第477話 ごめんよ、蛸さん

 僕は蛸を腕ごと、岩に打ち付けて、蛸をどうにか外した。

 腕が、かなり痛いぞ。


 その後、石で胴を潰して、息の根を止めてやった。

 少し内臓が飛び出たから、許嫁達は一目散に離れていってしまう。

 海に捨てることも、頭を過(よぎ)ったよ。


 それから、塩揉みだ。

 ヌメヌメを取らなくてはならない。

 おっぱいやお尻が揉みたいのに、どうして蛸を揉んでいるんだろう。

 展開の不条理さに、嘆(なげ)くことしか出来ない。


 おっぱいやお尻は、遠くへ逃げてしまっている。

 もう手は届かない。


 続いて、蛸を叩きのめす工程だ。

 内臓がはみ出した胴は、グロ過ぎるので切り離して、今は海の中だ。


 大根みたいな野菜で、蛸の足を叩きまくる。

 フラストレーションを、蛸にぶつけてしまったよ。

 ごめんよ、蛸さん。君を柔らかく食べたいんだ。


 人間の勝手な言い分だと思うけど、乱暴することを許して欲しい。

 しつこい性格で嫌なヤツだとは、もう言いません。

 人懐っこくて、甘えたがりやさんだったと、後世に伝えると約束します。


 鍋にお湯を沸かして、蛸を入れれば、茹蛸(ゆでだこ)の出来上がりだ。

 落とし切れなかった塩で、味もちゃんとついているぞ。


 「〈タロ〉様、真っ赤になったね。ちょっとマシになった感じだよ。これなら、〈サトミ〉も食べられそう」


 「〈タロ〉様、料理の方法を、良く知っていましたね。普通に食べられそうです」


 暇つぶしにベッドの上で見てた、釣りサイトのお陰だな。


 「はぁ、私は遠慮したいと思いますわ。丸いつぶつぶが、どうもその」


 〈アコ〉は、初めて見るものが苦手なんだな。

 僕のナマコみたいのは、もう慣れたのだろうか。

 今度、聞いてみよう。


 「もう直ぐお昼だ。蛸の調理は出来たから、他の料理も作ろうよ」


 〈クルス〉は、持ってきた野菜で、スープを作り出した。

 もちろん、ハマグリ大の貝を投入している。

 〈アコ〉と〈サトミ〉は、ホタテのような貝を焼く準備だ。

 おこした火の上に、網を置くだけなので、飲み物も用意している。


 僕は茹蛸を、食べやすいように切り分けた。

 これだけあれば、昼食としては、十分だろう。


 「〈クルス〉の料理は、いつも美味しいな」


 〈クルス〉の作ったスープは、相変わらず美味しい。貝からも、旨味が滲み出していると思う。


 「うふふ、それは良かったです。お代わりも、ありますよ」


 ホタテのような貝はどうだろう。

 見た目が同じだけあって、ホタテと同じように、美味いぞ。

 醬油か、バターがあればな。醤油は無理だけど、次があったら、バターは持ってこよう。


 「〈アコ〉、〈サトミ〉、この大きな貝は、実も汁も最高だな」


 「ふふふ、そうでしょう。プリプリしているから、歯ごたえも良いのよ」


 〈アコ〉、君のお尻の方も、プリプリだと思うな。

 たぶん、噛んだら良い感触なんだろう。


 「へへっ、〈タロ〉様、貝殻に溜まったお汁も、美味しいよ」


 〈サトミ〉、僕の溜まったお汁も、ぜひ頂いて欲しいな。寝る前にどうだろう。


 「僕の調理した蛸も、ぜひ食べてくれよ」


 手を出さなかったら、強制的に口へ、ねじ込んでやる。


 「うん。〈タロ〉様、頂くね」


 「どうだ、〈サトミ〉」


 「おっ、蛸って美味しいんだ」


 やっぱり〈サトミ〉は、素直で良い子だ。

 言うことを聞いてくれるし、言うことにも嘘がない。


 「思っていたより、柔らかいですね。良い味だと思います」


 〈クルス〉は、恐る恐るって感じで、食べている。

 ただ、感想は悪くない。


 「私も食べなくては、いけませんか」


 〈アコ〉は、まだ抵抗している。二人は食べたんだから、もう諦めろよ。


 「食べず嫌いは良くないぞ。一回食べてみろよ」


 〈アコ〉は、「はぁ」って溜息を吐いて、小さな一切れを口に入れた。


 「〈アコ〉、美味しいだろう」


 「はぁ、そうですね」


 あまり噛まないで、飲み込んだ様なので、味は分からないのだろう。

 極めて適当な、返事だ。


 まあ、良い。蛸は、突発的なイベントだからな。

 次のイベントが大切だ。


 夏の定番、海水浴である。

 ピチピチの肢体を、目に焼き付けるために、あると思う。

 避けて通れない、ものなんだ。

 

 ただ、泳ぐと言っても、この世界にはそんな習慣はないし、水着も存在しない。

 だから、徐々に攻めることにした。


 まずは、服を濡らしてしまおう。


 「昼からは、砂遊びをしないか」


 「〈タロ〉様、砂遊びって、どんなこと」


 「砂でお城作るんだよ。ただし、濡れてないと砂が固まらないから、波打ち際(ぎわ)で造るんだ」


 波打ち際での、砂のお城の建設が始まった。


 僕は濡れても良いように、既にパンツ一丁だ。

 許嫁達は、少し呆れている感じだが、何も言ってこなかった。


 夏のギラリとした太陽の、なせる業(わざ)だな。

 底抜けに眩(まぶ)しくて、開放感が半端(はんぱ)ないせいだと思う。


 それとも、砂のお城にかける、僕の熱い思いが伝わったのか。

 そんなものはないので、許嫁達も本心は、熱くて脱ぎたかったのかも知れないな。


 〈根ほり〉を、ザックと砂に差し込んで、大きな砂の塊へ積み上げていこう。


 ただ、波は悪戯好きだよ。

 僕のパンツは、肛門の周辺が、もう濡れてしまった。

 想定内ではあるが、少し気持ちが悪い。

 パンツを脱がず、温水洗浄便座を使ってしまった感がある。

 それに、砂の塊を少しずつ崩してしまう。

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