第548話 圧倒的な戦果

  火矢は容赦なく、〈青白い肌の男達〉の天幕に火を着けるのと同時に、〈修道院〉にも火をつけ出した。

 〈修道院〉の屋根や壁に、チロチロと蠢(うごめ)く炎が見えている。


 丘の下には、炎に追われて大混乱に陥っている〈青白い肌の男達〉が、映画のワンシーンのように赤く染まって映し出されている。


 両王子軍は、火矢から普通の矢に変えたようだ。

 次々と矢が、〈青白い肌の男達〉の身体を貫(つらぬ)いているも見えた。


 両王子軍は小高い丘に陣取って、明るく照らされた敵を余裕を持って狙えるんだ。

 一方的な攻撃になるのは当然だと思う。


 僕は戦況を見て、ホッと胸を撫でおろすことが出来た。

 ここまでくれば、この〈三ま作戦〉は成功と言えるだろう。

 後は、両王子軍と〈青白い肌の男達〉の戦いの推移(すいい)を見守ろうとしよう。


 〈修道院〉は完全に燃え上がって、夜空に届くような大きな火柱を上げている。

 〈修道院〉の中で眠っていたのだろう。

 少し立派な軍服を着た〈青白い肌の男達〉の将校が、身体を炎に包まれて、〈修道院〉から大勢飛び出てきている。


 やっとこの死地から、逃げ出すことを思いついたのか。

 撤退の命令が発せられたのか。

 〈青白い肌の男達〉が、唯一開いていて薪の炎もない、西面方向へ進み出した。


 だがそこは、誰しも考える場所だ。

 両王子軍が、待っていたとばかしに矢を射(い)かけている。

 密集して進む〈青白い肌の男達〉は、格好の的にしかならない。


 おまけに、混乱したせいだろう、矢を防ぐための盾もあまり持っていない。

 次々と矢が、〈青白い肌の男達〉の身体を貫いていくのが見えた。


 矢が刺さっても、呻(うめ)き声しか出していない感じがするのは、どう考えても普通の人間ではないと思う。

 〈青白い肌の男達〉とは、一体なんだろう。


 西面方向に抜けようとした〈青白い肌の男達〉を、両王子軍の精鋭が立ちはだかって切り捨てているようだ。

 もう今は、三倍の戦力差はなくなり、むしろ逆転していると思う。

 烏合(うごう)の衆(しゅう)と化した〈青白い肌の男達〉は、組織だった防御も攻撃も出来なくなっている。


 両王子軍は連携した攻防が出来ているので、局面を切り取れば〈青白い肌の男達〉一人に、両王子軍が三人以上で当たっている状況だ。

 それに実質敗走しているんだから、陣を立て直すどころか、逃げられるかも怪しいと思う。


 思っていた以上の圧倒的な戦果に、唖然(あぜん)としていると、敵に新たな動きが出てきた。

 西面方向へ進むのは困難だと察知したのか、北と南の丘の斜面を登り始めたんだ。

 困ったことに東の斜面も登って来やがった。


 ただ、数は少ないようだ。

 どういった理由かは不明だが、北の斜面を登っていく人数が圧倒的に多い。


 〈海方面旅団兵〉達は、対人戦はこれが初体験だ。

 腰が引けた状態で、刺股を〈青白い肌の男達〉に突き出している。

 今は暗くて見えないが、もし見えたなら真っ青な顔をしていると思う。


 「おりゃ、ここが踏ん張りどころだ。〈海方面旅団〉の勇姿を見せてやれ」


 〈副旅団長〉が威勢の良いことを吠(ほ)えているが、その声は少し震えていた。


 ただ、〈海方面旅団〉は丘の上という有利な条件下にあるので、何とか刺股で敵を押し返している。

 だけどこのままでは、丘の上まで登り切られてしまうだろう。

 向こうはこのままでは、殺されてしまうんだ。

 文字通りに必死なんだよ。


 そこで、こんなことはしたくはないのだが、刺股で押されている〈青白い肌の男達〉を横から剣で刺すことにした。

 脇腹を刺すのが一番効率的なようだ。

 あぁ、〈旅団長〉が自ら止(とど)めを刺すなんて、一体どんな〈旅団〉なんだろう。

 激しくおかしいと思うな。


 〈リク〉は、僕が参戦する前から縦横無尽(じゅうおうむじん)に、止めを刺して回っている。

 頼りにはなるが、さすがに一人だけでは全てをカバー出来ないので、渋々僕も参戦したんだ。


 人を刺す感触は、やっぱり良いものではない。

 皮膚を突き刺す嫌な感じと、筋肉組織を切断して脂肪が纏(まと)わりついてくる怖気(おぞけ)るような感覚は、何度経験しても慣れることがない。


 〈青白い肌の男達〉は、剣で刺しても低く呻(うめ)くだけなので、それも気分を滅入(めい)らせてしまう。

 悲痛(ひつう)な声で命乞(いのちご)いをされるよりは、遥(はるか)かにマシではあるが。


 何とか、数十本の刺股と〈リク〉と僕とで戦線を支えていたら、丘の中腹に敵の大きな集団が現れた。

 五十人以上はいると思う。


 真中には一際豪華で真っ赤な金属鎧を装備した将校が見える。

 コイツはひょっとしたら、この敵軍の大将かも知れないぞ。


 「間近に迫っている、あの集団をやるぞ。他の敵は無視しろ」


 大将らしき敵に集中するため、他は逃げられても良いと命令を下した。


 「はぁ、はぁ、分かりました」


 〈副旅団長〉は、精神的にも肉体的にも疲れているんだろう。

 でもまだ、働いて貰わなければ困る。

 ここで踏ん張れば、奥さんのお尻を掴んでいる時も、腰に踏ん張りがきくはずだ。

 ファイト。


 「有象無象(うぞうむぞう)の首より、あの大将の首は何百倍も価値があります」


 〈リク〉は獰猛そうに「ニヤッ」と笑って、剣についた血を「ピシッ」と払っている。

 味方なのに、身体がごついから迫力があって怖いと、一瞬思ったじゃないか。

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