第117話 騎士選定トーナメントの準備

 キィーンッ!・・・トスッ


「はい、次の人」

「くっ、無念!」


 百人もしないうちに面接するのが面倒になり、私かブレイズさんを相手にいい試合ができたら合格という事にして、選定試合に明け暮れる日々を送っていた。言葉ではなく剣で語ってもらうことで、面接時間が一人数分から三十秒に短縮できたけど、一向に面接希望者が減る様子がない。

 これでは、私のガイア・リゾート・アイランド計画が遅々として進まないじゃないの。なんとか自動的に選別する方法はないかしら。


 そう考えてあたりを見回したところ、知り合い同士で練習試合をしている人たちが目に入ってピンときた。


「そうだわ!トーナメントを開けばいいのよ!」


 私は選別試合を切り上げ、ブレイズさんとバートさんに勝ち抜き戦による足切りを提案した。


「そりゃ助かる。正直、単純作業過ぎて欠伸が止まらない」

「百人くらいに絞られたら闘技場を作って観戦しましょう!」


 優勝者には剣を授与するということでイベント化してしまえば、庶民の娯楽にもなって一石二鳥だわ。


「かしこまりました。ひと月ほどいただければ百人近くまで絞れましょう」

「ありがとう。優勝者に授与する剣は、テッドさんに頼んで用意しておくわ」


 こうして第一回メリアスティ騎士杯が開催されることとなった。


 ◇


 あれから数日後、剣のデザインを決めた私はテッドさんのところにきていた。


「こんにちは、テッドさん」

「メリアの嬢ちゃんか。今日はなんだ?」


 私はメリアスティの自警のために私設騎士団を創設することになり、その選抜トーナメントをイベント化して、その優勝者に贈る剣が必要になった経緯を話した。


「おう、噂は聞いているぞ!聖騎士選定勝ち抜き戦トーナメントの話だろ」

「は?いつのまに聖騎士を選定する話になっているのよ」

「そりゃあ、四属性すべての加護を授かるから剣を授けられて騎士になるなら、それは聖騎士だろうよ」


 なんということなの!楽して決めるつもりが、ますます大事おおごとになってしまったわ。あれ?そうすると雷神剣を持っているブレイズさんはどうなるのよ。


「その理屈からするとブレイズさんが聖騎士になってしまうわよ?」

「何言ってんだ、嬢ちゃん。世間の認識ではブレイズはとっくに聖騎士だ」


 より正確に言うと、神雷無双の聖騎士だとか。くぅ、またその二つ名が付きまとうことになるのね。まあ、いいわ。ここは本題に立ち返りましょう。

 頭を振って二つ名のことを頭から追い出した私は、お願いする剣の造形を説明していく。


「召喚送還と軽量化のための神仙石と、硬度強化の魔石を柄頭ポンメルに仕込んだ、ごく一般的な全長一メートル程度のナイトソードをお願いしたいわ」


 柄頭ポンメルに彫る意匠は、以前にガラクお爺さんが作った懐中時計を参考に、柄頭ポンメルの表に四つ葉のフォーリーフ、裏にサイドテールにした女性の姿絵をつけて、家紋の代わりにしてもらうことにした。


