第545話 〈スアノニ女子修道院〉

 「ふと思ったんだ。〈青白い肌の男達〉の狙いが女性だったら、〈女子修道院〉には大勢いるんじゃないかな」


 「それはそうですね。女子って名前が付いていますからね」


 〈海方面旅団〉は、船を川岸に引き上げて〈スアノニ女子修道院〉を目指した。

 薪の補給が遅れ、冬休みは潰れてしまうが、万が一の可能性があるのなら構わないと思う。


 辿(たど)り着いた〈スアノニ女子修道院〉を一言でいえば、すごくぼろかった。

 建物はとても大きいのだか、とにかく古くて今にも崩れそうに見える。

 屋根はパッチワークのように修理してあるし、壁も継(つ)ぎ接(は)ぎだらけだ。

 よくこんな建物に住んでいるなと、言う感想を持つよ。


 兵士が玄関の扉をノックすると、ふくよかな体格の修道女が出てきた。


 「兵隊さん、この〈修道院〉に何か御用事があるのですか」


 「初めまして、私は〈海方面旅団長〉の《ラング伯爵》です。今、〈青白い肌の男達〉の掃討作戦に従事しています。この〈修道院〉に警告を発しにやってきました」


 「《ラング伯爵》様、お目にかかれて光栄です。私はここの責任者で院長の〈オーパタ〉と申します。〈青白い肌の男達〉というのは、この近辺で女性を攫(さら)ったという犯罪者達ですね。ここが狙われているのですか」


 「えぇ、確証はありませんが。ここには女性が大勢いるのでしょう」


 「そうです。以前と比べれば大変少ないのですが、まだ三十人はおります。私どもも女性が狙われていると聞いて、実は心配していたのです」


 「そうですか。今、偵察を出していますので、その結果でここを離れた方が良いかも知れません」


 「はい。分かりました。直ぐに逃げられる準備をいたします」


 院長の〈オーパタ〉さんは、「早く」「急いで」と言いながら、〈修道院〉の中へ入っていった。

 どうも院長さんも、ここが危ないと感じていたらしい。

 そこへ僕達がこうして警告に来たので、逃げる踏(ふ)ん切りがついたのだろう。


 千人もの軍隊を展開している地域にあるのに、誰も危険性を伝えてなかったのか。

 ぼろい建物といい、この〈修道院〉が置かれている立場はかなり厳しそうだ。


 それにしても、院長の〈オーパタ〉さんは一言でいうと巨乳だ。

 お尻も〈副旅団長〉の奥さんとタメを張れる巨尻だ。

 厚い生地のローブ越しに分かるのだから、相当なものをお持ちになっている。


 そうだったら、どうなんだと言われたら、そうなんだからしょうがないと答えよう。

 最初におっぱいとお尻に目がいって、何だか評価してしまうんだ。

 あまり意味はなく、ほぼ無意識の行動なんだよ。


 「はっはっ、〈旅団長〉様、大変です」


 偵察に向かっていた兵士が、荒い息を吐きながら慌てて報告をしてきた。


 「落ち着けよ。何が大変なんだ」


 「はっ、〈青白い肌の男達〉が、こちらに向かってきています」


 「えぇー、嘘だ」


 思わず本音を言っちゃったよ。

 危険性を頭では分かっていたけど、本当にここが狙われているとは正直思っていなかったんだ。


 「えっ、嘘じゃありません。もう直ぐこちらに来ます。それも大軍です」


 「距離と数は分かるか」


 「すみません。それほど近づけなかったのと、慌ててしまって正確なことは不明です」


 この兵士を責められないな。

 この兵士も僕と一緒で、まさかと思っていたんだろう。


 「そうか、分かった。時間がなくて大規模な軍隊だと思って対応しよう」


 「兵士の半数は二手に分かれて、〈青白い肌の男達〉の偵察を続けろ。無理に近づくなよ。それと敵の偵察部隊と遭遇した場合を考えて、必ず塊(かたまり)で行動しろよ」


 えー、まただ。

 〈副旅団長〉に先を越されたぞ。

 カッコよく僕が言いたかったのに。

 的確な指示を出しやがって、かなり腹が立つな。


 「もう半分の兵士は、〈修道院〉の女性達を川岸に誘導するぞ。まだ敵は来ていないので焦る必要はない。ゆっくりと丁寧にするんだぞ」


 ぎゃー、またまただ。

 〈副旅団長〉にカッコいい台詞を盗られたぞ。

 ただ突っ立ってるだけの僕は、無能な〈旅団長〉様だよ。


 〈副旅団長〉はテキパキと指示を飛ばして、逃げる準備を整えた〈修道女〉達を川岸に誘導している。


 「《ラング伯爵》様、ありがとうございます。お陰様で命拾いが出来ました。それにしても、さすがは英雄と呼ばれるだけあって、とても有能な配下をお持ちなのですね」


 けっ、褒めているのは〈副旅団長〉のことじゃないか。


 僕はボーっと立って、巨乳の院長とおしゃべりをしているだけの男だ。

 揉めない巨乳は、何の意味もないんだよ。

 揉めるか揉めないかで、おっぱいの価値は大きく変わってくるんだ。

 貧乳でも揉めるのなら、揉めない巨乳より遥(はる)かに尊(とうと)いものだと思う。


 言っておくが、〈クルス〉は決して貧乳ではない。

 丁度良い大きさだと強く主張させていただきたい。

 何回も揉んだ僕が言うんだ、間違いないと思って欲しい。


 「はっはは、英雄と呼ばれているのは部下が優秀なだけなんです」


 「ふふっ、謙虚(けんきょ)なお方なのですね」


 この院長は四十歳くらいに見えるけど、こんな場面で笑えるなんてかなりの度胸の持ち主だな。

 責任ある院長を、任されているだけのことはあるな。

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