第560話 試着室

 その後、僕は〈アコ〉に引っ張られて〈中央広場通り〉に鎮座(ちんざ)する超高級店に連れられて行った。


 この店で〈アコ〉の花嫁衣裳を作るためだ。

 まだ半年あるのに、もう注文するんだな。

 「〈ドリー〉の店で作らないの」とは、あえて聞かないようにした。


 僕は店の中にある休憩スペースで、〈クルス〉と〈サトミ〉と一緒にお茶を飲んでいる。

 いかにも高級そうなお菓子も、四人分が一緒に出されている。

 〈クルス〉と〈サトミ〉がついて来たのは、自分達の時の参考にするためらしい。

 まあ、高級そうなお菓子を食べたかった訳じゃないんだろう。


 〈アコ〉にどんな衣装が良いのかと聞かれたので、一応白が良いと答えておいた。

 結婚式と言えば白という、ありきたりな答えである。

 でも、冠婚葬祭で白は無難な色だとも思う。

 どうせ僕の意見は、ただ聞かれるだけで、採用されることはないんだろう。


 試着をしている〈アコ〉に試着室へ呼ばれたので、「おぉ、似合っているぞ。すごく綺麗だ」と言って、抱きしめてキスをしておいた。

 キスのついでに、おっぱいを一揉みするのも忘れない。

 ただ裾(すそ)をめくり上げようとしたけど、長過ぎで太ももまでしか上がらなかったのは残念である。


 花嫁衣裳を着た時に、エッチなことをしなくては、大変な失礼に当たると思う。

 人生で一番美しくなる日と言われているんだから、それに欲情しないで何時すると言うんだ。

 思い切り吸い付いて、触りまくって、愛(め)でまくる日だと思う。

 初夜まではとても待てない、早朝からやりまくるという心意気(こころいき)である。


 「きゃっ、〈タロ〉様ったら。誰も見ていないから、キスは良いですけど。胸は触るし裾をめくろうとするし、悪い〈タロ〉様はメッですわ。花嫁衣裳は、エッチなことをするための服じゃありませんよ。猛反省してください」


 〈アコ〉はその後も、色んなデザインの衣装に着替えて「迷いますわ」と溜息を吐いていた。

 迷ったら最初のヤツにしたら良いのにと思ったけど、賢くなった僕は黙っておくことにする。


 〈クルス〉と〈サトミ〉も、退屈してきたんだろう。

 まだ当分先なのに、花嫁衣裳の試着をし出した。

 沢山の花嫁衣裳が飾(かざ)られているから、自分も着たくなったんだろう。


 〈クルス〉に試着室に呼ばれたから、またキスをしておっぱいを一揉みだ。

 花嫁衣裳の裾はどうして長いのだろう、めくり上げることはやはり叶わなかった。


 「きゃー、信じられないです。キスは良いとしても、胸を触るのと裾をめくるのは、お店の中でしてはいけないのですよ。お分かりですか」


 「ははっ、〈クルス〉がとっても素敵だったから、つい手が出たんだよ」


 「ふぅー、素敵だと言われて、とても嬉しいのですが、かなり心配になりました。まさか結婚式の始まる前に、エッチなことをしませんよね」


 〈クルス〉はジト目で僕を見てくるけど、ご心配はご無用です。


 「ははっ、大丈夫、大丈夫。任せておけよ」


 〈クルス〉は「はぁ」と溜息を吐いているけど、汚さないように気をつけるから問題はないんだよ。


 今度は〈サトミ〉に呼ばれたので、試着室へまた向かう。

 不公平はいけないので、キスをしておっぱいを十揉み出来た。

 〈サトミ〉が「胸を揉みたいの」って聞いてきたから、「うん」と答えたら十揉み出来たんだ。

 揉む回数が不公平なのは、〈サトミ〉が可愛いからセーフだと思う。


 花嫁衣裳の裾も、どんどん上げて青色のショーツが見えたところで、上げるのを止めた。


 「うぅ、〈タロ〉様ひどいよ。〈サトミ〉は試着室の中で裸にされちゃうの」


 〈サトミ〉が泣きそうな声で言うから、それ以上は上げられないよな。


 「あっ、ごめんよ、〈サトミ〉。すっごく綺麗だったから止まらなかったんだ」


 「へへっ、〈タロ〉様、焦(あせ)ったでしょう。でもエッチな〈タロ〉様がいけないんだよ」


 〈サトミ〉は、ケラケラと僕を見て笑っているので一安心だ。

 〈サトミ〉の演技にまんまと騙(だま)されたけど、不思議と怒りは湧いてこない。

 十揉みして青色のショーツも見せて貰ったから、当然であるな。


 〈アコ〉がようやくデザインを決めたから、帰れることになった。

 〈アコ〉の胸の大きさは規格外だから、もちろんオーダーメイドになる。


 〈アコ〉がもう一度意見を求めてきたから、〈単純でいて豪華なもの〉が良いと適当に答えておいた。

 〈アコ〉は「フン」「フン」と頷(うなず)いて、店員に耳打ちをしていたようだ。

 僕の意見をどうやって取り入れるのだろう。

 かなり不思議だ。


 僕は下着を含めて、花嫁衣裳の中身しか興味がないので、どうでも良いけどな。


 〈中央広場通り〉からの帰りの辻馬車の中で、将来の夢の話になった。


「ふふ、夢見てた結婚式の望みは、もう直ぐ叶えられますわ」


 〈アコ〉は花嫁衣装も決まって超ご機嫌だ。


 「〈サトミ〉はなんだろう。〈タロ〉様の傍にいることかな」


 〈サトミ〉は、何て健気(けなげ)な女なんだろう。

 せめて、お菓子を一杯買ってあげよう。


 「うーん、〈サトミ〉ちゃんと同じですが、学舎で学んだことを何かに生かしたいですね」


 〈クルス〉は《赤鳩》の優等生だから、確かにもったいないな。

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