「なんだ、斬撃強化や雷撃の魔石は付けないのか?」

「そこまですると自警団が持つにしては強力すぎるわ」


 というか神雷の警棒を別途支給すれば十分・・・あれ?じゃあ剣はお飾りになってしまうわね。なら、普段使いはしないと割り切って強くしてもいいのかしら。

 指を口にあてて悩んでいると、後ろに控えていたブレイズさんが使い手として意見を出してきた。


「鎮圧目的なら斬撃はともかく、雷撃は殺さず無力化するのに有効だぞ」

「そう?じゃあ半分の大きさで雷撃の魔石と硬度強化の魔石をつけようかしら」


 ブレイズさんのアドバイスを参考に、私は魔法鞄から小さな魔石を取り出すと、その場で雷撃と硬度強化の付与をしてテッドさんに渡した。


「自警団の人数が決まったら、また一般支給用の剣と盾、鎧をお願いするわ」

「おう、任せておけ。ところで、この間のガイアの島はもう使えないのか?あそこなら鍛冶の火力確保や温度調整が楽なんだが」


 そういえば、まだ新しい無人島の開発計画は話していなかったわね。


「実は新しい無人島を見つけて、メリアスティの浮島のようにしたの」


 私は隠蔽結界と古城だけ設置して、他は自警団の選定に手間を取られて手付かずの状態であることを話す。


「そうか!なら以前のように重機で適当に開発しておくから、鍛冶に使わせてくれ」

「わかったわ。整地だけしてくれれば、あとの舗装は運河や城みたいに玄武がしてくれるから、以前よりは楽だと思うわ」


 そう言って、フェンリルちゃんに頼んでガイアの無人島に転移すると、例として翡翠の城を見せた。


「土や石なら、運河の舗装だけでなく、この古城みたいに新品同様に補修した上に、頑丈にコーティングしてくれるから楽よ」

「おいおい、なんだありゃ。宝石で出来た城じゃねぇか!」


 コーティングは大理石でもなんでも可能で、容量の大きい魔法鞄に古くて使えなくなった石造りの家を収納して設置すれば、見ての通り新品以上にリフォームする玄武のインスタント・ストーン建築法で再利用できることを説明していく。


「島の広さはメリアスティくらいあるから、果物がなる木だけ残して、あとは好きにしてもらっていいわ。木造ではなく石造りなら、見ての通り建物も快適よ」

「わかった。隠居する爺さんの店を譲り受けてくるから、話がついたら頼む」


 こうして、優勝者に贈る剣の製作とガイアでの生産拠点化の話をまとめると、テッドさんの店を後にした。


 ◇


「これでやっとゆっくりできるわね」


 新しく見つかったバナナとパイナップルを使ったパウンドケーキを焼いて、飲み物にバナナシェイクをつけて楽しんでいると、脳に糖分が回って色々なことが浮かんでくる。その中でも、ずっと引っ掛かっていることが再浮上してきた。


「ブレイズさん、実は言わなくてはならないことがあるの」

「なんだ?あらたまってお前らしくもない」


 やっぱり、ずっと隠し事をしておくなんて性に合わないわ。私は覚悟を決めて先日露見した事実を暴露する事にした。


「実は四女神の加護を得た事で更に精霊の加護が加わり、ほぼ不老になってしまったの」


 その一言を皮切りにして、二段上のポーションを作れるようになったことや、究極のポーションによる延命効果がもたらす未来予想、やがてはガイアに移り住むことも視野に入れていることを話していった。


「この間から何か隠しているのはわかっていたが、そういうことか」

「気がついていたの?」

「そりゃ、あからさまに色が違うポーションを作っておいて、ぎこちない態度を取られれば嫌でも気がつく」


 ほとんど最初から気がついていたんじゃない!そう声を張り上げそうになるところをグッと堪えて、私は核心的な一言を口にする。


「そ、それで・・・できればブレイズさんも一緒に来てくれないかしら」


 しかし返事を聞く前に、それは中断された。


「――あるじよ、ガイアの浮島の外に魔族が来たようだ」


 青龍が投影した水鏡を見ると、隠蔽結界を前にして佇む一人の魔族とおぼしき男が空に浮いていた。その男は黒髪の長髪に、両方の側頭部から立派な角、背にブラックウィングを生やした美男子イケメンで、青い瞳は理知的な光を宿していた。


「エルフとはずいぶん印象が違うけど、あの見た目でヒャッハーしてくるのかしら」


 でも一人なら、土の女神の盾も含めたフルセット女神装備をしていれば、話し合うこともできるわね。

 そう判断した私は、風の女神の女神の翼を羽織って土の女神の盾を装着すると、左手に水の女神の錫杖を持って、右手に火の女神の剣を召喚した。


「何を考えてる。まさか結界の外に出ていくつもりか?」

「一人なら話し合いもできるでしょう。襲いかかって来れば返り討ちよ!」

「ちょっと待て、俺も行く」


 そう言ってブレイズさんが真打ちの雷神剣を収納の腕輪から抜いて構えたのを確認すると、フェンリルちゃんに頼んでガイアの浮島で佇む魔族の男の前に全員で転移した。

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