第71話 イストバード山のカルデラ湖
「さあ、登山の時間よ!」
「別に気球でぱぱっと山頂まで行けばいいんじゃないか?」
それじゃあ薬草の群生地が見れないじゃないの。それに、
「普通、
「その場合は、
昨日は色々あったけれど、次の日にはバートさんはパリッとした執事然とした様子に戻っていた。
私は昨日のうちに錬金術で擬似発酵させて作った素の紅茶と、香料をつけたフレーバーティの見本をバートさんに渡して紅茶の件をお願いし、私は領主館を後にしていた。
後は山の幸を探索してカルデラ湖で遊ぶだけだわ!
「と言っても薬草の群生地については完璧に管理されてて言うことないわね」
ピレーネの街から数合上にある薬草の群生地についた私は、種類ごとに管理が行き届いた様子に舌を巻いていた。
採取するときの乾燥処理だけ気をつければ後は文句なしよ。癒し草はもちろん、各種薬草に加えて月光草までそれなりの量が確保されていたわ。
「そうか、なら今からでも熱気球で・・・って、遅かったな」
大きな猪が興奮した様子で突っ込んでくる様子が見えた。待っていたわ。飛んで火に
私は、今となっては軽くなったヒヒイロカネの槍を、中段にピシッと構えた。
「
ズドォーン!
何気に初めてこの槍で放った槍技は完璧なタイミングで猪の額に吸い込まれ、突っ込んできたビッグボアは横倒しになった。
「だから、護衛対象が真っ先に突っ込んでどうすんだっての」
「別にいいじゃない。これくらい問題ないでしょ」
早速、縄で足を縛ってブレイズさんに木の枝に宙吊りにしてもらって血抜きをおこなった。当たり前だけど、二人で食べるにしてはデカすぎるわね。
仕方ないので
「さて、行きましょう」
「は?まだ登山する気か?」
まだキノコとか山菜とか山芋の有無を確かめてないじゃない。私たちの
「お前は後ろだ」
「わかったわ」
その後、山頂に着くまでに
山頂についた後、早速、カツオブシを使っただし汁を10として日本酒、みりん、醤油を1対1対1の割合で鍋に入れ、食べやすい大きさにしたイノシシの
「やっぱり十二歳の頃に比べると山登りも格段に楽になったわ」
登っている間も息切れするようなことはないし、今も平時と変わらない体調を維持しているわ。ここまできたら温泉も少し見てみたい。というか温泉があるなら、工業利用目的に硫黄とか取れるといいかもしれないわね。でも旅行だし自重しましょう。
ふと湖の方を見ると
「おい、鍋が吹いているぞ」
あら、本当だわ。私は慌てて弱火にして蓋を開けると美味しそうな匂いが立ち込めた。私は出来上がったご飯を二人分よそって、魔法瓶から飲み物を出して昼食を取り始めた。
「こりゃうめぇ!」
「どう?これがキノコの
やっぱりキノコの王様マイタケは美味しい。さしすせそプラス
気がつけば鍋は空になっていた。さすがにここから『うどん締め』は出来ないわ、お腹いっぱいよ!
「じゃあ、腹ごなしにカルデラ湖をボートに乗ってゆっくり見物しましょう」
「調子に乗ってスピード出すんじゃないぞ」
「わかってるわよ、景色を楽しむだけよ」
私はそう言って魔法鞄からボートを出すと、早速、
「ブレイズさん、湖の水は飲まないで。弱毒性よ」
「わかった」
含まれている硫黄は微量だから、湧水として出る頃には
弱毒性があるとはいえ随一の透明度を誇る綺麗な湖の景色を堪能し、約一時間後に火口の縁に戻る。その後、山から見下ろす景色を最後に見納めると次の目的地へ出発することにした。
「はぁ〜心洗われる景色だったわ」
熱気球に暖気を送りながら満足気に感想をこぼした。これで温泉に入れたら完璧な保養地だわ。いつか硫黄採取と絡めてまた来ることになったら考えましょう。
やがて熱気球がふわりと浮かび、私たちは再び空を行く旅人となった。
◇
「次は東のコリアード海岸の港街ね」
「ああ、夕方までに間に合わなければ野営だ」
いい景色だった。これならライル君やカリンちゃんにも見せてあげたかったわよ。一枚しか撮影できなくてもいいから、写真でも作っておけばよかったかもしれない。銀版写真なら錬金術でも化学反応でも作れるわ。また今度の課題にしましょう。
「コリアード海岸に行ったら、コリアード諸島の工芸品もみれるし楽しみだわ」
そういえばコリアード諸島は所属的にはどうなっているのかしら。そんな素朴な疑問を投げかけると、ブレイズさんはどこにも属していないという。
「島が点々としていて管理するほどの広さがないのが理由だな」
管理もしない代わりに保護もしないと。百年か二百年くらいして、海での航行が安全になったら、ブリトニア帝国とベルゲングリーン王国との間で領有権を巡った争いの元になりそうね。
でも今は問題ないでしょうから、あわよくば水上バイクでコリアード諸島に乗り付けて、直接買い付けをしに行きましょう。
そんな他愛もない話をしながらピレーネで錬金生成した紅茶を
「偏西風のお陰で速かったわね、どうやら今日のうちに街に着けそうだわ」
「ああ、港町サリールまでもう一時間以内と言ったところだな」
コンパスを片手に到着予測を立てるブレイズさん。やがて港町が前方に見え始めたので、城塞都市の門での一件を思い出した私は気球を早めに降ろし、残りは蒸気馬車で行くことにした。ふふん、私は学習する女なのよ!
蒸気馬車でゆっくりと門に近づいて行くと、おかしな事に門番はいなかった。代わりと言ってはなんだけど、立てかけられた看板に、大きな文字でこう書かれていた。
『疫病発生中、死にたくなければ引き返すべし』
その看板の向こう側、街に続く噴水の
町人:ペストに
頬に冷や汗を流した私の後ろから、生暖かい風が海に向かって通り抜けていった。
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