第475話 脳細胞がどピンク

 おぉ、以心伝心(いしんでんしん)だな。

 違う。


 以心伝心なら、ブラウスのボタンを一つか二つ外して、タイトスカートに包まれた、お尻をウフンと突き出すはずだ。


 これは、以心伝心ではなくて、疑心暗鬼(ぎしんあんき)じゃないか。

 僕が、乱暴なことをすると、疑ったのだろう。


 うーん、合っているな。どうして悪い考えだけ、伝わるのだろう。

 僕はド助平で、おっぱいとお尻りにしか興味がない。

 脳細胞がどピンクで、年中発情している獣のようだと、思われているんだろうか。


 ふーん、概ね合っているような、気がしないでもないこともあるかも知れないな。


 ひょっとしたら、軽蔑されているのだろうか。

 もしかしたら、愛想(あいそ)を尽かされているのか。

 僕は急に心配になって、また新たなメモを三人渡した。


 その内容と返答は、次のとおりです。


 【今夜、部屋に忍んで行くから。その服を着て待っていて】


 【〈アコ〉:忍んでこられても、扉も窓も開けません。色んな意味で危ないので、諦(あきら)めてください。】


 【〈クルス〉:踏み台の樽は、撤去されました。妹が気づいているみたいなので、ご要望には、応えたくありません。】


 【〈サトミ〉:新しい家の場所を知っているの。〈サトミ〉の部屋は、もっと知らないよね。】


 あぁ、そんな。慈悲(じひ)もへったくれもない、情け容赦ないメモだ。


 心が閉ざされるような深い絶望が、僕を暴風雨のように襲うよ。

 心は、ぐちゃぐちゃで、じょぼじょぼだ。

 僕はこれから、何を心の糧(かて)にして、生きていったら良いんだろう。

 誰か教えてください。


 「夏休みは、まだ終わってはいませんわ。早く執務を片づけて、遊びに行きましょうよ」


 「〈サトミ〉も、〈タロ〉様と遊びたいんだ。苦しいことの後には、楽しいことが待っているんだよ」


 「何を置いても、書類を処理することが先決です。終われば、解放されて幸せになります」


 おぉー、本当だな、無茶苦茶、遊んでやるぞ。

 激し過ぎるって、泣いても許さないからな。


 僕は、その後、猛然に執務をこなした。

 その姿を見て、許嫁達は、嬉しそうに微笑んでいるように見える。

 許嫁達は、まだ僕を見捨てては、いない可能性もあるんだ。


 残り少ない夏休みを、どうか有意義に過ごしたいと、切(せつ)に思っています。



 うーん、うーん、うーん、どうするべきか。

 執務が九割方片付いたから、遊びに行けることになった。


 問題は、どこへ行くのか。海か山か、当然海だな。

 山の方には、何もない。


 海に行くとして、何をするべきか。

 海水浴、キャンプ、バーベキュー、花火、肝試し、クルーズ、スイカ割、蛍狩りに魚釣り。


 思いつくまま、列挙(れっきょ)したが。

 このうち、どれが可能なのか、よ~く、吟味(ぎんみ)してみる必要があるな。



 やってきました、ここは海。

 入り江の横にある、砂浜である。


 小さな砂浜だけど、四人なら十分な広さだと思う。

 この世界では、わざわざ海で泳ぐ人なんかいないので、貸し切り状態だ。

 漁師や魚を加工する人が、大幅に増えた、入り江の周辺とは対照的だと感じる。


 ひとっこ一人いないので、淋しいこと、この上ない。

 誰もいない海だ。

 夏なのに、少し寒々しい感じもする。

 僕のプロデュース力で、盛り上げられるか、一抹(いちまつ)の不安が過(よぎ)るな。


 「〈タロ〉様、今夜は天幕で泊まるの。〈サトミ〉は、初体験だから楽しみなんだ」


 ほぉほぉほ、初体験か。初めてを、忘れがたい思い出にしてやろう。


 「〈サトミ〉、普段と違って面白いぞ。楽しもうな」


 「天幕は、自然が直に感じられる気がして、良い物ですね」


 へへへっ、〈クルス〉は、感じるのか。もっと直接、感じさせてあげよう。


 「〈クルス〉、食事は現地調達だから、新鮮だぞ」


 「私は、少し心配ですわ。気持ち良く眠れるかしら」


 〈アコ〉は、気持ち良くなれるか、心配なんだ。

 大丈夫、僕に任せたまえ、最高に気持ち良くしてあげるよ。


 天幕を張って、折り畳みの椅子とテーブルをセットしたら、楽しいキャンプの始まりだ。


 まず始めが、大切だと思う。

 テンションを上げるために、本能的な喜びを、刺激したいと考えた。

 本能には、抗(あらが)えないし、深い喜びが隠されているに決まっている。

 僕も本能には、いつも悩ませているから良く分かるんだ。


 そう言うことで、食材になる貝を採取することにした。


 潮干狩り的な遊びもないし、こんな小さな砂浜だから、漁もしていない。

 ここなら貝が、わんさか取れると踏(ふ)んだんだ。

 踏んづけるほど、貝があるって言うことだ。


 潮干狩りの道具はないから、小型スコップの〈根ほり〉を、許嫁達に渡して掘らすことにした。


 許嫁達は、ノースリーブで少し丈が短い、木綿のワンピースを着ている。

 〈アコ〉が薄い赤色で、〈クルス〉が青色、〈サトミ〉は、濃い黄色だ。

 三人とも良く似合っている。夏の少女そのものだと思う。


 そうじゃないな。もう素敵な女性だ。


 女性らしく、薄っすらと脂肪がついた腕と脚を、大胆に露出させているじゃないか。

 もう、ただ細いだけじゃない。

 適度な柔らかさと、しなやかさを、併せ持っていると思う。


 それは、腕と脚の根元にある、隠されている部分の、みずみずしさを保証しているものだ。

 貝と一緒で、身とおつゆが素晴らしいだろう。

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