第116話 玄武の力と今後の展望

「これでしばらくは安心ね!」


 古城を土台ごと浮かせて出来た穴を城を置く予定地の土壌で埋め立てる際、地中に隠蔽結界を発生させる神仙石を設置して容易に侵攻できないようにした。

 隠蔽結界の影響範囲は限られるけど、エルダーリッチの王がカバーしていた範囲と同じくらいだから今までと同じ状況を維持できるはず。念のため上空にいくつか監視水鏡を浮かべておいたから、異変があればすぐにわかるわ。


 そうしてひとまずの安心を得ると、当初の目的に沿って浮島にした無人島の中央に古城を移設して城の中を見てまわる。


「かなりの年代ものね。大丈夫かしら」

「ここを見ろ、いつ崩れるかわからないぞ」


 ブレイズさんが指し示す場所を見ると、建材の経年劣化で柱の一部が崩れているところがあり、城が崩落する可能性があると判断した私は、いったんテラに戻って今後の方針を考え直すことにした。


 ◇


 あれから数日、コンクリートでの補修など、手段を含めて城のリフォーム計画を練っていたが、うまい考えが思いつかず頭を抱えていた。


「石造りといっても、あれだけ年月が経っていると最初から新築した方が早いかしら」

『ほっほっほ、石の事なら儂に任せておくがよい』


 不意に届いた念話に顔を上げると、鳳凰と小さな亀が窓際に浮いていた。


『玄武を連れてきたわよ。全然起きないから火山を爆発させてやろうかと思ったわ』

「それは、ありがとう。玄武のお爺ちゃん?私はメリア、よろしくね」


 ところで先ほどの任せるとはどういうことかと聞いてみると、青龍に聞いていた通り石や土の扱いは得意らしく、石造りの建物の補修はお手のものということだった。

 それなら早速と、ガイアに転移して城の補修を頼んだところ、劇的にリフォームされてしまった。


『お嬢、これでどうじゃ』

「新品というか、大理石に変わってるじゃない!なにをしたの?」


 見た感じ総大理石と化して、前々世のインドにあるタージ・マハルを経年劣化ゼロにしたような出来栄えになった。わけを聞いてみると、補修ついでに表面の組成を変化させたのだという。


「それなら翡翠石でコーティングしたりもできるのかしら」

容易たやすいこと。ほれこれでどうじゃ』


 石ならなんでもいいのかと思って翡翠石でコーティングしてもらったら、夢のような翡翠の城になってしまったわ。錬金術でもやれない事はないけど、ここまで大規模にはできないし、やったら宝石価格が大暴落ね。


『あんたたち、こんな魔素に満ちたところにきて遊んでいたなんてずるいわよ』

「名目上は危険種族の監視なのだけど・・・そうだわ、鳳凰なら飛び回れるし色々と見てまわってくれないかしら」


 瞬間的に移動するばかりで、あまり大陸とか種族分布を把握できていないのよね。それぞれの気候も判明すれば、美味しい食べ物がありそうな場所も予想がつくわ。

 そんな思念を込めて伝えると、神獣使いが荒いといいつつも、鳳凰は浮島の結界の外に飛び立っていった。


「玄武にはメリアスティの運河のコンクリート・・・いえ、それより丈夫で長持ちするなら大理石でも御影石でもなんでもいいから舗装を手伝って欲しいわ」


 それからメリアスティの街を見てもらって、運河の件が済んだら水路構造をガイアの浮島の城の周囲に限定して再現するようにお願いした。他人が大勢住むわけではないから、自然を多く残したいものね!


『お嬢はあれこれと面白いことを考えるのぅ。久しぶりに腕が鳴るわい』


 こうして、玄武の手でまずは運河の舗装が進められることとなった。


 ◇


 ガイアの翡翠の城で監視水鏡用のレンズや、凹凸なしのガラスに青龍が支配下に置いた水を封じ込めた水鏡を三十倍の神聖錬金術で量産していたところ、テラの執務室に置いた水鏡を通して用事を知らせる光の合図が届いた。


「なにかしら。しばらく用はなかったはずだけど」


 あれから古城跡上空に浮かべた監視水鏡を通して遠くを写し出せる利便性に感動して、これは便利だと惑星間でも水鏡は使えるのか色々と試したところ、問題なく映像を投影できてしまった。

 今では、用事を知らせる水鏡をメリアスティの領主館に置くことで、テラで何か用が発生したら水鏡を通してバートさんに知らせてもらう連絡体制ができていた。

 光ファイバーに連結すれば単方向の惑星間通信網が完成するけど、通信士をガイアに常駐させる必要があるため、用事があればずっと光らせる、緊急の場合は点滅させるという簡易的な合図としていた。


