第549話 グロ耐性は皆無

 「首と足元を狙って、刺股を突き出せ」


 僕が大声で命令をすると、勢い良く数十本の刺股が突き出された。

 長柄(ながえ)の武器である刺股の、長所が発揮されて、敵の剣より早く到達することが出来ている。


 喉に刺股が滑り込んで顔をのけ反(ぞ)らしたり、足首を刈られて転倒する者もいる。

 だが、向こうも五十人以上いるんだ、刺股だけでは到底抑えられない。


 丘の下から男達が、燃える〈修道院〉に照らされて赤黒く見える顔になり、次々と登ってきた。

 こちらは暗いが、男達の方は炎で明るいため良く動きが見える点ではかなり有利だ。

 だが、自分の身を守ることを、放棄したような攻撃を繰り出してくるのがやっかいだと感じる。


 男が丘の上に近づくと〈旅団兵〉が、首を狙って刺股を「グッ」と突き入れる。

 男は盾を身体の前で構えて、刺股を「カン」と跳ね返す。

 跳ね返されたタイミングで、別の〈旅団兵〉が盾でカバーされていない足首を「サッ」と刈るように刺股で払う。

 男は「ガッ」と剣で、刺股を受け流して刈られるのを防いでいる。

 その瞬間を待っていた僕は、男の革鎧(かわよろい)の継ぎ目を狙って、横腹に「ズブッ」と剣を差し入れて捻(ひね)る。

 男は「グゴォ」と呻いて、脇腹からの出血を防ぐように手を腹に当てながら丘の下へ転がっていった。


 一面に広がった炎の中へ転がっていくんだ。


 ただ、〈旅団兵〉が疲れてくると、こうはいかないようになってきた。


 男が丘の上に近づくと〈旅団兵〉が、首を狙って刺股を「グッ」と突き入れようとするけど、男に盾で受け流されて体勢を崩してしまう。

 刺股を突くスピードが遅くなって、狙いも正中線上(せいちゅうせんじょう)ではなくブレているためだ。

 その体勢を崩した〈旅団兵〉を、男が剣で叩き切ろうと剣を振り上げる。

 別の〈旅団兵〉が刺股で、その剣を腕ごと抑えられれば良いのだが、遅れることが多くなってきた。


 そんな時は、僕か〈リク〉かが、カバーをする必要がある。

 ただ、一度にカバー出来る場面は自(おの)ずと限りがあるため、間に合わず剣で切られる者も出てきた。

 いくら鎧(よろい)と鉄兜(てつかぶと)を着用していても、それで全ての攻撃を防ぐことは出来ない。

 有難いことに、男達の態勢が悪いことから重傷者はまだ出ていない。

 ただ、この状態が続けば、いずれまともに切られてしまうだろう。


 それに男達がやっぱり異常だと思う。

 脇腹を刺されているのに、刺されたまま強引に剣を振り回してくる時がある。

 内臓を剣でかき回されて、尋常じゃない痛みがあるはずなのに、それに構わず攻撃をしかけてきやがる。

 その攻撃は死にかけているため精彩(せいさい)を欠(か)いているが、凄(すさ)まじい違和感と恐怖を覚えさせてくれる。

 男達はすごい痛みなのであろう。

 ものすごい形相になりながら、死の瞬間まで諦めなることをしない。

 とてもやっかいであり、心がギュッと縮(ちぢ)こまり凍(こご)えてしまう。


 〈海方面旅団兵〉に対する敵の圧力は、こちらが地形的に有利なはずなのだが、ますます高まっていくようだ。

 それを僕と〈リク〉が、捌(さば)かなければならないんだが、二人で相手をするには数が多過ぎる。


 だから、僕は〈スキル〉を使って敵の背後をつくことにした。

 朝がまだ明け切っていないので、何とか誤魔化せるだろう。


 男達は皆目(かいもく)、後ろを警戒していなかったんだろう、背中は全くの無防備状態だ。

 数人の背中を鎧の隙間から剣で刺すと、心臓に到達したのだろう。

 呻き声も上げずに丘の斜面を転がり落ちていった。


 僕の攻撃に気がついた男達が、無表情に後ろを振り向いて僕を見詰めてくる。

 戦闘中なのに、無表情はあり得ない。


 僕の顔は興奮と恐怖のために、ものすごく強張(こわば)っているはずだ。

 男達の無表情に背中がゾワリとなっていると、今度は〈リク〉が敵の背中を剣で刺し出したようだ。

 〈青白い肌の男達〉は、キョロキョロと前と後ろを交互に見るという最悪を選択してしまっているので、刺股で押さえつけられて僕と〈リク〉に刺されるしかない。

 男達はひどい悪循環を解消しないまま、その数を減らし続けている。


 一か八かの強硬突破をなぜしないんだろう。

 融通(ゆうづう)が、まるできかないんだな。

 こいつらは行動が硬直していて、その場その場の最適を選べない感じがする。

 有難いのは有難いけど、どうなっているんだと思ってしまう。


 とうとう、真ん中で守られていた、真っ赤な金属鎧を装備した将校だけになった。

 そいつは、十数本の刺股で地面に押さえつけられている状態だ。

 ふぅー、一時は危なかったが何とかなったな。


 「ご領主様、装備が他と違い立派なため高い地位の者だと思われます。情報を聞き出すために生かして捕えましょう」


 〈リク〉が、もっともなことを言ってくれる。

 はぁ、僕も今直ぐに言おうと思っていたんだ。


 僕は殺人狂じゃないぞ。

 知らないと思うけど、冷静沈着(れいせいちんちゃく)な男なんだよ。


 「そうだな。縄で縛(しばって)ってしまおう」


 薪を括(くく)るためのぶっといロープで、〈海方面旅団兵〉が将校らしき敵をグルグル巻きにしている。


 でもな。

 この男をこれから、尋問(じんもん)するのか。

 映画やアニメで見たのでは、拷問(ごうもん)とかをするんだろう。

 誰がそれを命じるんだ。

 僕か。

 それは御免(ごめん)したいな。


 僕には、エロ耐性はあったとしても、グロ耐性は皆無なんだよ。

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