第442話 変な一体感

 「ふぅ、私も跳べば良いのですね」


 〈クルス〉も、渋々(しぶしぶ)って感じで、跳びだした。

 でも、瞳の奥では、笑っている感じだ。


 「はぁ、どうして跳んでいるのですか。仕方がないですね。私も跳びますわ」


 〈アコ〉も、困ったような顔をして跳び始めた。

 おっぱいが、ボヨンボヨンと跳ねるので、気になるんだろう。

 確かに困る要因だ。僕も少し困っている。


 僕達は、丸く手を取り合って、一緒に跳び跳ねた。

 変な一体感が生まれて、不思議な嬉しさが、込(こ)み上げてくる。


 「おぉ、皆さんで跳んでいるのですか。続ければ、良い練習になりますよ」


 「楽しく鍛える方法を、試しているのですか。中々、考えていますね」


 〈リク〉と〈サヤ〉は、何を言っているんだ。呆れるしか、もう出来ないぞ。


 「若領主は、真ん中に入れよ。平等がでいじだぞ」


 そうか。船長の言う通りだ。初めて良いことを言ったな。


 僕は輪の真ん中に入って、その周りを三人が跳ぶようにした。

 三人は僕に抱き着くように、跳んでいるから、三人のおっぱいが当たってしまう。

 皆、違って、皆、良いぞ。もっと、僕にグイグイ押し付けろ。


 僕は、今、中心だ。でも、赤ちゃんが生まれたら、中心ではいられないと思う。

 輪の外へ出されるのだろう。

 そうなったとしても、直ぐ横で、三人を支えると誓おう。


 でも、その時が来るまで、僕を真中に置いて欲しい。

 栄光の時代があれば、その思い出を懐かしみながら、後の人生も耐えられると思う。

 遥かに過ぎ去った記憶は、いつの日でも輝いているはずだ。


 僕達は、輪になって、飛び跳ねている。


 許嫁達の汗と、僕の汗が、混じり合って滴(したた)り落ちる。

 匂いも、吐息も、混じり合って、僕達は今、一体になっているのか。


 それは幻想であって、希望であって、不可能なものだ。

 今僕達が跳んでいるのと、一緒だ。

 ひっついたと思ったら、直ぐに離れてしまう。

 離れないように、抱きしめるのは、一人しか出来ない。三人は無理だ。


 うーん、一人だったら、本当に出来るのか。検証が必要だな。

 結合させたまま、跳んだら、一体が保てるのか。近い将来に試してみよう。

 ポッキンと折れたりしないように、細心の注意が求められるな。


 「はぁ、はぁ。〈タロ〉様、もうダメです。これ以上、跳べませんわ」


 〈アコ〉のボヨヨンが終わった。


 「ふぅー、疲れました。汗がすごいです」


 〈クルス〉のホヨヨンも終わった。


 「あはぁ、楽しかったね。また跳ぼうね」


 〈サトミ〉のポヨヨンまで、終わってしまった。


 「はぁ、はぁ、そうだな。また一緒に跳ぼうな」


 甲板に大の字に倒れていると、三人が折り重なるように、僕の腹の上へ乗ってきた。

 僕を敷物の代わりにするようだ。

 クスクスと笑いながら、僕をお尻にひいて、ご満悦(まんえつ)だ。

 あぁ、先が思いやられるな。もう遅いか。


 でも、三人が嬉しいのなら、僕も嬉しいに決まっている。


 今日のシャワーは、なくて良かった。

 《ラング領》の館で、お風呂に入ることになる。

 もし仮にシャワーだったら、かなり念入りに洗われて、爆発していたことだろう。

 確信出来る現象だ。



 入り江に近づくと、出迎えの人々が、手を振ってくれている。

 ふっふっ、故郷に帰って来たって感じだ。笑いが、込み上げてくるぞ。


 許嫁達も、必死に手を振って応えている。嬉しいのだろう。笑顔が、弾けているようだ。


 「ありがとうございます。妹が、あんなに笑うようになったのは、〈タロ〉様のお陰です」


 「〈サヤ〉、僕が〈サトミ〉にしたことは、ほんの些細(ささい)なことだよ。それと前までは、あまり笑ってはいなかったのか」


 うーん、〈サトミ〉は、素直に良く笑うと思うけどな。

 でも、昔は暗い子だったのだろうか。

 子供の頃からの許嫁だけど、昔のことは覚えていないや。


 「そうですね。妹はスキルのせいもあり、人の感情に敏感過ぎるのです。いつもオドオドしてた気がします」


 オドオドね。

 〈サヤ〉と兵長と〈ハヅ〉に鍛錬されたら、どんな子供でも、するんじゃないのかな。


 「〈サトミ〉は、人の感情に敏感過ぎるの」


 「そうです。だから心配で、町の子供達に、良く言い聞かせていました」


 「へっ、何を言い聞かせたの」


 「それは、妹を虐(いじ)めないようにです。しっかりと言い聞かせたので、虐めはされませんでしたよ」


 ひゃー、コイツの言い聞かせは、ひょっとしたら、拳(こぶし)で言い聞かせたんじゃないのか。 

 拳は言い過ぎでも、たぶん、かなりの恐怖を与えたのに違いない。

 〈サヤ〉に、そのつもりは、なかったとしても、そうなった気しかしない。


 「虐めがなかったのは、本当に良かった。でも友達は、いなかったらしいな」


 「そうなのですよ。妹が近づくと、子供達が逃げてしまうのです。訳が分かりません」


 はぁー、逃げて行くのは、あんたが怖いんだろう。

 妹にもし何かあったら、〈藍色の女豹〉が容赦しないんだ。それは逃げるよ。


 〈サトミ〉は良い娘なのに、友達がいないのは、変だと思っていたんだ。

 これが大きな原因だろう。

 あまりにも可哀そうな、〈サトミ〉。泣くんじゃないよ。


 姉、本人に一切の悪気がないのが、怖過ぎて、不幸過ぎるぞ。

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