第544話 どでかいお尻派とムッチリお尻派

 〈青白い肌の男達〉はそっちの方面にいるのか。

 たぶん、どっちでもないんだろう。


 〈青白い肌の男達〉の足取りが、まるで掴めていない感じだ。

 両王子の軍が疲弊(ひへい)しているのは、〈青白い肌の男達〉を求めて闇雲(やみくも)に行き当たりばったりと進軍したせいに違いない。


 手柄を立て後継者争いを有利に進めることだけを考えて、焦り過ぎだと思う。

 もっと基本に立ち返り、偵察を重視するのと連携を少しだけでもとれよと思う。


 これはあれだな。〈王都旅団長〉の〈セミセ〉公爵と〈王国軍司令官〉の〈バクィラナ〉公爵のおっさん二人が、上手いことだまくらかして従軍を逃れた弊害(へいがい)だろう。

 僕は宮廷工作まで思いつかなかったから、貧乏くじを引いたんだと思う。

 まあ、〈王都旅団長〉と〈王国軍司令官〉が、どちらか一方の王子につけないのは分からなくもない。

 最終的に後継者争いの決め手が、最大の暴力組織である軍となることは良くあることだからな。


 千人の夕食も何とか終わって、両王子の軍はそれぞれの天幕で早々と就寝するらしい。

 疲れているのと、早朝にまた行軍を開始するためだ。

 まあ、勝手にすれば良いと思う。

 僕が口出しをする問題ではない。

 聞く耳も持たないと思う。


 ただ、休む間もなく連れ回される兵士は、とても気の毒だ。

 敵と戦う前に、かなり疲れている様子に見える。


 それと軍が出発する前に両軍から、朝晩が寒くなってきたので薪を補給したいと言われてしまった。

 はぁー、やっと終わったと思った時に、追加の任務をサラッと言うなよ。

 あぁ、もっと効果的に偵察隊を放って、〈青白い肌の男達〉を早く見つけられないのか。

 頭が悪いんじゃないのか。


 あっと、危ない。

 もうちょっとで、口に出して言ってしまいそうだった。

 両軍の親玉は王子だから、怒らせては何かとマズいことになる。

 ここはグッと堪えて何も言わずに、王子軍に頭を下げて見送っておこう。


 「〈副旅団長〉、薪が欲しいってさ」


 「はぁ、了解です。〈トリクト〉の町まで下がって集めてきましょう」


 あぁー、こんなことをしていたら、長期の滞在になってしまうぞ。

 冬休みは風前の灯だな。


 五日かけて大量の薪を集めることが出来た。

 後はこれをどう運搬するかだ。

 とてもじゃないが、〈海方面旅団〉では運べないぞ。


 〈海方面旅団〉は船を持っているが、荷車や馬車は所持していないからな。

 〈海方面〉なんだから当然だろう。


 しょうがないので、〈ビゴ〉と〈ラガ〉の町へ伝令を向かわせることにした。

 こんなことでは、時間がただ過ぎていくぞ。

 返事は、出来るだけ川を遡ってくれってことだった。


 ただ川の上流は、ここから真西に向いているから、〈ビゴ〉と〈ラガ〉の町からだと川岸まではかなりの距離がある。

 だけど、西の方へ進むので今いる拠点と比べると、距離が半分程度になるから言っていることは分からなくもない。


 〈海方面旅団〉は、小舟に薪を満載して川を遡っていくことになった。

 道中は、偵察を頻繁に行(おこな)うことにしよう。

 王子軍を散々バカにしたから、僕の中では偵察を重要視せざるを得ないんだ。

 そうじゃないと、僕は陰口を言うだけの人間になってしまう。


 敵が水を求めて、川に近づくのはない話ではないと思う。

 戦場なんだから、危険はどこにでも転がっているってことだ。

 手柄を立てたい訳じゃないので、用心に用心を重ねようと言うことでもある。


 〈副旅団長〉は、しつこい位の偵察を指示しても、全く嫌な顔をしないでいる。

 何としてでも生きて帰って、あのどでかいお尻に挑みたいのだろう。

 僕も許嫁達に修道女のコスプレをさせて、ムッチリお尻を見てみたいという夢がある。


 〈海方面旅団兵〉達も、きっと同じ考えだと思う。

 どでかいお尻派とムッチリお尻派が、三対七とみた。

 まあ、どちらにしても素晴らしいものだから、どっちでも良いと思う。

 〈海方面旅団〉は、上から下まで意識の統一が図れている素晴らしい旅団だよ。


 「もし〈青白い肌の男達〉を見つけたらどうする」


 「ははっ、それは逃げますよ。逃げる方向は川下ですから、高速で逃げられますね」


 「はっはっ、薪も放り出したらすごく早いだろうな」


 「えぇ、薪で敵の進路妨害も出来るかも知れませんね」


 「はっはっ、それは素晴らしい発想だな。んん、〈副旅団長〉見てみろよ。こんな所に大きな建物があるんだな」


 「おぉ、かなり大きいですね。王国の施設か何かですかね」


 「誰か。この地方の出身者はいないか」


 「はい。私は〈トリクト〉の出身です。あれは〈聖母子教会〉の〈スアノニ女子修道院〉です」


 うーん、〈女子修道院〉なんてあるんだ。

 〈トリクト〉の町で見かけた女性達はここの人達だったんだな。


 「あっ、銀縞(ぎんしま)の猫が川の土手から、こっちを見ていますよ」


 兵士の一人が指を指した方に、確かに猫がいてこっちを胡乱(うろん)そうに見ている。

 どこかで見た様な猫だな。


 うーん、猫と女か。

 また、何か起こりそうな予感がしてくるな。


 「命令だ。今直ぐ船を川岸に寄せて、〈女子修道院〉の様子を見にいこう」


 「〈旅団長〉様、急にどうされました」 

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