、自分の仕事のできなさにキツくなることもあった。熱が続いてからは、取り繕うような優しい言葉の奥で、何を思われているのか、言われているのか、猜疑心ばかりが膨らんだ。社員さんのほとんどは「いい人」だったけれど、社長だけは私の期待らなかったな。悪い意味で。
やめれてよかったよ、と言ってくれた人もいるけれど。会社を辞めたことで、今まで積み重ねてきた過去や、この先あるはずだった未来を、すべて捨ててしまった気がした。
そして私は、もうすぐこの街を捨てる。
小学生の時に越してきて、大学卒業までずっと同じ街にいた。少し島に行ったりもしたけれど、結局戻ってきて就職して。実に十数年。色んな事があった。過去は過去というだけで全て思い出したくないものに変わる。ふとした瞬間のフラッシュバックは、それがたとえなんてことのない記憶であっても、過去というだけで叫びだしたくなるほどの負の感情に呑み込まれる。
その街を、もうすぐ捨てられるかもしれない。
とはいえ、まだ、時間はかかる。その時間が今は、気が遠くなるほど長い。
眠ろうとしても過去や負の思考に苛まれ。起きていても落ち着かなくて、好きだったはずのことすら手につかなくて。無為の時間をひたすらにもてあましている。
落ち着くのは、文章を書いている間だけ。けれど、文章のお仕事を探そうにも、クラウドソーシングのサイトで出てくるものは私にはできなそうなことばかり。今ある文章をどうにかしたいけれど、営業するあてもなくなってしまった。
何もできない。
何もできない中で、好きな作家さんの本を、休み休み、どうにか一冊読んだ。
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