奇跡の心友

相知満天下 あいしるはてんがにみつるも
知心能幾人 こころをしるはよくいくにんならん

『意』知り合いはたくさんできても、心からわかり合える相手というのは
   そうたくさんいるものではない。という意の禅語。


人は分かりあえると私たちは思いがちだ。
この物語の登場人物のように、思春期であるならなおさら。
そして思いに反して裏切られ、世の中には自分とはまるで考えの違う人が大勢いると知るのもこの頃かもしれない。

心の底から分かり合える人と出会う。それはもう奇跡だろう。
他人はその出会いをすぐに恋愛や結婚に結び付ける。運命の人とは結婚して子供を産み育て、社会のシステムを回す歯車となれと。

ばぁっかじゃねーの! 私はあんたらの道具じゃねえ! 思想を押し付けんなっ!
「普通」「普通」とあんたらの言う事々に、身を縮めてはめ込まれなければならないってんの!?
それは私の幸福に繋がりますか? 誰がその基準を作ったのですか?

……とまあ、もうその手の押し付けに悩むこともない年代になってから、この物語の二人の気持ちがよく分かるわけです。ふふ(笑)

多様性だの個性重視だの耳に優しい言葉はよく聞くようになった。
ただ、内実は私が思春期だった頃となんら変わっていない。
なにかの拍子で「普通ではない」レッテルを貼られた途端に、その者は攻撃され集団から追い出され、人格を否定される。
国家体制の違う国では、それは危険思想とされる。もう未来はない。

利害関係の絡まない友人を作れるのは、学生の間だけかもしれない。
大人になると右を向いても左を見ても、利害関係にがんじがらめだ。
そして自分の「本心」など、これっぽっちも呟けない。
それが当たり前で、それで自分の身を守っているのだから仕方のない話だ。
うっかり本音などこぼして社会から干されるのはゴメンだろう。

この物語の主人公はクラスメイトの話す恋バナにうんざりしているのだが、自分が異常なのだろうかと悶々としている。
恋愛感情に欠片ほどの純粋さがあったとしても、その大半は嫉妬だろう。
昨今の離婚率や経済の低迷を考えれば、一人で生きていくだけでも困難。
夢心地で恋愛を語れるような現実は転がってやしないのだ。それはもう中世の昔からずっと。

マイノリティという言葉は嫌いだ。LGBTとラベリングする行為も嫌だ。
分別したところで人の心は常に流動し、変化していく。

ただ……。時々神様は奇跡をもたらすようだ。それを偶然と言ってもいいが。
心から分かり合える人。何でも包み隠さず話せる人。嘘をつかなくてもいい人。いわばソウルメイト。

この物語の主人公が思春期を超え、少しばかり心を守る鎧ができ、身を守るための「白い嘘」もつけるようになった頃、このソウルメイトとまた再会したいと思うだろうか。

出会いは奇跡だ。この時、この場所。無限の座標のなかから得た奇跡。
私は二人にまた出会ってほしい。
同じ苦しみを分かち合い、支えあって、親愛のハグをして。
肉欲とは別次元の愛の形があることを、心がゆっくりと混ざり合うことで証明してほしいと願っている。

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