第57話 攻略難易度
ぎこちない雰囲気になったところで、俺は話題を変えようと試みる。
「で、本題ですけど部活の方はどうしましょうか」
「その話だったね」
苦笑する凛子先輩。
しかしあまり笑える状況ではない。
「姫希みたいに僕も別の場所で個別指導?」
「と、俺も思ったんですけど、姫希の方も継続していかなきゃいけないので、二人同時に外で個別指導はなかなかスケジュール的な問題が」
「うーん。具体的に僕はどこがダメかな?」
首を傾げて笑いかけてくる先輩を俺は真っ直ぐ見据えた。
「スキル面で言うと全部です」
「……ばっさりだね」
「シュート、パス、ドリブルの全てが壊滅的で逆に清々しいレベルです」
「もっと酷くなった」
「でも身体能力はずば抜けてると思います」
「飴と鞭の緩急が凄い」
全て事実を言ったまでだ。
若干厳しい言い方にはなったが、次の試合まで残り一ヶ月という事を考えると悠長な事を言っている暇はない。
あきらや姫希には下手なりにスキル面での長所がある。
だからどうにか試合で活かす方法は考えやすいし、伸ばす方向性もある程度定まっている。
だがしかし、ここまで全ての技術が足りないと八方塞がりだ。
ただ、一つ光明があるとすれば。
「俺、凛子先輩はやればできると思うんです」
「どういう意味?」
「身体能力が高いという事は、応用さえできるようになれば技術なんてすぐに身に付きます。それに凛子先輩は学年トップの秀才なんでしょ? この整頓された部屋を見てもわかりますが、真面目にやれば絶対出来るはずなんです」
この前一緒にご飯を食べた帰りに聞いた成績の話。
どうも聞く限り、本人は然程勉強してその位置を保持しているわけではなさそうだった。
それすなわち、要領がいいと言う証明。
きちんとした教科書&授業があれば化ける可能性があるという事だ。
あくまで可能性があるだけだが。
「でもさ、知っての通り僕はシュートが苦手なんだ」
「そうですね」
凛子先輩の身長はうちの部内では高い方。
すずが今後も参加してくれるなら二番目の高さだ。
外から打つ、というよりはゴール下のシュートを確実に決められるようになってもらいたい。
やはりまずはレイアップの練習が最優先だろう。
となると、練習場所は体育館が良いな。
姫希と利用している公園だが、あそこのゴールはシュート練習には適していない。
「よし、これからは練習前アップのフリーシューティングの時間にレイアップのメニューを組もう」
「えっと……一応聞いておくけど、僕だけ?」
「あ、周りの目が気になりますか? だったら他のメニューを考えますけど」
姫希と違って大してプライドが高くなさそうなので気にしなかったが、やはり人に見られながら個別練習をするのは恥ずかしいか。
そんな事を考えていると、凛子先輩は苦笑いを見せる。
「そうじゃなくて、レイアップならみんなでやった方が良くない? 唯葉以外はみんな下手だし」
なるほど、そっちか。
しかしながら安心して欲しい。
これはただのレイアップ練習ではない。
「いえいえ、今言ったレイアップの練習というのはノーマーク時の話ではありません。俺が邪魔するので、そのプレッシャーに負けずにシュートを決める練習です」
「ディフェンスしてくるってこと?」
「そうです」
全国を目指すなら俺ほどとは言わなくても、いずれ背の高い選手とマッチアップすることになるだろう。
その際にシュートが入らなければ意味がない。
「で、でもノーマークで入らなかったら元も子もなくない?」
「何言ってるんですか。ノーマークで外さないのは当たり前でしょう?」
「え、えぇぇ?」
「より一層気合を入れて練習してください。出来る限りサポートするので」
もはやこればかりはお願いするしかない。
シュートの成功率なんて練習量がモノを言うため、頑張ってもらうしかないのだ。
と、そんなこんなの会話をしているうちに時刻は午後九時を回っていた。
「遅くなったね」
「すみませんお邪魔してしまって」
「いいんだよ。わざわざ僕の事一緒に考えてくれてありがと」
「コーチですので」
俺の言葉に凛子先輩はニヤッと笑いかけてくる。
「コーチねぇ……。姫希の次は僕、どんどん女の子を攻略していくね」
「言い方最悪ですね。恋愛ゲームじゃないんですから」
「どうだか。最近姫希と良い感じじゃん? 僕と個別練習始めたら嫉妬されちゃうかも」
「ないですよ」
あきらも凛子先輩も、やけに姫希とどうこう言ってくるよな。
あるわけがない。
そもそもあいつの俺への好感度ってかなり低いだろ。
事あるごとに文句言ってくるし。
確かに最近アップデートして、第一印象からは上方修正を行ってくれたようだが、好感度-100から30になった程度だろう。
あいつはやけに俺を避けているのだ。
余程初日に着替えを覗いたのが響いているのか何なのか。
それにここ数日はちょっと絡み辛いし。
あいつの機嫌はよくわからない。
「ふふ。僕は攻略難易度高いよ?」
「競争率が高そうですもんね」
余裕のある表情で頬杖をついている先輩はめちゃくちゃ可愛い。
可愛いだけでなく、凛とした華やかさもある。
イケメンなのだ。
「あー、今日の晩御飯はコンビニだな。冷やし中華でも買おうっと」
「冷やし中華好きなんすか? 俺もです」
「いいよねー。昔からよく買ってるんだ」
冷やし中華と言えば、つい最近あきらが作ってくれたのを思い出す。
アレもなかなか美味しかった。
とかなんとか考えていると、幼馴染の手料理が食べたくなってくる。
「じゃあ俺は帰りますね」
「せっかく女の子の部屋に上がったのに、本当に何も手を出さずに帰るんだ?」
「揶揄うのはやめてくださいよ」
「別に揶揄ってないよ? 一応言っておくけど、柊喜君は僕の中で結構特別なんだから」
どういう意味だよ。
これ以上茶番に付き合っていても、ただ純情を弄ばれるだけなので俺は席を立つ。
「……では明日から個別メニュー追加で」
「はいはい」
ニヤニヤといつも通りの笑みを浮かべる先輩に俺も苦笑しつつ、別れた。
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