 ずっと光る合図から急ぎではないと判断し、私は製作していたものを片付けてからフェンリルちゃんに頼んで執務室に転移する。


「ただいまバートさん。なにかしら?」

「玄武殿により運河が完成しましたので報告に参りました」


 執務室に着くなり信じられないことを聞いて絶句してしまった。まだ二週間しか経ってないじゃない。

 そんな私の驚きを読み取ったのか、バートさんの近くにふわふわと浮いていた玄武が笑い声を上げた。


『ほっほっほ、すでに河川近くまで掘り進めてあり舗装するだけだったからの』


 となると、運河の建設は全て終わったことになるのかしら。いきなり土木工事が無くなったら雇用の受け皿がなくなってしまうわね。


「舗装事業に携わっていた人たちの仕事はどうなっているのかしら?」

「メリア様が以前おっしゃっていたゼネコンなる商会を立ち上げ、国内の有力貴族が手がける空港建設工事に派遣するか、ノウハウを持つこちらで丸ごと空港建設を請け負う予定です」


 メリアスティに住まう人たちは形式的には王家直轄領の住人として扱われ、貴族の空港建設で生じた住民の所得収入は税として王家に還流することになるから、商会設立に王宮は積極的に協力してくれるそうだわ。


 でも、ゼネコンというより感覚的には労働者派遣事業と請負事業の会社になってしまった気がする。リストラする必要が全くないほど資金に余裕があるから急ぐ必要はないけど、各地の空港建設が終わるまでに、なにか手に職をつけてもらう必要がありそうね。

 お金があるからと言って必要ない道路を作るなど、無意味な公共事業をさせるのは性分に合わないわ。


「空港建設が一段落したら、土木従事者から組み立て式住宅みたいなユニットハウス建築に人をあてたり、空港などの施設運営、ハウス栽培などの先端農業、缶詰開発や塩・乾燥昆布などを手がける水産業、鉱工業、重化学工業、それから自警団などにリソースシフトしていきましょう」


 学術都市を目指していたのだから、時間がかかってもお金さえ尽きなければやがて目指す姿にたどり着けるはずよ。


「自警団ですか。それならメリア様直属の私設騎士団を創設されてはいかがですか」


 バートさんの話では、子爵級の貴族ともなれば直属の家臣として騎士の幾人かはいて当然だという。でも私が生きていれば戦争禁止状態なのに、騎士がいて何と戦うというのかしら。


「ま、まあ・・・自警団より騎士団の方が聞こえが良いという話なら、希望者を募って人格面でふるいにかけたあと、訓練に耐えられそうな人をブレイズさんに選んでもらってちょうだい」

「かしこまりました。王宮とも相談し希望者を募りましょう」


 まあ、領地もろくに持っていない私のところにくる物好きも少ないでしょうし、当分は先の話ね。


 ◇


「などと思っていた私が浅はかだったわ」


 私はメリアスティの地上の来客用の館につめかけた大勢の騎士希望者の列を見て大きく溜息をついた。


「当たり前だ。お前さんは中身はともかく、おおやけには創造神の加護を持つ聖女で、前代未聞の水・風・火・土の女神すべてを兼ねる巫女なんだ」


 ブレイズさんの話だと、私直属の騎士とは、つまりは聖女直属の聖騎士、あるいは巫女を守護する神殿騎士など、綺麗な言い方はいくらでもあるという。


「というか、本物の聖騎士が混じっているような気がするんですけど!」


 フィルアーデ神聖国で見たような甲冑を着込んでいる人が数人いるように見えるのは気のせいじゃないはずよ。私のライブラリは自動記録なのだから間違えようがないわ。


「メリア様が直属騎士を召し抱えると神聖国の大使が聞きつけたようで、フィルアーデ大使館に詰めていた騎士が急遽派遣された模様です」


 候補者リストを見ながら淀みなく答えるバートさんが脇に抱える書類の束に、嫌な予感がして抱えた書類を指差して聞いてみる。


「もしかして希望者の申請書類はそんなにあるのかしら?」

「これは選りすぐった者たちだけで、全てとなると持ち運ぶことなど出来ません」


 よし、こうなったら最後の手段よ。


「そう。あとは頼んだわ、ブレイズさん」


 ガシィ!


 そう言って瞬歩で退散しようと右足に力を入れた瞬間、ブレイズさんに肩を掴まれ止められていた。


「・・・よく瞬歩の出だしを止められたわね」

「何度もそれで魔獣の群れに飛び込まれれば嫌でも呼吸を覚える。というか、俺一人であんな人数を面倒見切れるか」

「雄々しい騎士達の事は、か弱い乙女にはわからないわ。ほら、この最上級ポーションを飲めば、昼夜を問わず選別できるわよ!」


 そう言って十日は不眠不休可能な最上級ポーションを渡そうとすると、ブレイズさんは瓶を押し返しながら異議を唱えてくる。


「馬鹿言え。純粋な剣技のみでも、お前に勝てるのはあの中に二、三人もいればいい方だ。それに、二人でポーションを飲めば半分の日数で選別できるなァ!」


 グッグググッ!


 そんなポーションを挟んでの見苦しい攻防は、次に発せられたバートさんの一声で終止符が打たれた。


「あれは、まだ第一陣で第五陣まで予定されています」


 こうして、長きにわたる騎士選定の日々が始まった。

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